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明智小五郎(あけちしょうごろう)の事件簿3  作者: 鮫田鎮元斎
Part1 何気ない日常は突然壊れます
3/13

3 フラグは簡単に回収されるもの

「また、ですか……?」

『うむ。どうにも、この事件には何か裏があると思ってね。また君の力を借りたいのだよ。もちろん……タダで、とは言わないがね』


 どうも、この小太り刑事、俺を便利屋か何かだと勘違いしているらしい。

 しかし珍しく事件捜査の協力だ。薫が持ってくる猫探しや浮気調査の類ではない。受けてやるとするか。




 例の喫茶店で待ち合わせをして、少しお金があって (家賃を払ってはいない)リッチだからな。たまにはコーヒーでも注文するか。拾った新聞 (え、なにか問題でも?)を読みながら飲むのも悪くないかもしれない。


「……相席、よろしいですか?」

「いいですよ……と、言いたいけどお前はお断りだ」


 昨日の今日だ。さすがにどんな声だったのかは覚えているからわかる。

 雨宮 レイナがまた来やがったんだ。


「ひどいわね。そんなに冷たくしないでほしいのだけど」


 って、結局座るんかい。

 あきらめて新聞を折りたたんで脇に置いた。


「負け惜しみでも言いに来たのか?」

「あら、何のことかしらね?」

「強がんなよ。見事に計画くじかれてるんだぜ?」

「どうかしら。今日あなたがここにいるということは、順調のはずよ」


 嫌な予感がした。

 忘れるところだった。こいつはどこにでもいる犯罪者ではない。

 言葉を巧みに操り、巧妙なプランを伝授し、殺しを実行させる女だ。

 俺がいくら殺人教唆を主張したところで、あれは世間話のつもりだった、と言えばお咎めなしの可能性が高いし、刑事を丸め込むことだって不可能じゃない。


「なに企んでるんだ?」

「さぁ? 皆目見当もつかないわね。もしかしたら、小説を読んだ人が真に受けてそれを実行しちゃってたりして」

「…………」


 こいつと話せる気がしなくなってきた。


「色々言いたいことはあるが、もう少し年相応の恰好したほうがいいと思うぜ。オバハンに見えるぞ」

「失礼ね! これでもいいことはあるのよ」


 あ、図星だ。気にしてたんだ。

 可愛いとこもあるんだな。


「…………邪魔できるならしてみなさい。できるものならね」


 怒ったように立ち去って行った。ちょっとは仕返しができたな。

 入れ替わるように小太り刑事がやってきて、同時に頼んでいたコーヒーも運ばれてきた。


「いやはや、お待たせしたね! 会議が長引いたもので……ね」


 うん、何度も言うけど撮影なんかされてないから。どんなに決め顔してもうっとうしいだけだからな。


「で? 今日は何の事件ですか?」

「実はね、また殺しがあったのだよ。上はただの怨恨によるものだと言っているが、妙な点がいくつもあるのだよ」

「へーそうなんですかー(棒)」

「それに、この間の事件もまだ、片が付いていなくてね」

「え……?」


 道理で新聞に載ってないわけだ。無能かよ。


「それではまずこの間の事件の経過報告をしてあげよう。君も、気になっていただろう?」

「あ、別にいいです」

「よく・ない! もしかすると今回の事件にもかかわってくるからね……」


 例によって要点をまとめると、こうだ。


 この間の部屋が燃えた事件、犯人は被害者の知り合いである阿部 莉奈なる人物であるとされた。周辺の目撃証言から裏取りはばっちりだし、事件の日以来家へ帰っていないらしいからほぼ確定だろう。

 警察は総力を挙げて捜索をしているのだがどんなに探しても見つからない。20過ぎの人らしくあまり遠くへは逃げられないと思われているが、念のため指名手配の準備も行われているとか。


「で? どういう風に関わるっていうんです」

「うむ、では教えてあげようじゃないか」


 一昨日の夕方、ジョギング中の男性が山の奥で女性の遺体を発見したらしい。被害者の名前は近藤 朱音さんで、先日殺害された葉山 えみりさんの元同級生だったとか。どういうわけか下着以外何も身に着けておらず、当初は暴漢に襲われ殺害されたとの見方だった。

 しかし、被害者のスマホのやり取りから犯人は阿部 莉奈である可能性が高い――つまりは連続殺人であるとの方向性に変わった。

 が、ここで奇妙な出来事が二つ発生した。

 一つ。犯人の目撃証言が皆無であるということ。

 二つ。近藤 朱音さんを乗せたタクシーの運転手が、件の山から帰る彼女を乗せたと証言していること。


「どうだね、何とも奇妙な事件だろう?」


 小太り刑事はさりげなく財布をちらつかせている。

 仕方ない、たまには先にしゃべってやるか。


「まぁ、犯人が目撃されていないというのは置いておいて。確かに妙ではありますね」


 暗黙の了解で、お金と一緒に写真も渡してもらう。

 事件の現場は良くも悪くも普通の山で、“そういうこと”がしやすそうだ。被害者は、確かに服をはぎ取られていて、何度も殴られたような傷跡があった。そして致命傷となったのは、腋の下のナイフだろう。傷口からおびただしい量の血が流れ出た跡がある。両手両足とも縛られており、ろくに抵抗もできなかったのだろう。

