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風花  作者:
14/112

第十三話(前半)




それは、週明けの月曜日のことだった。


朝、いつものように起き、いつものように朝食と昼食の準備をした。

いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ時間に学校に着いた。


そしていつもと同じように教室に入って…



「議長!被告人が到着しました!」

「よし!直ちに確保しなさい!」

「……は?」



いつもとは違い、やけに殺気立ち、やけに団結したクラスメートに拘束されたんだ…






第十三話






「さて。被告人草部紡。何か言いたいことは?」

「とりあえず俺を解放しやがれ」



自分でも驚くくらいにドスの効いた声を、目の前に立つ女子生徒へと向ける。


教室に入った俺は、クラスでもがたいのいい男子生徒数人に両腕を押さえ付けられ、意味のわからないまま、教壇の横の床に無理矢理正座させられた。

そして彼等が議長と呼ぶ、このクラスの委員長“佐藤梢さとう こずえ”に、そう訳のわからないことを言われたんだ。



「ふむ。自分の立場がわかっていないみたいだね、ワトソン君」

「ああ。俺にはお前の、そのハッピーな頭の中は一生わかりそうにもないよ」



ホームズかぶれの彼女に、俺はわかりやすい毒を吐く。

彼女は俺の想像通り、頬をひくつかせた。


――彼女、佐藤梢は、舞歌と同じく自由人に分類すことが出来る。

しかし舞歌とは違い、目立ちたがり屋で(舞歌の場合は、意識しないで目立っている)委員長にも自ら立候補したらしい。それに思ったことは全て顔に出るタイプの為、舞歌とは違って、とても扱い安かった。



