ナレーターが異世界にログインしたようです
「えええええええ!」
藤井義人の異世界召還の第一声はものすごくショボかった。
確かにもともとそこまで目立ったところや、かっこいいところはなかったが、この叫び声はあまりにも凡人的だった。
「えええええええ!」
目の前の典型的な魔法使いのような少女を見ても、やっぱりショボい叫び声を上げて驚いている。
少女はものすごく困った顔をして藤井の顔を見ていた。少女の肩に掴まっているミミズクはとても怪訝そうな顔を向ける。
「えええええええ!」
さっきまで自分がいた素朴なアパートの一室から、高級なベルベットの壁紙に変わっているのを見ても、すっとんきょうな声を出す。
「こやつ、さっきから『ええええ!』としか言っておらぬ……」
「えええええええ!」
ミミズクが、藤井のリアクションにあきれてためいきをついたが、またも藤井は驚愕する。
驚きの連続が精神的に深いダメージを負わせたのか、藤井は地面の上をグルグルと高速回転し始めた。
しかしまわりながらも藤井の口から「えええええええ!」が止まることはなかった。
「と、とりあえず、落ち着いて……ね?」
少女は優しく藤井に笑いかけた。どこか強張ったところがあったが、彼女の優しさで藤井は少し正気を取り戻した。
少女は藤井に手を指し伸べた。藤井も反射的に手を伸ばした。二人の手が重なると、藤井は自分の中の混乱が薄れていくのを感じた。
「立って」と少女に言われるがまま、藤井は立ち上がった。自分よりも一回り小さくても、彼女の言葉にはどこかしら逆らえない感じがした。
そして藤井がその少女が何をしようと理解するよりも早く、少女の唇が藤井の唇に触れようとした――そのとき「えええええええ!」というあの残念な悲鳴が、彼らのいる部屋を激しく揺らす。
「なんなの! ねぇ、これってなんなの⁉ なんかの罰ゲームなの? どうして俺がこんな恥辱プレイしないといかないの! ていうか、あんた誰なの!」
藤井はヒステリーを起こしたように叫んだ。少女はしばらく驚きで固まっていたが、自己紹介をしようと口を開いた。
「私は――」
「ちげーよ! さっきから姿は見えねぇけど、俺がショボいだの、残念だのとかって言ってる奴だよ!」と藤井は少女の言葉をさえぎr――えええええええ!
「ハイ、とりあえずみんな座って」
少女の掛け声で藤井は座った。どうして正座なんだよ、と心の中で呟いた。
「あなたも座っているのでしょうね?」
少女は見えない私に対しても強い視線を送った。私も仕方なく三千円で買ったオフィスチェアの上で正座した。
少女の肩の上のミミズクが真っ赤な紅茶をみんなに淹れたので、それぞれカップを受け取って飲んだ。(私は目の前にお茶の入ったペットボトルがあったので、それを飲みました。)
「とりあえず状況を整理しましょう。まず私はドラゴンの脅威に対処すべく、勇者を召還することにした。すると彼が現れた。そして彼は四次元的な存在を知覚することが出来て、なぜかわからないけど私もできるようになった……ここまでで質問は?」
「ないでーす」と藤井は答えた。
「あなたも?」
『ないです』
私は鋭利な刃物のような感覚を少女から感じながら答えた。
「あと、私のこと、少女少女言うのやめてくれますか? 私にはカレン・ネイポリスというちゃんとした名前があるのです」
『はい……』
「あと、俺の名前は藤井義人! よろしく!」
藤井の名前は既知だったため、彼の自己紹介はあまり意味なかった。
「ひでぇ!」
「静かに! とりあえず、今はドラゴンをどうにかしなきゃいけないの!」
「なんで?」
「それは……」
カレンは思い出す、学校の課題で召還するはずの低級ドラゴンを、見栄を張って上級ドラゴンを召還してしまい、魔力による制御ができないと気付いたときにはすでに大惨事になっていたことを。仕方なく事件を抑えるために勇者を召還しようと思ったが、高名な勇者の召還には魔力が足りず、凡人である藤井を誤って召還してしまった。
「なるほど……よく分かった」
そしていま、このメンツでどうやったら事件が収束して、地下室に冷やしてある手作りミルフィーユをいちはやく食べられるか、考えている。
