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風花  作者:
104/112

風花SideStory10



「ねえ、真希。これなんてどう?」

「それは流石にきわど過ぎない?」

「……」

「そう?でも男はこういうのが好きなものよ。ねえ、政樹」

「そうなの?政樹もこういうのが好きなの?」

「……お願いだから俺に話題をふらないで……」



 白、赤、黒。様々な色、様々な形状の物が溢れかえっている店内。九割が女性客の店内において、政樹はかなり浮いた存在だった。

 二人の女を連れている、っていうのもあるんだろうけど、なにより彼が、顔を真っ赤にさせて挙動不審というのが最大の原因だろう。

 政樹の他にもう一人。彼女と一緒にいる男がいるが、彼のように自然にしていればなんの注目も浴びることもないだろうに。と、心にもないことを頭の片隅で思ったりする。実際は今の状況が楽しくて仕方なかった。



「へたれ。何恥ずかしがってんの?そんなんだから童貞なのよ」

「……お前、本気で殴るぞ?」

「はっ!やれるもんならやってみたら?その結果がどうなるか、わからないならね」

「くっ……!」



 私と同じように知子もこの状況を心から楽しんでいた。だがしかし、少し調子に乗り過ぎだ。

 政樹が知子を見る目が、まるで親の仇を見るようになっていて。


 はぁ、と小さくため息。わかってはいたことだが、この二人は仲が悪い。いや、政樹が一方的に知子のことを嫌っていると言った方が正しいか。

 今日まで彼女が原因で紡と仲たがいしてしまったのだから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、それにしてもおとなげない。紡が許し、認めているのだから、今更彼がどうこう言う筋合いはないだろうに。そう思えるのは、私が当事者ではないからだろうか?


 そんなことを考えながら、場所も考えず(単に頭に血が上って周りが見えていないだけだろうけど)に睨み合う二人を見て、もう一つため息をこぼす。

 頭の痛いことに、どうやら私が仲介役になるしかないらしい。


 最近つくことが増えたため息の回数を一つ更新して、私はゆっくりと二人の間に割って入った。



「はいはい。喧嘩しないの」

「真希……」

「だってこいつが……」



 政樹の言葉を、彼の顔の前に手をかざすことで遮る。この関係を改善させるには、まずは知子を説得する必要があったからだ。


 知子を呆れたように見上げ(身長じたいは同じくらいなのだが、彼女の履いているブーツのヒールが高いのだ)私は重い口を開く。



「知子。少しいじり過ぎ。喧嘩になりかけてるじゃない」

「喧嘩、って政樹が勝手に怒ってるだけよ」



 ふて腐れたように、知子は私から顔を背ける。

 私はそんな彼女の名前を、少しだけ強めに呼ぶ。わかっていたからだ。彼女も本当は反省しているということが。



「知子」

「……あー!わかったわよ!私が悪かった!調子に乗り過ぎてました!」



 逆ギレのような言葉を、私も政樹も見ないで言う。謝る、という行為に慣れていないのは、目に見えて明らかだった。

 そんな知子に内心でため息をつきながら、私は政樹にかざしていた手をおろし、顔を彼の方へと向ける。



「政樹も。知子に対して沸点が低すぎよ」

「だってあいつは……」

「政樹」



 知子と同じように反論しようとした政樹を、名前を呼ぶことで静止をかける。

 そうやって主導権を握った私は、彼を睨みつけながら言う。



「あんたが知子を嫌う動機もわかるわ。けどね、紡が許してることをあんたがどうこう言う義理、あると思う?」

「それは……」



 うつむくように私から目を逸らした政樹。彼もまた、わかっているのだ。知子へと向けている感情が、紡への罪悪感からきていることに。

 そんな彼の行動に、私は小さな笑みを浮かべて小さなため息をつく。今の政樹が、まるで出会った時の紡と被って見えたからだ。本当に、彼らはいい親友だ。


 くすり、ともう一度だけ笑顔を浮かべてから、一歩、政樹へと踏み出し、彼の顔を両手で挟んで無理矢理私の方へと向ける。

 突然のことに驚いた表情の政樹。そんな彼の目を、私は幼子に諭すような優しい瞳で見つめ返し、優しく言う。



「政樹。何も出来なかったふがいなさ、悔しさ、私にはよくわかる。……私も何も出来なかったから」

「真希……」



 舞歌を説得出来なかった時のことを思い出すと、今でもはらわたが煮え返りそうになる。もちろん、何も出来なかった自分に対して、だ。

 もうあんな思いはしたくない。するつもりもない。だから私は決めたんだ。もう、二度と繰り返さない、って。


 心配そうな声で私の名を呼んだ政樹に、私は、私の思いを込めた言葉を送る。同じ思いをしたからこそ言える言葉を。



「けどね、それを人にぶつけるの駄目よ。それは単なる八つ当たりにしか過ぎない。私達がしなきゃいけないのはそれを糧にすること」

「糧……?」



 疑問に眉を寄せる政樹。そんな彼に、私は頷き、続ける。



「そう、糧。同じことが起きた時、もう繰り返さないように、今度こそ救えるように、反省して、どうすれば救えたのかを考えて。そうやって、自分の糧にしていけばいいの。そうやって成長していけばいいのよ」



