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明智小五郎(あけちしょうごろう)の事件簿3  作者: 鮫田鎮元斎
Part1 何気ない日常は突然壊れます
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2 静けさは嵐の前の前触れです

「……あー、なんだ。いろいろ言いたいことがあるんだが」


 薫は皆まで言うなと、手で俺の言葉を遮る。

 こりゃ、結構こじれてそうだな……。


「私の部屋に来て。ご飯作ってあげるから」


 ……はぇ?

 どうしてその流れになるんだ?

 が、むしろそっちのほうが俺的にはアウトなんだよな。薫の料理はギャンブル性が強いから、ハズレだった場合死ぬことだってある。


「あ、ああ……」







 相変わらず何もない部屋だ。女性の部屋はもうちょっとオシャレなもんだと思っていたのだが、それは人によりけりなのかもな。

 何の気なしにテレビをつけると、昼間聞いた事件のニュースが流れていた。さすがにまだ解決はしないのだろうが、時間の問題だろう。ざまぁみやがれ。

 

「はい、できたわよ」

「おう……」


 匂いは問題ない。薫のエプロンには妙な汚れはない。今日はハズレじゃないか、な。


「いただきます」

 

 うん、まずくはない。人間、極度の空腹状態なら大抵のものはおいしくいただくことができるからな。

 しかし、なぜこんなに優しく接してくれるのだろうか?

 どういう風の吹き回しだ?


「あんたも、大変なのね」

「まぁ、楽ではないかな」

「……あんたのお母さん、やっぱりそういう仕事をしてる人のなの?」


 …………………?

 お母さん? いやあいつも確かに大人びて見えるけど俺の一つ上、だぞ……?

 が、その勘違い、利用させてもらうか。


「あんな奴、母親だと思ったことはないね」

「う、ごめん。なんか変なこと聞いちゃったかな」

「いいよ、過ぎた話だ」

「でもいいじゃない。あんたには、まだ家族がいるんだし」


 海外行ったきり全然帰ってこないがな。

 向こうで愛人作ってそうだぜ。実は腹違いの弟がいたとかなったら困るんですがね。


「あの、さ……もし私が、いなくなったら、あんたどう思う?」

「どうした? 経営が赤字にでもなったか?」

「あんたのせいで常時赤字寸前よ! ……ってそうじゃなくて、もし私がここの大家を別の人に任せるって言ったらどう思う?」

「別に……俺が家賃滞納しても許してくれる人なら問題ないな」


 それを聞いた薫はちょっとだけ残念そうな顔をした。


「はぁ……やっぱあんたはそう答えるにきまってるわよね。期待した私がバカだったわ」


 しゃーねーだろ。こっちだって生活かかってるんだし。

 

「悪いが俺はそういったことで感傷に浸るタイプじゃないんでね。今より悪くならないならどうでもいいよ」

「……止めてくれれば、よかったのに」


 なぜだか、とても悲しそうな表情だった。いつもよりも元気がない。しかもなんだか優しい。

 これらのことから推理できるのは……。


「風邪でも引いたのか?」

「違う、そんな単純な話じゃないのよ」


 わからん。難解なトリックを解明するよりも難しい。てか人の心なんて推測できるもんじゃないんだ。外れるにきまってる。

 が、今の仮定が現実になったら……どうしようか。

 家賃滞納を許してくれる人なんていないだろうし、全力で引き戻そう。

 それで万事解決だ。



















○○○


 本当にうまくいってる。

 誰も私のことを注目してこない。ちょっと髪型と服装を変えるだけでこんなにも変わるものなんだ。

 やっぱり、あの人はすごいや。私なんかと違って。

 このやり方だって、あの人が作った小説のトリックをアレンジしてるんだから。

 本当に申し訳ないとは思う。私が起こした事件のせいであの人の小説は多分絶版になるんだろう。

 

 ――――ピロン♪


 SMSの通知が来た。

 あいつが来たということだ。


『着いたよ。どこにいるの?』


 私は怪しまれないよう自然に返信を打った。


『本当に一人で来た? じゃなきゃ教えない』


 すぐに返信が来る。


『私が約束破ったことあった? 当然一人だよ』


 よかった。それなら計画通り事を運べる。

 私は傍らのポーチの中からスタンガンを取り出した。


『大きな石が置いてある木の後ろにいる』


 そう送ると、あいつは木の後ろを確認するため私に背を向ける。

 無防備に、背中を見せてくる。

 そこを


 ――――バチッ!


 しっかり気絶するように、長く押し当てた。目覚めたらその部分が痛むんだろうけど、関係ないよね。殺すんだし。


「ぁっ……」


 計画のために、服を全部脱がせた。私が指示した通り、空のリュックもある。友達のことを信じているんだろう。

 抵抗できないように――できるわけがないが念には念を入れて――腕と足を縛り上げた。

 シンプルに、ナイフで刺してあげよう。

 こいつは比較的軽いほうだったから、そんなに苦しくなくしてやろう。

 比較的、楽に、ね。

 

 木につるし上げて何度も殴ってやった。私の苦しみを知らないあいつには、まず教えてあげなきゃ。殴られることが、どんなにつらいことなのか。やめてって言われてやめてもらえないことが、どんなに苦しいことなのか。


「っ……はぁ……」


 殴るほうも楽じゃないんだね。結構、心が痛むよ。

 

「もう……やめて…………っゆるし、て………………」


 少し前に目覚めてからずっとうわごとを言っている。

 かわいそうだし、そろそろ楽にしてあげようか。


 私はあいつの左の脇の下、刺せば確実に殺せると聞いていた場所を思いきり突き刺した。

 ナイフはそのまま刺しておいた。少しでも生かしておいてあげよう。


 あの人に感謝しなくちゃ。

 私ひとりじゃこんな大それた方法、思いつかなかったよ。

 



 

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