「なに、あたりまえのように解説してるのよ!」
『だってそれがナレーターのしご……』
「おだまりなさい!」
『はい……』
カレンは大きなためいきをつく。なんにせよ、カレンがどのような経緯でドラゴンを倒さねばならないのかはもう説明する必要はない。
「あと、あなたが何者かをはっきりしないと」
『私ですか?』
「そうよ」
『……となるとこの世界がどのようにできているか言わなければなりませんね。まず、この世界には作者という神の存在があります。神はあなたたちの世界でいう書物のように、一つ一つ世界を作り、そこにどのような人物が現れてどのようなことが起きるのかすべて設定して、それをほかの作者に見せて楽しんでいます』
「ではあなたは作者の一人なのですか?」
『いいえ。私はナレーターという職業をやっているものでして、ほかの作者が分からない専門用語を解説したり、あなたたちのいるこの物語をより分かりやすく、より現実的にするために私は存在します。』
「ナレーターが物語に介入してる時点でリアルさはゼロだけどな」
『はい、まさにその通りです。普通なら、あなたたちのようなキャラクターに関与することがないのですが……』
「ですが?」
『作者が意図的に第四の壁を壊すことにしたのかもしれませんね』
「どういう意味だよ? それ?」
『演劇用語の一種です。普段演劇において、役者と観客の間には透明な壁があると想定し、演劇というフィクションの世界が舞台の上で構成されます。ではその壁が無くなったらどうなるでしょうか?』
「現実とフィクションが混同する……で合っているかしら?」
『はい。まさしくカレン様が申し上げた通りです』
「めんどくせぇ作者だな……なんでそんなこと……」
『第四の壁を破ることでフィクションのコメディ性が得られるというのが一般的な意見ですが……』
「つまり、作者はウケを狙ってこんなことを?」
『さぁ私にも分かりかねます……私もあなた方同様、作者によって作られる存在ですから。とりあえずナレーターとお呼びください』
「分かったわ、ナレーターさん。じゃあさっそくドラゴンをなんとか方法を考えましょう。だれか、具体案ある人は?」
シーンと地下室は静まりかえる。
「シーンって……誰一人いい案ないの?」
カレンがイライラした様子で言う。
「いや、召還されたばっかりだし」
「あなたはいいわ。ナレーターさんは?」
『え』
「そうよ、なにかいい案は?」
『禁則事項です』
カレンが眉を寄せる。
「どうゆうことですか?」
『いわゆるネタバレ、スポイラーです。私は進行役という立場上、これから起こるすべてのことを把握しています。そのため、あなたたちがどのような方法を使ってドラゴンを倒すかをすでに知っているため、それを教えるのは物語として反則になります』
「じゃあ……第四の壁が破られるのも分かっていたと?」
『いえ、このケースは作者が試験的な文学表現を試みるために、あえて私を介入させたと考えるのが適切でしょう。私の役割が物語に直接関与することは、普通ありませんので』
「平たく言えばモルモットだな」
『そうですね。そのかわり私にはあなたたちが今いる状況をすべて説明、および解説する権利が与えられています』
「というと?」
「たとえば、今あなたたちがどのような状況であるか。そうですね……藤井さんは最上級魔術師レベルの魔力を保有しているなど」
藤井はあまり理解した様子がなかったが、カレンは口にしていた紅茶を霧状に吹いた、いわば血の殺虫スプレーのように。
「ちょっと! それレディに対するナレーションじゃないでしょ!」
『わ、私は台本通りに読んだだけです』
「それより、本当なの? 彼が最上級魔術師並みの魔力保有者だって話」
『本当です。主人公最強という作者の決めた設定なので』
「お、俺、最強になるのか?」
『ちなみに、少し天然が入っているところと、一度火が付いたら止まらないという設定が同時に盛られています』
「ひでぇ」
『あ、ですけど、この作者は、自分の登場人物の性格が崩壊して、作品そのものをボツにするのを繰り返しているので、改善されるかもしれません(笑)』