「ず、ずいぶんと好き勝手言ってくれるわね…」

「いいから早く俺を解放するか、用件を言え。俺がキレる前に」



俺の言葉にびびり、顔をひくつかせていた彼女であったが、みんなの前にいるという見栄と自尊心のためか、虚勢を張り、声を出した。



「あんた、土曜日どこにいた?」



その言葉で、彼女が、彼女達が、なぜこういう行動に出たのかを理解した。

なるほど。こういう田舎だと、色恋沙汰が一番身近で一番楽しい話題なのだろう。


当事者としてはいい迷惑だが。



状況が理解できた俺は、目の前のアホをひとまず放置し、もう一人の“当事者”の姿を探す。



「………」



当事者、舞歌はあっさりと見付かった。ただ、彼女の姿を見付けた時、俺は衝撃を受けた。

舞歌は自分の席で、普段は見せることのない苦笑いを浮かべていたのだから。


理由は…語るまでもないだろう。



「隠そうとしても無駄よ!すでに証拠はあがって…」

「舞歌と一緒に、総合店にいた」

「…る……最後まで言わせてよ…」

「時間の無駄だ」



落ち着いて考えてみれば、当然の結果だった。

娯楽施設の少ないこの地域で、しかも休日ともなれば、あの総合店にこの学校の生徒がいてもおかしくない。

その中で、俺達がいた時間に居合わせ、あの広さの店内で俺達を見掛けた生徒がいても、おかしくはなかった。どんなに低い確率であったとしても、0ではないのだから。



「…あんた、本当に好き勝手言ってくれるわね…」

「お前がそこまで騒ぐってことは、写真かなにかの証拠があるからだろ?なら隠しても無駄だ」

「潔いんだがなんだか…。で?」

「舞歌に案内をしてもらった。以上」

「んな訳ないでしょ!!」



騒ぐ佐藤に冷たい視線を送る。が、今回、佐藤は怯まなかった。



「ふふふ。そんな怖い顔しても無駄なんだから。こっちには、こういう写真があるんだもの!」



そう高らかに叫び、右手を高らかに掲げる。

そこにあったもので、舞歌の苦笑いの本当の意味を悟った。



「ずいぶん仲良さそうに手なんか繋いじゃって。都会の人は本当に手を出すのが早いわね」



平均よりも小さい胸を張り…張りすぎ反り返っている馬鹿を無視し、俺は舞歌に目をやった。


舞歌もどうやら俺を見ていたらしく、すんなりと視線が絡まる。

数秒のアイコンタクトののち、先に視線を反らせたのは、舞歌の方だった。

気まずそうに俯き、先程の苦笑いを浮かべる。


…どうやら俺は誤解していたらしい。舞歌が苦笑いを浮かべていたのは、佐藤一派に追求されたからではなく、俺に迷惑をかけたと思ったからだ。

もしも、追求されて苦笑いを浮かべていたのなら、俺と目があった時、視線を反らさず、呆れたような苦笑いを浮かべていたはずだ。


そうせず俯いたということは、そのことに罪悪感を感じたからだろう。



そんな、彼女らしくない行動に、なぜか無性に腹が立った。あのくらいのことで俺が迷惑していると思った彼女に、非情に苛立ちを覚えた。


そんな顔は、舞歌に似合わないと本気で思った。



「まあ、お前みたいなチンチクリンには手を出さないけどな」

「なっ…!?」



だから、彼女のその表情を、いつもの笑顔に変えたくなったんだ。どんな手を使っても。



「舞歌とは付き合ってる訳じゃない。でも、俺は舞歌と手を繋ぐのは嫌じゃなかった。恥ずかしい気持ちはあったけど、舞歌の嬉しそうな笑顔を見てたら、それもほとんど気にならなかった」

「………」



俺の言葉に、教室内の誰もが騒ぐのをやめ、静まり返っていた。

チンチクリンこと、佐藤から視線を舞歌に移すと、大変楽しいことに、舞歌は豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をしていた。



「手を繋ぎたがったのは舞歌だけど、それを受け入れたのは俺だ。多分、舞歌じゃなかったら受け入れなかった。そこに恋愛感情があるのかどうかなんてわからない。けど、チンチクリンよりも好感度は高いな」

「……だ、誰がチンチクリンよっ!!?」



俺の、最初の『チンチクリン』でフリーズしていた佐藤が、二度目の『チンチクリン』て意識を取り戻す。

いまだに座らされている俺の胸倉を掴み、声を荒げた。



「私のどこを見たらそんな感想が言えるのかしら!?」

「いや、一目瞭然だから。平均以下」

「〜〜っ!!」



身長。体重。スリーサイズ。この三種の神器が、見た目で全て平均以下だとわかるのが、彼女、佐藤梢の特徴だ。彼女の名前を知らなくても、全体的に小さい女の子、で聞けば、この学校内では誰もが彼女のことを指すだろう。


本人はそれをかなりのコンプレックスにしているみたいだが。



「ぶっとばーす!!」

「あー!委員長!ストーップッ!!」

「安心しろ。一ノ瀬。チンチクリンだから頭を押さえれば手も足も届かない」

「うきーーっ!!」

「あー落ち着きなって!!草部もそれ以上挑発しないでくれ!」



俺と佐藤の間に入ってきたのは“一ノ瀬智也いちのせ ともや”このクラスの副委員長で、佐藤のストッパー役の苦労人だ。

佐藤のストッパーが出来るくらい大人でいいやつなのだが、俺はいまだに心を許しきれてはいなかった。



「一ノ瀬。これは挑発している訳じゃねーよ。朝っぱらから溜まったストレスを発散しているだけだ」

「気持ちはわかるけど、抑えてよ!」



佐藤関係では、いろいろと話してはいるけど。



「気持ちがわかるなら、もう少し早く仲介に入れよな」

「それは…ごめん…」



苦笑いを浮かべながら視線を反らす一ノ瀬。どうやらこいつも、興味があったらしい。


気持ちはわからないでもないが、当事者としては、やはり腹立たしかった。



「もういい。とりあえずもうすぐ授業が始まるから俺は席に行く」



これ以上言い合いをしていてもいらいらするだけなので、俺はそこで話しを打ち切り、いまだに俺を押さえている男子に手を離させ、服の乱れを直し席に向かった。



いまだに騒ぐ佐藤。それをなだめる一ノ瀬。転校初日と同じようにざわつきながら俺に視線を向けるクラスメート。

それらを、その全てを無視して、俺は、ようやくたどり着いた自分の席で、大きく息をはいた。


苛立った頭を、少しでも落ち着ける為だ。

今回は長いので、二部に別れています。

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