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明智小五郎(あけちしょうごろう)の事件簿3  作者: 鮫田鎮元斎
Part1 何気ない日常は突然壊れます
6/13

6 別に心情を聞くつもりはありません

○○○


 もうこれで最後だ。

 ようやく私の復讐が終わる。

 ナイフの扱いは十分に学んだ。今の私なら、格闘技をやっていない人なら殺せると思う。

 最悪、道連れにしてでも殺してやる。 

 裏切り者のあいつを……!


 角の向こうから犬の鳴き声がする。

 桃が飼っている犬の声だ。前に聞いたことがあるから間違いがない。


「どうしたの? ラッキー。吠えたら……っ!?」

「久しぶりだね、元気だった?」

「なんで……?」


 何も言う必要はない。ここで謝れないのは、わかってないってことだ!

 私は迷わずナイフを取り出して突進した。

 ご主人様の危機にラッキーが襲いかかってくるが、そんなことでひるむ私じゃない。

 殺してやるっ!

 見て見ぬふりをしたあんたも、同罪よっ!


 急に体が浮いた。空と地面が交互に見え、体に衝撃が走る。右手をひねられてナイフを落としてしまう。


「――18時26分、殺人未遂の現行犯で逮捕する」


 手錠をかけられてようやくわかった。警察が待ち伏せしてたんだ。

 どうして? どうして私は捕まったの?

 今までずっと、逃げられてたのにっ!


















○○○


「お手柄だったね、高校生探偵君」


 犯人逮捕の知らせを受けて、俺は安心するあまり脱力してしまった。(ちなみに薫のハンバーグはおいしくいただきました)

 あぶねー。読み違えてたら詰みだった。


「よかったです。間違ってないかひやひやしてましたよ」

「して、どうして狙いが分かったのかね?」

「それは後程……犯人の様子は?」

「ひどいものだよ。毎日、自殺未遂を繰り返し、大騒ぎだよ。まったく、これじゃ取り調べもできやしない」


 精神が異常であることをアピールすれば、裁判で有利になるだろう。三人殺していたとしても精神がおかしいやつって思われれば死刑にならない可能性だってあるのだから。


「……面会はできますか? 刑事さんにも、種明かしがしたいんですがね」

「上に掛け合ってみよう。なんせ、君は今回の功労者。ちょっと無理を言ってもばちは当たるまい」

「もちろん、有料ですよ?」

「……まったく、食えない男だね。君は」

















 あれでもごり押しの才能を持っているのか、あっさりと面会が許可された。

 小太り刑事はいちいちカメラを意識するように行動しててめんどくさかったが、感謝しなきゃならないかもな。


 テレビでよく見るあのアクリル板の前で待つこと数十分。看守の人に引きずられてやってきた。

 自殺できないよう、拘束衣で両腕が使えないようになっていて、髪はぼさぼさでやつれているように見える。とても、狡猾な犯罪者には見えない。


「はじめまして、阿部 莉奈さん。私は明智 小五郎しょうごろう。探偵をやっている者です」

「…………」


 完全に無言だ。小太り刑事もあきれてため息をついている。


「いや、葉山 えみりさん、といったほうがいいですか?」

「えっ……」

「なんだって?」


 小太り刑事も、言われた張本人も、驚いて俺のほうを見るのがわかる。

 

「ちょっと推理すればわかることです」


 全ては、一連の事件のキモはそこにあるんだ。

 一番最初の事件、殺されたのは葉山 えみりではなかったんだ。

 ずっと、犯人だとされていた阿部 里奈さんだったんだ。


「そう考えてみると、いくつかしっくりくる点があります。一つ目、なぜ遺体が焼かれていたのか」


 理由は簡単、死んだのが自分であると錯覚させるためだ。DNAというものは熱に弱く、100℃近くで熱せられれば崩壊してしまう。とはいっても表面をあぶった程度では体内の部分はしっかり残ってしまう。

 だからしっかりと燃やした。どうやったのか想像もしたくないが、DNA鑑定が不可能になるレベルまで、な。骨格から判断されても困るから顔も殴ってゆがめた。俺は気づかなかったが、もしかするとほかの部分も折られていたかもな。


「そして二つ目、なぜ凶器から採取されたDNAが別人であると判定されたのか」


 もちろん、別人だからだ。それ以外に理由はない。

 そして動機も見つかるんだ。


「三つ目、なぜ死んだはずの葉山 えみりが幽霊として現れたのか」


 幽霊もなにも、死んでないご本人様登場となれば、幽霊だと思うのは当然のことだ。


「以上、あなたが葉山 えみりさんであると考えるのが自然な理由です。ま、別にDNA鑑定すればわかることですけどね」

「……っ!」

「それと、頭のおかしいふりはやめておいたほうがいい」

「!?」

「もしあんたが本当に頭のおかしい人なら、この場でだって自殺するだろ? 舌でも噛んで」

「……っ私は悪くない。私は!」

「あ、そういうのは別にどうでもいいんだよね。語りたいならそこの刑事さんと二人きりでやってくれ。俺が聞きたいのは、あんたがどうやってこのプランを思いついたのかってこと」