「それって私たちの世界が作者の気まぐれによって一瞬で消えるってことじゃない!」
『まあ、そうとも言えますね。あとこれはネタバレじゃないのでいいますが、お二人方はこのあとキスをしてもらう段取りなのでよろしくお願いします』
「え、ちょま」
『少なくてもカレンさんはご存じのはずです』
「う。そ、そうよ。そのとおりよ」
二人の顔が一気に朱に染まる。
未成年の彼らにとってキス、しかも初めてのキスは精神的に緊張せざるを得なかった。
「だからどさくさに紛れてしようと思ったのに……」
カレンはがっくりとうなだれて言う。
一方、藤井はこれから起きること、さらにはそのあと起きうるかもしれないシチュエーションに鼻の穴を膨らませざるをえなかった。
「この変態ッ!」
ぱんと響く平手打ちの音。
「しょうがないだろ! 男はそういう生き物なんだからぁ」
もう一回響く乾いた音。
藤井は熟れた桃のように大きくなった両頬をさすった。
「ナレーターさん!」
『こういう仕事なもので……』
「だいたい、なんでこういう変な状況ばっかなのよ!」
『作者さんがラブコメ要素を加えたいとのことなので』
「ラブコメ……やはり俺の青春は終わってなかった……高校三年生で彼女できてなくてもあきらめなくてヨカッターッ!」
『まぁお気づきだと思いますが、結ばれるお相手は彼女です』
「ごめん、やっぱ帰らして」
『作者のご都合によって不可能です。申し訳ございません』
「い・い・か・ら、早くこの儀式を終わらせるわよ!」
藤井とカレンは向かい合った。この儀式は早く終わらせたほうがいいという考えがお互いの中にあった。
「じゃあ……いくわよ……」
「お、おう……」
声を掛け合って、ゆっくりと唇同士を近づける。
鼓動が早くなり、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。今にも茹で上がりそうだった。
そして触れた瞬間に、彼らの時間は停止した。藤井は感動と興奮、カレンは屈辱と怨念を覚えながら、キスをする。
カレンの金髪から、甘い匂いを藤井は感じながら、カレンの丸くて大きな目をまっすぐに見る。よく見るとかわいい顔をしている、藤井は素直にそう思った。だが、ナレーションがだだ漏れの今、カレンは恥ずかしさでサファイヤ色の目の中を涙でいっぱいにした。
そしてわずかな時間のキスはゆっくりと終わる。彼らはそうっと離れる。
藤井とカレンは再び見つめ合った。そしてちょうど三秒の時間が流れたあと、カレンは再びちゃんと理性を取り戻して藤井のみぞおちに正義の鉄拳を入れた。無論、まさかそうなるとは露にも思わなかった藤井にガードするよちなどなかった。
「ぐえ」と、ヒキガエルのような声を出して藤井は地面に倒れた。
カウントワン・ツー・スリー。藤井はノックアウト。カレンの勝利のきめ言葉は、「これくらいで許してあげるのだから、ありがたく思いなさい」だった。
「あなたも食らいたいの?」
『遠慮しておきます』
『ではどのようにドラゴンを倒しますか?』
「ナレーターさん、ドラゴンがどのような生き物か藤井君に教えてあげて」
ドラゴンはこの世界では破壊の王者とも呼ばれている。もちろんその名前に相応しく、伝説になるようなドラゴンは大きな体格と恐ろしい破壊力のを持つブレスで、地形を簡単に変貌させてしまうほどの力を有している。しかし、個体種によっては小型なものもおり、その一つであるワイバーンは移動手段として人間と共存している。
「今回私が誤って召喚したのは白竜。大型種のドラゴンだけどブレスは吐かないわ」
『気性が落ち着いた種のドラゴンですね。知性が高く、争いを好まないという設定になっているようです』
「ていうか、なんで憲兵団とかがその白竜を倒さないのさ。カレンが倒すには危険すぎるだろ?」
地面の上で無様に横たわりながら、かすれた声で藤井が聞いた。
「私だってそうしたいわよ。だけど町にあまり被害が出ていない以上、自分で責任を取れってパパが……」
「パパ?」
「そう、私のお父さん。ここの市長をやっているの。憲兵団を出動させると、パパに迷惑がかかるから、ドラゴンが暴れていないうちに召喚者である私が制御下に置いてこいって言われたの」
