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風花  作者:
112/112

風花SideStory最終話



「……なんで?」



 もう一人の被害者、舞歌が静かに口を開いた。



「なんで、こんなことしたの……!?私……本当に、どうしようかと思ったんだから!」



 先程と同じように瞳に涙を溜めながら、舞歌は私にほえた。彼女の瞳には明らかな怒りが浮かんでいて。


 ちょっとやり過ぎたことを反省しながら、私は舞歌の瞳をまっすぐと見返し言う。



「仕返し、よ」

「しかえし……?」



 なんのことかわからないという表情の舞歌。それはそうだろう。彼女達にそのつもりはなかったのだから。



 髪をかきあげ、私は目を細める。それを見た舞歌が、肩を震わせた。主導権を完全に掌握したことに満足しながら、私は続ける。



「そう。仕返し。さっきも言ったけど、あんた達、私の気持ちに気づいてたんでしょ?」

「……うん。そうだよ。真希は私達の大切な親友だもん。よく見てるもん。だから、真希が紡のことを目で追っていることにすぐ気づいた。……真希がその想いを終わらせようとしているのも、わかった。だから私達は気づかないふりをしていたの。真希は優しいから、私達が気づいたら、距離を置いてしまうと思ったから。けど……!それが理由で怒っているにしろ、さっきのは……」

「違うわ。そのことに関しては感謝してるの。そのおかげで、今日まで私はあんた達と楽しく過ごすことが出来たんだから」

「じゃあなにが……」

「ねえ。舞歌」



 舞歌の言葉を遮り〜私は笑顔を浮かべる。その笑顔に、舞歌が息をのむのがわかった。


 それを確認して、私はその笑顔を紡へと向ける。



「それに、紡」

「な、なんだ……?」



 舞歌と同様に、息をのみ怯む紡。二人の顔を順番に見て、私はゆっくりと口を開いた。



「私がムカついたのはね、あんた達がバカップルだってことよ」

『……は?』



 やっぱり自覚なしか、と二人の馬鹿面を見て再確認した。笑顔を絶対零度のものへと変化させると、二人は面白いくらいに狼狽する。

 しかし私はその表情を戻さない。まだ仕返しは終わっていないのだから。



「二人ともいい趣味よねー。私の気持ちを知りながら、毎日毎日いちゃいちゃいちゃいちゃ。本当に私のことが大切なら、少しくらい自粛してもいいんじゃないかしら?」



 視線をさ迷わせながら紡が答える。



「あ、いや……それは……」

「おかげで私がどれだけ苦しんだか」



 舞歌が口ごもりながら言う。



「だって……その……」

「初めての彼氏だから、我慢出来なかったの?」

「……」



 舞歌の言葉を奪い、冷めた視線を送りながら言うと、彼女は怯えながらも、頷いた。


 これだから恋愛初心者のバカップルは。


 人のことを言えない感想を抱きながら、思い切りため息をつく。


 そのまま腕時計に視線を落とし、時間を確認する。



 ――そろそろ舞歌に麻酔をする時間か。……じゃあ、終わらせよう。二人をからかうのも、私の想いも……。



 一度目をつぶり、古い息を吐いて新しい息を取り込んで。そうして気持ちを落ち着かせ、勇気を出す。



 さあ、終わりにしよう。



「……ねえ、舞歌。紡」

「……なに?」



 流石私の一番の親友だ。あれだけ私に振り回されていたくせに、私の内心の変化に敏感に反応する。


 涙は引っ込み、代わりに浮かぶカリスマの瞳。私の、憧れの瞳。その瞳をまっすぐ見つめ返しながら言う。



「私ね、本当に紡が好きなの。そして、それと同じくらい、舞歌のことも好き。二人が一緒に笑っている姿を見ているのが、大好き」



 二人に向ける、偽りのない笑顔。多分、私が生きてきたこの十八年の中で、一番いい笑顔。



「私が好きになったのは、舞歌のために一生懸命な紡。ただの紡じゃなくて、舞歌と一緒にいる時の紡に私は惚れたの。だからね……」



 二人と同じように床にしゃがむ。舞歌と紡の手を取り、重ね合わせ、私は笑った。



「幸せになりなさい。あんた達には、その義務がある。他の誰でもなく、私のために」

「真希……」



 私の名前を呟いた舞歌の頭を、私は優しく撫でる。



「私は泥沼なんて望まない。二人を引き離すことも望まない。私が望むのは、二人との共存。親友として、二人とずっと付き合っていきたいの。だから……」



 正直、この先をいうのには、まだ抵抗がある。終わらせると決意したからといって、紡への“好き”がなくなったわけではないから。


 でも……。この先も二人と一緒にいたいから。ありのままの自分で、自分のことを許せる自分で二人と笑っていたいから。


 だから……。



「私は……紡を異性として見ることをやめるわ。一人の友人として、親友として見ていくことにする」

「真希……」



 私の言葉に、舞歌は目を見開く。



「そんな……さっき大騒ぎした私が言うのもあれだけど、そんな無理して……」

「無理なんかしてないわ。自棄になったわけでもない。このままの関係でいても私が疲れるだけだし、なにより、あんた達に甘える形になる自分が許せないの。だから……終わらせるのよ。この恋を」



