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風花  作者:
109/112

風花SideStory15



 空の涙が頬伝い、地面に新たな染みを作っていく。


 洋服は水を吸い続け、ついに下着にまで達して気持ち悪い。

 変えたばかりなのにまた下着を変えなくてはいけないなんて、とても非効率だ。

 なんて他人事のように考えられる自分がいたことに少し驚きながら私は政樹の言葉を聞いていた。


 今の街のように頭には靄がかかって、彼の話の意味が、あまり理解できない。


 少し考えればわかるって、なにが?

 政樹が私を待っていた理由って?

 二人が黙っていたことに理由なんてあるの?


 わからない。わからない。わからない。わから――



「真希」



 ……不思議なことに、政樹が私の名を呼んだだけで、私の混乱は自然とおさまった。

 頭の中がクリアになったわけではないが、少なくとも彼の話を聞くくらいは、出来そうだった。



「わからない?俺の言葉の意味」



 政樹の問いに、私は頷く。

 そんな私の行動が面白かったのか、政樹は小さい笑みを浮かべた。



「頭、きちんと使えって。昼間のお前なら、すぐにわかったはずだぜ?」



 そう言って私の頭を撫でる政樹。彼の、そんな子供をあしらうような態度に、私の頭は怒りを思い出す。



「……私のこと、なにも知らないくせに……!」



 そうして怒りを表に現す。けど、言葉にも、彼を睨みつける私の瞳にも、力は、なかった……。

 政樹は言う。



「確かに俺は真希のことを知らない。舞歌のこともそうだし、紡だって今じゃお前の方が詳しいだろ。けどな、真希。わかっているからこそ、近くにいるからこそ、見えなくなっているものがあるんじゃないか?」

「見えなく、なっているもの……?」

「ああ。っていうか、臆病になってるだけだな。真希の場合は」



 私は政樹の言葉がいまいちよくわからなかった。

 いや、私も馬鹿じゃない。政樹が、私が舞歌達から離れることに臆病になっていると言っていることはわかる。

 しかし、それから先。だからなんだ、ということがわからなかった。



「……だからなに?あんたはなにが言いたいの?」



 そのままの言葉を政樹に投げかけると、彼は小さく笑った。



「まあ、簡単に言えば、心配する必要はないって言ってるわけだ」

「……?」



 今度こそ、彼の言葉は全く理解出来なかった。なにを心配するなと彼は言っているのだろうか?


 私が理解していないことを感じたのか、政樹は頭をかきながらさらに言う。



「つまり、真希が紡に『好き』って言っても、お前達の仲は変わらない、ってことだ」

「そんなこと……」

「あるから俺はここにいるんだぞ?」

「……っ!」



 政樹の言葉に、私はなにも言えなくなる。

 今になってようやく活動を再開した脳が、彼の言葉は正しいと判断したからだ。


 政樹の人柄を視野に入れて一連の流れを考えれば、すんなりと答えにたどり着く。


 彼は基本的にいい人だ。それに加えて常識人でもある。


 そんな彼が、私をいたずらに混乱させるような、絶望の淵に追いやるような、そんな行動をするであろうか?


 答えは……否、だ。


 つまり、彼の言葉は正しいということ。



 ……私は目を閉じ、小さく息をつく。そうやって頭と心を落ち着けてから、ゆっくりと目を開いた。



「……詳しいこと、教えてもらえる?とりあえず、中で」



 その提案に、政樹は笑顔で頷いた。






「ったく。あんたのせいでびしょ濡れじゃない。どう責任とってくれるわけ?」



 紡の家に入るなり、私は政樹に向かい非難の言葉を浴びせる。

 何泊かする予定だったので、予備の着替えはある。とはいえ、この家に洗濯機はない。つまり着た服、濡れた服は洗濯出来ないのだ。

 政樹にコインランドリーまで案内させて、その時費用を払わせよう。


 そんなことを考えながら、リビングに行き、私は鞄の中のタオルを探した。

 そんな私に政樹は言う。



「……お前、いきなり元気になったな」

「開き直っただけよ。混乱した頭じゃ正確な判断は出来ない。あんたから話しを聞いて、きちんと理解して。どうしたいか考えて、答えを出す。あんたを殴るのはその後」

「……俺は殴られるのか?」

「ぐーでね」



 理不尽だ、と嘆く政樹に、私は探し当てたタオルを投げた。



「とりあえず拭いたら?それと、着替えなさい。多分司さんの服があるはずだから」



 司さんの部屋で寝た時、彼の部屋にはチェストがあったことも確認している。

 中身は見てはいないが、戻ってくるのを前提にベッドを置いていった彼のことだ。おそらく少しくらい衣服も残っているはずだ。



「ああ。サンキュー。そうするわ」

「司さんの部屋、わかる?」

「ああ。何度か遊びにきたことあるからな」

「そ。ならさっさと着替えなさい。あ、政樹」



 司さんの部屋へ向かおうとしていた政樹を呼び止め、彼が顔をこちらに向けた時、私は彼に言い放った。



「今から私も着替えるけど、変なことは考えない方がいいわよ。確かキッチンに包丁があったから」

「殺す気かお前は!?」

「それはあんたの解釈に任せるわ。ここで着替えるから、あんたは私が呼ぶまで司さんの部屋から出てこないこと。出てきたらえぐるから」

「……了解デス」



 政樹は引き攣った顔を隠そうともせず頷き、リビングを出て行った。

 反論しなかったのは、いい判断だろう。



「さて、とりあえず着替えますか。まずはそれからね」



 話しを聞くにしても、状況を分析するにしても、一、二分で終わるようなものではない。

 その間ずっと濡れた服を着ているなど、絶対に嫌だ。


 私は鞄の中から着替え一式を取り出す。


 開き直った私は、妙に前向きだった。



「よし。じゃあ……」



 着替える前に、キッチンへと向かったのは、お約束。

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