「具体的にどうやって?」
「ドラゴンに自分がふさわしい者であることを証明すればいいの。だから英雄を召喚して私の器を認めてもらおうとしたの」
「なーるほど」
『しかし、問題があります。藤井さんは英雄でもなんでもありません。ただのパンピーです』
「パンピーって表現、古くね?」
「そもそも何よ、パンピーって」
『すいません、つい藤井さんの世界風に言ってしまいました。パンピーとは一般ピープルの略称、ようは一般人です』
私はふとナレーターとして、二つの全く異なる文化を持つ人たち両方が、きちんと理解できるように言葉を選ばなければならないことを改めて思い知らされた。
「だけど、本来ならほかの作者に分かるようにナレーターが話せばいいんだよな?」
「そうよね。昔の文法とか表現とかって今と違うところがあるし」
「あー、分かる。古文とか漢文とかやってて発狂するかと思った」
『それは置いておき、カレンさんはどういう風にこの事態を解決するつもりですか?』
俺ってなんかさっきからまともに取り扱われてなくね、と藤井は軽く傷つく。
「彼、藤井君が本当に最高魔術師なみの魔力を持っているなら話は簡単。彼の魔力を使ってドラゴンを使役する契約を立てれば万事解決よ。問題はどうやって魔力を彼から吸い出して、私が使えるようにするかってこと」
「で、具体的に?」
「それが分かっていれば、こんな風に遠回しに言わないわ」
はぁ、とみんなため息をつく、だが、一つだけため息に混ざってホーという鳥の声が混じっていた。
「混じるとは失礼じゃ」
『すいません、仕事なもので』
「さっきの喋るフクロウか」
「ミミズクじゃ、馬鹿者」
「かわいい顔して結構きついこと言うな」
部屋の隅にあった止まり木から、ミミズクがカレンの肩の上に華麗に飛び乗る。ミミズクの茶色い羽根には白い絵の具をこぼしたような斑点があちこちにあり、黄色の目で藤井をにらみつける。
「こーら、ジイ」
「度が過ぎましたな。申し訳ありません、お嬢様」
「まぁ、しょうがないわよね。藤井君にはデリカシーがないし、ナレーターさんは仕事柄であんなこと言わなきゃならないんだから、怒るのは無理ないか」
「ていうか、なんでみんなさっきから俺のハートを抉るようなこと言うの? ねぇなんで?」
『作者の意向ですから我慢してください』
「だそうよ」
「うがー!」
だんだん藤井のキャラが壊れ始めているが、カレンは何事もなかったように話を進める。
「それより、ジイ。なんなの?」
「お嬢様、彼を生贄にするという案は?」
「だ、だめよ! そんなの!」
「ほら! またそういうこと言う! 俺せっかく期待してたのに外の景色見ないまま死ぬの? 冒険始まる前にゲームオーバーなの?」
「冗談じゃ」
ホーホーホーとジイと呼ばれたミミズクは笑う。
「ジーイー」
「失礼、お嬢様。では、僭越ながら申し上げます。彼から魔力を吸い取るのではなく、彼を媒介にしてお嬢様の魔力を増量させるというのはどうでしょう?」
「確かに……それなら複雑な術式もいらないわ! それにしましょう!」
「おい、ナレーター。解説頼む」
ジイの提案はエネルギーである魔力をとても効率的に使う方法だった。
そもそも魔力とは、名前に力が含まれているように、エネルギーである。そしてエネルギーの移動はどの世界でもそう容易いことではない。とくに、魔力はエネルギーとしてまだ明らかになってない部分も多く、人から人への魔力移動は高度な魔法知識と緻密な術式が必要とされる。
しかし、ジイのアイデアは魔力の移動そのものは必要としない。ただ、術式を媒介の体に刻み、それに術者が触れればよいだけの話である。すると魔法は媒介を通して発動するため、魔力の高い物質を持って行うのは意外とメジャーであり、例として魔法使いの杖や、礼装などがあげられる。
「なんか聞く感じ、魔法のものすごい初歩の初歩にも思えるんだが……」
「し、仕方ないでしょ! 私もついその手があることを忘れてたんだから!」
少し顔を赤らめてカレンが言う。
『作者が決めたカレン様の性格です。察してあげてください』
「うん……まぁなんとなく予想はしてたけど」