 SMSのやり取りの写真もある。内容としては、現場に指定のものを持って一人で来るようにと伝える内容のもの、現場に到着してどこにいるのかを尋ねるもの。


 ……凶器はナイフ、だが殴るのに使用した道具は残っていない。犯人の目撃情報はないからそんなに大荷物でなかった可能性が高い。が、格闘技経験者でもない限り女性が人を気絶させる方法など限られてくる。つまり手軽な荷物で人を気絶させボコボコにできる条件。

 で、さらに死んでいるはずの被害者を装いタクシー運転手を騙す? 結構手の込んだことをしてくれるじゃないの。


「なんとなく、わかりましたかね」

「さすが高校生探偵だ!」

「かなり憶測も含まれますが、一応私の考えをお伝えしましょう」


 まずは犯行方法。

 あらかじめ現場で下準備が必要だ。ゴミ袋、テープ、小石があればちょっとした鈍器を作れる。幸い、山の中は土や小石の調達には困らない。

 時間になったら茂みの中で隠れ、絶好のポジションで待機しておく。そしてスマホを使い被害者を誘導し、後ろから殴って気絶させる。か、スタンガンかなんかを使っても可能だが、そこは知ったこっちゃない。

 そして服を脱がせ、縛り上げ、ぼこぼこに殴る。すべてがすんだら刺し殺しておしまい。


「これなら目立たずかつ誰にでも条件を満たすことができます。そしてタクシー運転手の証言、意外とシンプルに片付くかと」


 SMSで空のリュックを持ってくるように伝えていた。そして被害者は下着以外の衣服を奪われていた。

 つまり被害者の服を着て逃げたんだ。背格好が似ていて多少顔を隠せば、いろんな人を乗せるタクシー運転手なら勘違いすることもあるだろう。元着ていた服はリュックにしまい、お手軽鈍器は中身を捨てればコンパクトに収納できる。


「とまぁ一通り推理したんですけど、あくまで机上の空論ですよ。動機が説明できない」

「動機など本人に聞けば解決するだろう?」

「んなこと言ってたら冤罪は減りませんよ。もし犯人が阿部 莉奈という人なら今回の仮説は成り立たないんですよ。だって――――彼女には被害者をボコボコにする理由がないですからね」


 どうもSMS見る限りだと二人は険悪であるとは言えない。むしろ親友といっていいんじゃないかってレベルだ。つまり彼女には理由がないんだよな。 


「とりあえず、犯人わかってるんですし万事解決でしょう? どうしてお金払ってまで私の協力を求めたんですか?」

「それが、妙なことがあってね。いやこれは鑑識のミスかもしれないんだが……」

「なんです?」

「DNA型が一致しないのだよ。彼女の家で採取させてもらったものと、現場に残っていたナイフから採取された、犯人のDNAと、ね」


















 くっそ……どんなファンタジーだよ。

 被害者は確かに阿部 莉奈という人から呼び出され、殺害されている。メッセージの履歴からそれは確かだ。でも証拠物件と張本人とのDNAが一致しない。

 謎すぎる……。

 いや、案外警察の見立てが間違っているのかもしれん。彼女はスマホを奪われてそれを利用された……。

 まてまて、盗まれたなら被害届出すだろ普通。

 そこで捜査も修正するし……うーん。謎が深い。


「おーい! おきてる!?」

「はいはい家賃ですね、稼いできたから払いますよ」

「や、そっちの要件じゃなくてさ……ご飯食べに行かない? いまから」


 ふぁっつ?

 無駄な外食を嫌うあの薫様が?


「構わないが……どういう風の吹き回しだ?」

「いいじゃない。急に食べたくなったのよ」




 おかしい、なにかがおかしい。

 いや、でもめったにないから……。

 が、おごってくれるとは限らないからな。ここは一番安いサラダでお茶を濁そう。


「なにケチケチしてんのよ。おごってあげるから好きなもの頼みなさいよ」

「……お前、本物か?」

「失礼ね! 別に払うの私じゃ……ううん。なんでもない」


 変だ、が便乗させてもらおう。

 たまには大好物を頼んでも罰は当たるまい。


「ハンバーグプレートにしよう」

「案外子供っぽいのね」

「好きなんだよ、悪いか?」

「別にそういう意味じゃ」

「母さんの作るハンバーグがすっごくうまくてさ。俺の大好物なわけよ」

「あ、ごめん……」


 そういや勘違いさせたままだった。


「昨日の人、別に母親じゃないんだよ」

「ゑ?」

「最近付きまとってくるストーカーだよ。本当の母親は」

「ううん、いいわ。なんとなくわかったから」


 やっべ。空気重くしちまった。

 何か明るくできる話題……ってないな。殺人事件の話は常識的にアウツだし。

 あ、そうだ。


「この間貸してくれた推理小説だけどさ」

「あげる」

「え?」

「読み終わって売るつもりだったし、別にいいわよ」

「いや探偵が推理物の小説楽しめるとでも……?」

「とにかく! いらないなら捨てるなりしてもいいわよ!」


 なんだってんだ……薫に何が起こったんだよ…………。


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