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明智小五郎(あけちしょうごろう)の事件簿3  作者: 鮫田鎮元斎
Part1 何気ない日常は突然壊れます
1/13

1 不審な電話に要注意

○○○


 すごく苦しんでるのがわかる。

 なかなか死ねないように絞めているから相当な苦痛なのだろう。

 でもね、死んだら楽になるから、まだいいよね。

 私はずっと苦しかったんだよ? 逃げても逃げても、ずっと苦しみが続いた。

 だからずるいよ。


「……ぁっ…………っはぁっ…………!」


 今どんなに苦しんでも、すぐに死んで終わりだもん。

 その顔が見られないの、残念だけど、せいぜい苦しんで。

 なるべく苦しく殺してあげるから。


 やがて、動かなくなった。

 死んじゃったのかな?

 それとも気絶しちゃっただけ?

 どっちでもいいや。


 私は動かなくなったそいつの頭を砂袋で殴りつけた。顔の形が分からなくなるまで、何度も何度も。私だってそのくらい殴られてきた。

 そろそろ仕上げをしよう。

 もっと苦しんでもらわなきゃ。

 死んだあとも、ずーーーっと。




















○○○


 RRRRRR――


 電話が鳴ってる。珍しく仕事の連絡か? なお俺には電話が来ないのだが。


「はい、こちら明智探偵事務所」

『オレオレ! オレだ!』

「俺が息子だよ!」


 受話器に叫んで切った。 

 ああくそっ! 詐欺の電話か。搾り取れる金なんかないっつの。


 RRRRRR――


「……明智た」

『おいなんで切った!? オレだよ!』

「………」


 まったくしつこい詐欺師だ。

 次かかってきたらどうしてくれようか。

 俺はむかつきながら読書を再開した。クッソつまらん推理小説だが薫さまが薦めてきたのだから読まざるをえないのだ。今度映画化されるとかだから、十中八九強制的に誘われるんだろうな。

 しっかし、この名探偵ポジションの刑事がむかつく。IQ300って設定のくせして全然頭よくなさそうな捜査ばっか、映画もコケそうだな。


 RRRRRR――


「……もしもし」

『おい、切るなよ? よく聞け、オレはあの時の刑事だ。お前が解決してくれた事件の』

「失礼ですが、どの事件でしょう? いくつか心当たりがあるのでどうにも」

『例の、旅館の事件だ。先日は世話になったな』


 ああ、あのヤンキー刑事か。


「失礼しました、てっきりオレオレ詐欺の類かと。して、今回の要件は?」

『いや、別に事件てわけじゃないんだがよ、お前と一緒にいた人、なんだがよ』

「彼女がどうかしましたか?」

『その……なんだ、連絡先をよ、教えてほしいんだ』


 ははーん。さては惚れたな。

 一応、じっとしていればモテるからな、薫のやつ。動くと残念系美人だしな。俺の好みじゃないがな。


「ええ、いいですよ――――03のXXXX、XXXXです」

『あ、いや……いきなり電話はハードルが高、っじゃなくて、メールアドレスを教えてほしいんだが』

「ないですよ。彼女、携帯持ってないんで」

『っそだろ!? この時代に? ガラケーすら持ってないのか?』

「残念ながらそうです。デートのお誘いなら電話でしてみてください」

『ちょっそういった要件じゃなくてだな!』

「んじゃお仕事頑張ってくださーい(棒)」


 やれやれ、あの刑事さんも大変なこって。あんな見た目なのに結構シャイなのか。人は見かけによらないってのもあながち嘘じゃないな。

 ま、人の恋路を邪魔する気はないのでね。


 RRRRRR――


 おいおい……あの人も結構しつこいんだな。名刺渡さなきゃよかったぜ。


「ったくいい加減にして」

『久しぶりだね! 高校生探偵君!!』

「は?」















 高校生探偵。

 どこぞの小学生探偵の真の姿やじっちゃんの名にかけたがる人を思い浮かべる人もいるだろうが、あの小太り刑事が俺につけたあだ名である。

 あのお方、俺の手柄を横取りしたくせに力を借りたいんだと。図々しいこって。

 が、奢ってくれるとのことでその辺のファミレスへと向かう。

 それ以前にたっぷりとお金を分捕ってやる。


「いやはや、この間は世話になったね。おかげで僕の出世が少し近づいたよ」


 俺の財産は増えなかったうえに妙なやつに付きまとわなきゃならなくなりましたがね。


「さて、前置きはこの辺にしておこう。実は、折り入って頼みがあるのだよ」


 おい、そっちにカメラはないし決め顔作ったって誰も見ないから。


「今、とある事件の捜査をしているのだが、妙に引っかかるとこがあってね」


 だからなんで間を置く。


「そ・こ・で! 君の助けを借りたいと、いうわけなのだよ!」

「はぁ……」

「半月前に起こった事件だ――――」


 いろいろもったいぶっててうざいから要点をまとめるとこうだ。

 半月前、都内のアパートで大規模な火災が起きた。

 消防隊の涙ぐましい努力によって被害は最小限にとどめられたのだが、火元の部屋にいた人は亡くなっていたのだという。

 遺体は徹底的に焼けこげ、性別も判定できないくらいひどい状態だったらしいが、上の人はこの部屋に住んでいた葉山 えみりさんであるとし、単なる焼身自殺であるとの方向で済むかにみられている、らしい。