 自分の死を偽装し、生ける死者という盲点を利用したトリック。へたくそながらも裁判で有利になるような演技のひらめき。彼女が一人で思いつけるとは、俺は思っていない。


()は今、とある女にストーキングされている。そいつは様々な犯罪の計画をそれとなく誰かに伝え、実行させる狡猾な犯罪者……いや、罪は犯していないが、俺はそいつを捕まえて」

「っあの人は悪くないっ!」

「やっぱり、いるんだな。あんたにこの方法を教えた人間が」

「あの人は悪くない全部やったのは私よあの人は関係ないからあの人を捕まえるのはやめて」


 俺が雨宮 レイナのことを少し告げると、彼女は錯乱したようにつぶやきだした。今度は本当に狂ってしまったかのように。見かねた監視役の人が俺にこう言った。


「これ以上の面会はできません。お引き取りください」


 物足りない感はあるが、仕方ない。あきらめるしかないようだ。



















「気になっていることがある」

「何ですか?」


 例の喫茶店で、小太り刑事が尋ねてきた。


「君が犯人の入れ替わりに気づいたのは素晴らしいことだ。しかしなぜ気づいたのかね?」

「まぁいくつか理由はあるんですが……一番大きいのは火事だったこと、です」


 薫の『焼いちゃえばわからない』という発言にヒントを得たのだが、そもそも火事にするのがおかしいんだ。死因は窒息、確かに火災で発生するガスを吸えばそうなるのかもしれないが、その場合ガス中毒と判断するのが妥当なはずだ。

 つまり、犯人は殺した後火をつけた。となると理由がないと不自然だ、自分もけがをするリスクが高くなるからだ。となると火をつけた理由は何だったのか?


「そうか……殺した人間を、不明瞭にすることか!」

「ええ、もしDNA鑑定に成功したとしても、素顔が出ていない分捜査は遅れ、計画を進めるのに十分な時間を得ることができます。そして、どうやって入れ替わったのかというと」

「服を入れ替えていたのだろう? 二番煎じにはなるが、不可能ではあるまい?」

「流石刑事さん。おそらくそうなるでしょう。多少の髪型の違いなど誰も気に留めませんし、第一マスクなどで顔を隠せば犯人の思うつぼです」


 マスクをしていれば怪しさは倍増し、より犯人だと思わせやすい。

 

「次に、動機が見つかること。もし私の推理通り、入れ替わっていたとすると、被害者たちにはいくつかの共通点が見つかるんです。一つ、全員同じ高校出身であること。二つ、全員仲の良い友達同士であるという関係。そして……過去に誰かに恨まれるようなことをしている、ということ」


 断片的にSMSの内容を見た限りだが何とも言えないが、おそらく三人ともスクールカースト上位にいた可能性が高く、そういう人間は誰かに恨まれるような行為をしていることが多い。俺の偏見だがな。

 と考えてみると、この三人は過去に葉山 えみりのことをいじめていたんじゃないだろうか、と推理できる。同じ高校出身ならありえなくはない話だ。つまり、犯人の動機は――


「過去のいじめの報復かい?」

「と考えるのが自然です。そうなると被害者が過剰に痛めつけられている理由も説明できます。もっとも、本人に直接聞かないとわかりませんが……」

「なら、どうして最後の被害者が襲われると分かったのだね? 君が言うに、一番仲の良かった人間だろう?」

「……半分以上憶測ですが、仲が良かったから、ですかね」


 俺はあの時、犯人は過去の報復で動いていると考えた。そして次の被害を防ぐために小太り刑事に「過去に葉山 えみりをいじめていた人物が次の被害者」と伝えようとして思いとどまった。いないんだ、思い当たる人物が。被害者たちと仲の良いと思われる人物が。SMSからのヒントだけじゃ、な。

 彼女たちと仲の良い人物以外がいじめに加わっていたら規模が大きくなり、問題となっただろう。と考えるとこれ以上いじめの加害者がいるとは考えにくい。

 だとしたら事件は終わりか? いや違う。まだ狙われる可能性があるんだ。被害者と一番仲の良かった、いじめの傍観者となった人物だ。

 完全な後付けだが、被害者のダメージは少しずつ減っていっている。つまり彼女をどれだけいじめていたのかで変わっていった可能性を考えた。一番最初に殺された阿部 莉奈さんが主犯格で、三番目の被害者一条 海花さんが最も少ない。だんだん程度が弱くなっていく、そういった順番なのだろう。

 

「なるほど、だから……次は傍観者であった友達が殺される、と」

「おそらく復讐を成し遂げたことにより気が大きくなったんでしょう。自分ならできる、ってね」

「さすがだね、高校生探偵くん」

「高校生じゃなく、中卒のニートですよ。私は」


 俺は小太り刑事から報酬を受け取ると、席を後にした。

 当分は極貧生活から脱出できそうだぜ。




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