第二十二話
第二十二話
「…え?」
突然の質問に俺は混乱した。
そんなことを聞かれるなんて思ってもいなかったんだ。
「紡君は、舞歌のこと好き?」
要領を得ない俺に、静歌さんは先程と同じ言葉を、先程よりもしっかりとした口調で聞く。
意図が全くつかめない俺は静歌さんの顔を見る。
彼女は正面を見てはいたけど、その顔はとても真剣で。冗談を言っているようには思えなかった。
「…それは、好きか嫌いかって聞かれれば好きですけど…」
「そうじゃなくて。私が聞きたいのは、紡君が舞歌のことを、異性として好きかどうかってこと」
意図がわからないまま、とりあえず答えた無難な返しは、あっさりと遮られ、逆に逃げ道を塞ぐように、核心的な内容を問われる。
それは、俺が一番聞かれたくない内容だった。
「…なんでそんなことを聞くんですか?」
答えが出てなく答えることができれない俺は、そう逃げる。
けど、静歌さんは逃げることを許してはくれなかった。
「紡君。質問に質問で返すのはいけないと思うよ?」
「………」
言葉に詰まる。それは、確かに正論だったから。
訪れる沈黙。
どんなに考えたところで、答えなんか出るわけもなく。
頭の中を、舞歌と元彼女のあいつの顔が、ぐるぐると飛び交う。
「紡君」
そんな風に軽く錯乱する俺を現実に戻したのは、静歌さんの声だった。
「いきなりこんなこと聞いて混乱させてしまって、ごめんなさいね…。でも、どうしても聞いておきたかったのよ。あなたのために」
「…どういう意味ですか?」
真意を問おうとして静歌さんの顔を見る。
その時初めて車が停まっていることに気付いた。
「…自分の子供が大切じゃない親はいないわ。それと同様に、自分の子供が好きな人も、親にとっては大切なのよ」
「……え?」
「舞歌はね、あなたのことが好きなのよ。友達としても、異性としても」
「―っ!」
どくん、どくんと、心臓の音がうるさい。まるで耳元で鳴っているかのようだ。
静歌さんのいきなりの告白は、俺の鼓動を一気に高める。
舞歌が好き?俺のことを?
俺はそこまで鈍い人間ではない。
けど、舞歌の行動はいつも突拍子がなくてめちゃくちゃで。
嫌われてはいないと思ってはいたけど、異性として好かれているとは思ってなかった。
「…勘違い、なんじゃないですか?」
素直にそれを信じることができない俺は、静歌さんに問う。
しかし、静歌さんは首を横に振った。
「舞歌の成長を見続けて十八年。あの子が好きな人の話しをする時の表情くらいわかるわ」
「………」
驚きと不安と嬉しさで、言葉を返せなかった。
疑問が頭を周りだす。
舞歌となら付き合ってもいいのか?
また裏切られたらどうするんだ?
そもそも俺は、舞歌のことを異性として好きなのか?
そんな、疑問が。
けど…
「舞歌はあなたのことが好き。…だからこそ、舞歌はあなたに告白はしないし、逆に告白されても付き合わないわ」
「……え?」
…たいして悩む間もなく、そんな疑問の全て打ち消す内容の言葉が、静歌さんの口から飛び出したんだ。
「だから紡君も、今舞歌のことを好きじゃないなら、そのまま好きにならないでほしいし、もし今好きなら、申し訳ないけど諦めて…」
「…ちょ!ちょっと待ってください!」
一方的に話しを締め括ろうとする静歌さんに制止ををかける。
一度にいろいろなことを言われて、俺の頭はパンク寸前だった。
「いったいどういうことなんですか!?舞歌が俺のことを異性として好き?だから付き合わない?だから諦めろ?意味がわかりませんよ、全然!きちんと順を追って説明してください!」
「…ごめんなさい。説明はできないの」
「なんでですか!?なんで説明…」
「聞けば、優しいあなたは、舞歌から離れられなくなるから」
「…どういう、ことですか…?」
静歌さんは、俺から視線を外し俯く。
「…ごめんなさい。それも説明できないの」
「なんで…」
「ごめんなさい」
「………」
有無を言わさない口調と、俯く静歌さんの悲しそうな表情を見たら、何も言えなかった…
その後はお互い一言も口を開かず…
いつ家に着いたのか、どうやって自分の部屋までたどり着いたのか、そのことすらよく覚えてなくて。
ベッドの上。仰向けに横たわりながら、俺は舞歌のことだけを考えていた。
“舞歌はあなたのことが好き。…だからこそ、舞歌はあなたに告白はしないし、逆に告白されても付き合わないわ”
…その言葉が、頭から離れなかった。