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風花  作者:
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第十二話

第十二話




「…ここが?」

「うん。そう」

「……寂しい所だな」

「…私しか使わないからね…」



隠された階段を舞歌に手を引かれ登り切り、たどり着いた舞歌の秘密基地。


そこは周りを木々に囲まれた、二十メートル四方の、小さな空間だった。

右端の方には、錆び付き動くかどうかわからないブランコ。それより手間には同じく錆び付いたシーソー。左端にはボロボロになった滑り台と砂場が佇み。


そこは忘れ去れた場所。


彼女以外は利用することのない、賑わいを忘れた、孤独な公園だった。



「確かに寂しい所だけどね、ここは私のお気に入りの場所なんだよ」



舞歌は俺の手を引き、公園内にあるベンチの一つに向かい歩き出す。



「例えば春。このベンチに座って目を閉じていると春の伊吹を感じられる。例えば夏。アイスなんか食べながらここにいると、とても涼しいんだよ」



俺の手を離し、古びたベンチに腰をおろし、舞歌は空を見上げる。



「例えば秋。夕暮れ時には虫達のオーケストラが聞こえる。そして、冬。もう少し寒くなったらかな?風花が、一番綺麗に見えるんだ。ここは」

「かざ、はな?」

「知らないの!?」



驚いた顔を見せる舞歌。いつもとは逆の立場のようだった。



「ああ。聞いたことすらないよ」

「へー…。常識じゃなかったんだ。まぁ、そっか。雪が降らない東京には関係ないもんね」

「雪、なのか?」



降らないわけではないんだけど、その反論を飲み込み、俺は舞歌に尋ねた。



「んー、まあ雪の一種かな。風花はね、空から降ってくるものじゃなくて、空を舞ってくるものなの」

「…いまいちわからないんだけど?」



首を傾げる俺に、舞歌は、あのね、と説明をしてくれた。



「風花っていうのは、さっきも言ったけど、空から降ってくる雪じゃないの。山頂なんかに積もって残った雪が、風に運ばれて舞う雪なの。だから、風花が舞う時は、空が晴れてることもあるんだよ」

「…想像すら出来ないな」

「まあ、見たことがないなら仕方ないよ」



そう言って、恋人の帰りを待つ少女のような表情で、舞歌は空を見上げた。



「このベンチに寝そべりながらね、満天の星空で踊る風花を見るのが、私の冬の一番の楽しみなんだ。ちょっと、寒いけどね」



嬉しそうに空を見上げている彼女にならい、俺も空を見上げてみる。


一切遮るものが無い広い空。

張り巡らされた電線も、整列するビル達もいない、広い空。


こっちに引越ししてきて、見上げた夜空に声を失った。本当の星空がどういうものなのかを教えられた。


心洗われるような、感動を覚える星空。

そこに、雪というオプションが加わったら?


星空の下に降る雪を、俺は想像すら出来ない。


けど、見たいと思った。そんな幻想的な風景を。



「なあ、舞歌」

「なあに?」



お互い空を見上げたままの会話。

きっと舞歌は、俺が言いたいことをわかっている。

そして俺も、舞歌の答えはわかっていた。



「俺も、そんな光景を見たい。この場所で」

「うん。いいよ」



想像通りの答えが、待つ間も無く返ってくる。

そして申し合わせた訳でもないのに、同時にお互い相手に顔を向ける。



「この場所で見たいなら、どうぞご自由に」

「……へ?」

「私はね、ここを紡君に知ってほしかった。一人で秘密にしておくのも楽しいんだけど、でも秘密を共通する仲間がいたらもっと楽しいと思ったんだ。だから私は紡君をここに案内した。だから、紡君は好きな時にここに来ていいからね。風花が見たいなら、どうぞご自由に」

「……マジか?」



予想外の言葉を繰り返した舞歌に目を丸くしていると、彼女はニヤリと笑った。



「う・そ!一緒に見よう。二人で見た方がきっと楽しいから」

「……サンキュー」



わずかにあいた時間は、ため息の時間だった。あからさまな嫌みだが、それでも舞歌は楽しそうに笑っていたんだ。



「うん!あ、でもここのことは内緒だからね!」

「わかってるよ」



お互い同時に微笑みあい、同時に、再び空を見上げる。


見上げた空は、雲一つ無く澄み渡っていた。

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