 視線を舞歌から紡へ。


 ……もしかしたら、私の瞳には涙が浮かんでいるのかもしれない。胸にも、痛みがある。


 けど、気分は、とても清々しかった。



「紡。あんたのことを好きになれて、私は幸せだった。あんたのことを好きで、よかった。紡……ありがとう」



 紡は、私の瞳を見ては視線を逸らし、また私の瞳を見て。それを二、三回繰り返してから、口を開いた。



「真希。その……俺は……」



 言いかけた紡の唇を人差し指で押さえ言葉を止める。



「紡。謝らないで。私、今とってもいい気分なの。その気持ちに、水を差さないで」

「真希……」



 戸惑いの表情の紡にくすりと笑いかけ、顔を舞歌へと向ける。



「舞歌。最初で最後だから、いい?」



 なにを、とあえて言わなかった目的語。しかし、舞歌はそれをしっかりと理解したようだ。



「……一回だけだからね」



 そう言い、紡から離れ背を向ける舞歌。私は親友の優しさに感謝しながら、紡に手を伸ばした。



「真希……?なにを……?」

「いいから黙ってて」



 舞歌とは違いわかっていない紡の言葉を遮り、紡の頬に手を添える。そこで紡もようやく気づいたようだ。私がなにをするつもりなのかを。



「真希!まっ……」

「待たない」



 焦る紡の言葉を遮り、私は紡の口、ではなく、手を添えた反対の頬にキスをした。


 ヒュー、と知子が口笛を吹いたが、私は無視し、顔を紡の正面に移してウインクをする。



「私があんたにする、最初で最後のキス。二人には悪いけど、一生の思い出にさせてもらうわ」

「……」



 私がキスした頬を押さえ赤くなっている紡を見ていると、思わず泣きそうになる。


 だから私は彼から顔を逸らし、悪友へと向けた。



「ねえ。知子。舞歌の手術が終わったら、私の失恋記念に、どこかにランチにいかない?」

「記念なの?ま、いいわよ。付き合ってあげる。ついでにカラオケも行く?」



 きっと私の瞳には涙が浮かんでいるはずなのに、それに気づかないふりをして、しかも慰めようとしてくれる知子に、私は胸の中で感謝した。



「いいわね。思い切り叫びたい気分なの」

「えー!じゃあ私も行くー!」



 背を向けていた舞歌が、私達の会話を聞き、振り返り声をあげた。ちなみに、紡はまだ放心中だ。



 小さく深呼吸。目を閉じて気持ちを落ち着かせ。涙を拭ってから、私は振り返り、舞歌に冷めた目を向ける。



「……あんた、これからなにがあるか、わかってるわよね?」

「……手術デス」



 私の視線を受け、舞歌は縮こまった。私は続ける。



「私達はね、あんたの手術が終わってから遊びに行くって話をしているの。意味、わかるわよね」

「……ハイ。安静にしていマス」

「よろしい」

「紡ーっ!真希がいじめるーっ!」



 始まったいつものやり取り。硬直から立ち直った紡が舞歌をあやし。それを見ながら、私は、笑った。



「舞歌。紡」



 振り返った二人に、私は微笑んだ。そして伝える。これからも変わらない、この気持ちを。



「これからも、よろしくね。親友」



 二人は顔を見合わせ、そして私に向かって満面の笑みを見せた。



『もちろん!』



 私は改めて思う。この二人に出会えて、本当によかったと。



「そういえばさ、あのバカはどうするの?」

「あー。そういえば」



 知子の言葉で、私は政樹のことを思い出した“ふり”をした。本当はずっと覚えていた。言われるまでもなく、ランチに行く前に食事と薬を持って看病に行くつもりだったのだ。



 私は小さく口元を緩める。


 今度こそ誰にも気づかせてやらない。気を使わせてやらない。


 私は、私の自由に恋をする。



「ねえ、知子。自宅でカラオケが出来る機械ってあるじゃない?あれっていくらくらいするのかしら?」

「ああ、あれ。さあ?詳しいこと知らないけど。なんで?」



 知子の質問に、私はにやりと笑った。



「政樹の枕元で熱唱したら、楽しいと思わない?」



 悪戯な私の笑顔に、きょとんとしていた知子だが、やがて私と同じように笑った。



「いいわね。それ」

「でしょ?」




 今はまだ、恋でないのかもしれない。紡の代わりを求めているだけなのかもしれない。


 けど、それでも、私が“彼”に好意を抱いているのは確かで。



 恋ではないのかもしれない。他に好きな人か出来るかもしれない。



 けど、もしそうなったら。今度は。今度こそは。



「覚悟しときなさいよ」



 私は笑った。いまだに熱にうなされているであろう、馬鹿なお人よしを思い浮かべて。



 さあ。新しい恋を始めよう。



 自分をごまかさない、自分を許せる、自分だけの恋を。



 私達は、まだ、始まったばかりなのだから。




fin

皆様ご愛読、どうもありがとうございました!



風花SideStory〜真希の恋〜ついに完結しました!



いやー執筆遅くてすいませんm(__)m


いろいろありまして……(汗)



ですが皆様の応援のおかげでついに完結することができました!



本当にありがとうございます!



最後に納得のいかない人もいると思います。



結局真希と政樹はどうなったの!?


という質問がばしばし届きそうです(苦笑)



ですが、あえてここで完結です。


二人のその後は皆様のご想像にお任せします。



なにはともあれ、今日まで風花をご愛読ありがとうございました!

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