「だが、僕の名刑事のカンがこう言っているんだ。これは自殺なんかじゃないってね」

「それで意見を聞きたい、と?」

「うむ、君も変だと思わんかね?」

「別に」

「ほうほう、やはり君も……思わないの?」

「確かに、自殺で処理するには奇妙な死に方だとは思いますが、私がその考えを言ったところでなんのメリットもない」


 お話の中の名探偵(笑)と違って、こちとら家賃地獄ですからね。

 俺は催促するように手を出した。


「いいだろう。出世できると思えば、安いものだ」


 小太り刑事は財布から諭吉さんを取り出すと俺の手に乗っけてくれる。

 さて、話さないといけないかな。


「では、私の考えをお話しします。まずおかしいのが部屋です――――」


 なにがおかしいって焼身自殺ってとこだ。

 知っている人も多いが火あぶりはなかなか死ねない。耐え難い熱さの中気絶し目覚めを繰り返しながら死んでいくもの、らしい。自殺法としては一番〝楽じゃない”部類に入るだろう。

 そもそも論として、自殺をする人間ならネットでやり方を調べるだろう。このご時世、調べれば大抵のことがわかるからな。


「これが、自殺と判断するのに不自然な点です」

「ふむ、で?」

「ほかに何か?」

「犯人だよ! 当然わかっているのだろう?」


 いやいやいやわかるわけないって。黒タイツの人間が出てないうちに事件解決しないでしょうが。


「さすがにわかりませんよ。どうします? 依頼してくれたら推理しますよ」

「むむむ……いいだろう、乗り掛かった舟だ」


 おおっ! 諭吉さんがあんなに。見た目だけゃなくて財布まで太っ腹だとは。

 さて、と。んじゃ推理しますか。


「まず、現場の写真とかその他もろもろの詳細な情報をください」


 渡された写真には、ひどく焼け焦げた現場が写っている。消火活動のせいで濡れているが、相当燃えたのだということが分かる。特に家具のレイアウトは変化していないし、争ったわけではなさそうだ。

 次に遺体の写真。耐性のない人なら思わず戻してしまいそうなむごさだ。完膚なきまでに焼き尽くされている。しかも顔が妙に歪んでいる気がする、殴られたのかもしれない。


「司法解剖を行った結果、死因は窒息の可能性が高いようだ。とはいえ、遺体がその有様。精密な判定はできないうえにDNA鑑定も満足に行えないそうだ」

「犯人については何とも言えませんが、犯行方法についてはいくつくひらめいたことはあります。例えば――」

 

 宅配便業者に化けてやる方法。

 大荷物でも怪しまれないからガソリンの運搬をしても怪しまれにくい。

 それに業者なら多少怪しまれはしても部屋へ押し入ることは可能だからな。そして首を絞めて殺害し、火をつければいい。

 他にも知り合いなら簡単に部屋へ入れる。


「ちなみに、被害者の部屋にストーブはありませんか? 特に、石油を使ったりする類の」

「たしか……あったかもしれんな。焼けてしまっているからはっきりしないがね」

「だとしたら、部屋に入れる人間になら犯行は可能です」

「おお! そうか、僕もそうじゃないかと思っていたんだよ!」


 ぜってー嘘だろ。


「あとはその中から妥当な動機を持ち、かつアリバイの薄い人間を見つければいい。元恋人、友人、恨みを持った人間。当然それっぽい人はいるでしょ?」

「うむ。僕も怪しいと思っている最筆頭の人間がいる、そこを当たってみるとしよう。ありがとう。ご協力、感謝するよ」


 こちらこそ、諭吉さんをたくさんありがとうございます。

















 楽しい気分で帰ると、それを一変させる奴に出会ってしまった。


「久しぶりね。高校生探偵さん」

「っ雨宮 レイナ……何の用だ?」

「来ちゃダメかしら。あなたに会いたかったのよ」


 お断りだよ。即刻ブタ箱へ行ってほしいね。

 それにしても、初対面の時よりも雰囲気がだいぶ変わったな。あの時は清楚な女子大生みたいだったのが、今は夜のお仕事をしているお姉さんみたいだ。だから老けて見えるんだ。


「嘘つけ。そんなこと思ってないくせに」

「あら? ばれちゃった。さすがね」

「帰れ、今日は気分がいいから見逃してやっても」

「ショーはまだ始まったばっかりよ。案外、鈍感なのね」


 ってことは、小太り刑事が持ってきた事件、あれはこいつが仕組んだことだったのか。


「残念ながら、その事件近いうちに犯人捕まっておしまいだぜ」

「ふふっ……言い切って大丈夫なのかしら? 外れて赤っ恥かいちゃうわよ?」

「ふん! 負け惜しみだな」


 奴はゆっくり近づいてきて、俺の耳元で囁く。


「楽しみにしてるわ。せいぜい頑張って」

「……待てよ」


 さりげなく逃げようとしたのを、腕をつかんで引き留める。


「あら、痛いじゃない」

「このまま警察につきだしゃぁ万事解決だよな?」

「できるかしら、あなたに……ほぉら、あそこ。大家さんが見てるわよ」


 と、言われて見てみると、いた。薫が買い物袋引っ提げているのが。

 まずい、100%誤解される。てか変な方に話がこじれる気がする。

 うっかり、手を放してしまった。

 こいつはしてやられた。完全に薫の行動パターンを調査したうえで行動してやがる。

 下手すりゃ、運よくこいつをしょっ引けても、報復されるかもしれない……。


「じゃ、また会いましょ。小五郎さん」

 

 と、意味ありげな言い方で俺のことを呼び顔を近づける。

 薫のアングルからじゃキスしたようにも、見えるかもしれない。 

 ああ……相変わらずねちっこい奴だ。早速事件を解決されたから根に持ってやがる。

 面倒な方向に話がこじれそうだ。

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