Prologue
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「わかった。じゃあ、別れて」
「……は?」
学校から程よい距離にあるいきつけのカフェに、俺は授業が終わった放課後、一年付き合った彼女を連れ出し大切な話しをした。
それは、俺達の今後の境遇を変える大切な話し。
その話しをした直後、彼女はそう言葉を返し…
その予想すらしなかった言葉に、俺は思わず間抜けな声を上げる。
「だから、別れてって言ってるの」
「お、おい!?なんでそうなる…」
「だって転校するんでしょ?」
狼狽する俺に、彼女は当然でしょ、と言わんばかりの表情で答えた。
――転校。
親父の仕事の都合で、俺達親子は急遽、長年住み続けてきたこの土地を離れることになった。
急に決まったそのことに、不満はあるが、別に嫌ではなかった。
親父の仕事の事は理解しているつもりだし、なにより幼い頃に死んだ母親に変わり、男手一つで今日まで育ててくれた親父に感謝しているし、尊敬している。
そんな親父に俺の我が儘で余計な心配と、余計な経済的負担をかけたくなかった。
だから俺は引っ越すことに同意し、そのむねを彼女に伝えたのだけど…
なぜそれが別れることに繋がるのか、意味がわからなかった。
俺はそんなつもりで言ったのではないのだ。
「俺は…」
「紡がどう思ってるのか知らないけどさ、私、遠恋とか無理だから。それに近くにいないなら付き合ってる意味ないでしょ?だから引っ越しするなら別れて」
「………」
呆然とする俺に、的確かつ利己的な台詞を告げる彼女。
…この瞬間理解した。
俺はこいつにとって“都合のいい男の一人”でしかなかったことに。
「それじゃ、そういうことだから。さよなら」
初めて、一年付き合ってきて初めてかいま見た彼女の本心、彼女の本質に言葉を失っていると、彼女はそう会話を一方的に締め括り、飲んでいたドリンクの料金を払うことなく、店を足早に出て行った。
その後ろ姿を呆然と見送りながら、俺は悟った。
呆気なく、本当に呆気なく、俺達の、いや、俺、“草部紡”の“恋愛ごっこ”は終わりを告げたんだと……