 綺麗事を言っている自覚はある。そんな簡単に割り切れるものじゃないこともわかってる。けど、それが本心。それが私の決意だった。

 そんな私の言葉が、想いが浸透していくに連れ、政樹の瞳の色が少しずつ変わっていく。

 もちろん曇っていた訳ではないが、澄んだものへと、そう、まるで舞歌や紡のような瞳へと変わっていったんだ。



「……そう、だな」



 一度閉じてから、ゆっくりと再び開かれた瞳。強い意思が浮かんだその瞳に、迷いはなかった。



「真希の言う通りだ。俺は紡に対して何も出来なかったのを、全部松島のせいにしてあたっていた……。そんなことをしてもなんの意味もないのにな」



 苦笑を浮かべる政樹。しかしどこか吹っ切れたような表情をしていて。

 ……その表情に、少しだけ胸が高鳴った。



「ありがとう。真希。胸のつっかえが取れた感じがするよ」

「そこで言い切れないのが、政樹らしいわね」



 そんな胸の高鳴りを隠しながら、私は政樹に笑顔返す。



「あー、いい雰囲気なとこ悪いんだけど、あんたらここがどこか忘れてるんじゃないの?」



 冷めた声が私達に向けられる。もちろん声の主は知子だ。

 彼女の言葉の意味にいち早く気づいたのは私だった。それと同時に私の悪い癖が騒ぐ。そう、悪戯心が。

 言葉の意味に、自分の今の体勢に気づき、茹蛸のように顔を赤くした瞬間の政樹の首に手を回し甘えた声を出す。もちろん服の下は鳥肌だらけだ。



「ねぇ、ダーリン。私、どれが似合うと思う〜?」

「はあっ!?」



 自分の行動に背中がかゆくなる。「あのカップル大胆ねー」などという言葉も周囲の視線も、もちろん恥ずかしい。しかし、それ以上に楽しかったんだ。今目の前で慌てふためいている彼の姿を見ているのが。



「ま、ままま、真希!お、おま、お前なに言って……!」



 ろれつが回っていない彼の言葉に、腹の中で黒い笑顔を浮かべる。やはり政樹は最高のおもちゃだ。



「ねぇ、政樹。これ、私に似合う?」



 そう言って、本来の役割を果たせるのかどうかわからないくらい布地の少ないそれを手に取り、政樹に尋ねる相棒。

 澄ました笑顔の下では、私と同じように黒い笑顔を浮かべているに違いない。



「――っ!」



 知子の横やりに更に顔の表面温度と脈拍をあげた政樹は、私の手を無理矢理解き、脱兎のごとく逃亡をした。

 少しいじめ過ぎたかもしれない。



「ねえ真希」



 私の横に並び、私と同じように政樹を見送りながら、知子が名を呼ぶ。先ほどまで手に持っていたものは、そこら辺に適当に戻したのか、今はもうない。



「なに?」



 彼女の方に顔を向けず、政樹の後ろ姿を目で追いながら聞き返す。



「あんた。結局私と政樹だけ悪者にして、自分のこと、棚にあげたでしょ?」

「あら、わかったんだ?」



 知子に向かい、不敵に微笑む。ごまかし、うやむやにするつもりだったのだが、どうやら彼女には通じなかったらしい。だからといって反省する気など、毛頭ないが。


 それが知子にもわかったらしい。大きいため息とともに、言う。



「この小悪魔が」

「あんたに言われたくないわよ。それより、ほら。政樹を追うわよ。見失うとめんどくさいし」

「あら、別にいいじゃない」

「あんたはいいかも知れないけど、私は政樹がいないと困るの。嫌よ。一晩をファミレスや満喫で過ごすなんて」



 人事だと思って、そう非難の眼差しを向ける私に、知子は悪戯な笑顔を返す。



「大丈夫だって。迷子の政樹くーん!お連れ様がお待ちでーす!って叫んでれば、すぐに飛んでくるわよ」



 彼女のその言葉に私は目を見開き、そうしてから、知子が浮かべているのと同様の笑顔を彼女に返した。



「それはいい考えね」

「でしょ?」



 サムズアップし合い、私達はゆっくりとそこを、ランジェリーショップをあとにした。



 ――政樹が無事に保護され、知子に謝ったのは、それから数分後のお話。

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