表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風花  作者:
25/112

第二十二話

第二十二話




「…え?」



突然の質問に俺は混乱した。

そんなことを聞かれるなんて思ってもいなかったんだ。



「紡君は、舞歌のこと好き?」



要領を得ない俺に、静歌さんは先程と同じ言葉を、先程よりもしっかりとした口調で聞く。


意図が全くつかめない俺は静歌さんの顔を見る。

彼女は正面を見てはいたけど、その顔はとても真剣で。冗談を言っているようには思えなかった。



「…それは、好きか嫌いかって聞かれれば好きですけど…」

「そうじゃなくて。私が聞きたいのは、紡君が舞歌のことを、異性として好きかどうかってこと」



意図がわからないまま、とりあえず答えた無難な返しは、あっさりと遮られ、逆に逃げ道を塞ぐように、核心的な内容を問われる。

それは、俺が一番聞かれたくない内容だった。



「…なんでそんなことを聞くんですか?」



答えが出てなく答えることができれない俺は、そう逃げる。


けど、静歌さんは逃げることを許してはくれなかった。



「紡君。質問に質問で返すのはいけないと思うよ?」

「………」



言葉に詰まる。それは、確かに正論だったから。



訪れる沈黙。


どんなに考えたところで、答えなんか出るわけもなく。


頭の中を、舞歌と元彼女のあいつの顔が、ぐるぐると飛び交う。



「紡君」



そんな風に軽く錯乱する俺を現実に戻したのは、静歌さんの声だった。



「いきなりこんなこと聞いて混乱させてしまって、ごめんなさいね…。でも、どうしても聞いておきたかったのよ。あなたのために」

「…どういう意味ですか?」



真意を問おうとして静歌さんの顔を見る。

その時初めて車が停まっていることに気付いた。



「…自分の子供が大切じゃない親はいないわ。それと同様に、自分の子供が好きな人も、親にとっては大切なのよ」

「……え?」

「舞歌はね、あなたのことが好きなのよ。友達としても、異性としても」

「―っ!」



どくん、どくんと、心臓の音がうるさい。まるで耳元で鳴っているかのようだ。


静歌さんのいきなりの告白は、俺の鼓動を一気に高める。


舞歌が好き?俺のことを?



俺はそこまで鈍い人間ではない。

けど、舞歌の行動はいつも突拍子がなくてめちゃくちゃで。

嫌われてはいないと思ってはいたけど、異性として好かれているとは思ってなかった。



「…勘違い、なんじゃないですか?」



素直にそれを信じることができない俺は、静歌さんに問う。

しかし、静歌さんは首を横に振った。



「舞歌の成長を見続けて十八年。あの子が好きな人の話しをする時の表情くらいわかるわ」

「………」



驚きと不安と嬉しさで、言葉を返せなかった。


疑問が頭を周りだす。


舞歌となら付き合ってもいいのか?


また裏切られたらどうするんだ?


そもそも俺は、舞歌のことを異性として好きなのか?


そんな、疑問が。



けど…



「舞歌はあなたのことが好き。…だからこそ、舞歌はあなたに告白はしないし、逆に告白されても付き合わないわ」

「……え?」



…たいして悩む間もなく、そんな疑問の全て打ち消す内容の言葉が、静歌さんの口から飛び出したんだ。



「だから紡君も、今舞歌のことを好きじゃないなら、そのまま好きにならないでほしいし、もし今好きなら、申し訳ないけど諦めて…」

「…ちょ!ちょっと待ってください!」



一方的に話しを締め括ろうとする静歌さんに制止ををかける。

一度にいろいろなことを言われて、俺の頭はパンク寸前だった。



「いったいどういうことなんですか!?舞歌が俺のことを異性として好き?だから付き合わない?だから諦めろ?意味がわかりませんよ、全然!きちんと順を追って説明してください!」

「…ごめんなさい。説明はできないの」

「なんでですか!?なんで説明…」

「聞けば、優しいあなたは、舞歌から離れられなくなるから」

「…どういう、ことですか…?」



静歌さんは、俺から視線を外し俯く。



「…ごめんなさい。それも説明できないの」

「なんで…」

「ごめんなさい」

「………」



有無を言わさない口調と、俯く静歌さんの悲しそうな表情を見たら、何も言えなかった…




その後はお互い一言も口を開かず…


いつ家に着いたのか、どうやって自分の部屋までたどり着いたのか、そのことすらよく覚えてなくて。



ベッドの上。仰向けに横たわりながら、俺は舞歌のことだけを考えていた。



“舞歌はあなたのことが好き。…だからこそ、舞歌はあなたに告白はしないし、逆に告白されても付き合わないわ”



…その言葉が、頭から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