藤井の言葉はピンク色だったカレンの顔を深紅に塗った。
「はい。できたわよ」
カレンは藤井に謎の紋章が入った白い布切れを渡す。
「ナニコレ? タペストリー?」
「制御の術式。飾っても意味なんかないわ」
「これをどうしろと?」
「この紐で首にかけるのよ」
カレンは布の角に開いた穴を指差した。そこには確かに紐が通っている。
「お、おう」
藤井は言われるがままに首に紐をかける。すると、術式がぼんやりとした青白い光を放ち始めた。
「ナレーターさんの言った通りね。確かに大量の魔力を保有してるようだわ」
「え、この光からそんなことがわかるのか?」
この術式にはカレンが藤井の魔力を使えるようにする勝手口のようなものがある。そこから魔力が漏れ出すことで光るのだが、普通はあまりにも微々たるもので、暗闇でようやく見えるほどだ。しかし、藤井の術式から発する光は明るい部屋でもはっきり知覚できるほどだった。
「つまり、大量の魔力が漏れてると?」
「そうね」
「え、だけど無駄になってるんじゃないのか?」
「そうね。外しましょう」
藤井は布をカレンに返す。だが、これから異世界が体験できると思うと、藤井の気持ちが少し軽くなった。
「よっしゃ! じゃあ白龍を倒しに行こうぜ!」
「今日はもう寝るわ」
「ファ⁈」
「もう真夜中よ。眠いったらありゃしないわ」
「ええー……」
「というわけでおやすみなさい、藤井くん。この部屋は好きなように使っていいわ」」
カレンはそう言って藤井を部屋に残してドアをガチャリと閉めた。ジイもカレンと一緒について行ってしまい、藤井は一人ぼっちになった。
「正確にはあんたがいるから一人じゃないだけどな」
『えっと、まぁ、そうですね』
「なぁ、作者はなんで俺を異世界に召喚したんだろうな」
『と言いますと?』
「いやだってさ、普通、異世界とか来たら冒険的な要素があるじゃん。だけど十ページぐらい使っても、冒険のぼの字すら出てこないんだけど」
『藤井様、第四の壁が壊れていますが』
「知ったことか! 作者の意向に従うなんて俺は認めないぞ! ナレーターという四次元的なものが介入してる時点で作品もくそもあるかああ!」
『四次元は酷いですよ』
「だって俺はどういう風にあんたを知覚してるか、自分でも理解できないし!」
『そ、それは言わないお約束です』
「逆に、この世界に異世界召喚のお約束が何一つ起きてねーだろ! 期待した俺がバカだったよ! 他の作者もこのグダグダぶりで絶望してるよ!」
『ちょっと、やけにならないでください! あまりやりすぎるとこの世界法則がねじ曲がってしまいます!』
「知るかーー!」
藤井が『主人公不当扱い』の怒りの叫びをあげる。作者の意向に完膚なきまでに反抗し、第四の壁を幾度なく破り続けた結果、私の目の前の台本が青く燃え上がった。
そして、その炎が消えた時、先ほどまではなかった文字が、浮かび上がった。
『ああ、ああああ! ……あーあ』
「どうしたんだよ、ナレーター?」
『藤井様が暴走しすぎて、藤井様の設定の項目に「第四の壁の正式アクセス権」が加わってしまいました』
「いらねー! もっとファンタジー感溢れる設定をくれー!」
次の日の朝はあっけなく過ぎた。
藤井は床の上であぐらをかいて、ドアから夕べ知り合った人物が現れるのを待っていた。
大きな木製の振り子時計はそんな藤井を無視して、黙々と秒針を動かし続けた。その時計は十分後のお昼のチャイムに備えて準備をしていたからだ。
「そろそろ十二時くらいなんだけど、まだあいつ起きないの?」
『カレン様の設定に朝に弱いとあります。ちなみに彼女は毎朝パンをくわえながら、走って学校に行っているようです』
「ベタすぎるだろ……」
藤井が呆れると同時にドアが勢いよく開く。そこには昨日と同じ黒い魔女服を着たカレンが立っていた。
「おはようございます」
「お、おはよう」
「じゃあ竜の所に行くわよ」
「い、いきなり?」
「そうよ。何か文句あるの?」
「う、え、あ、朝ごはんは?」
「現地でブランチよ」
「ブランチとか響き的にやべぇ」
「いいからさっさと行くわよ。時間は限られているんだから」
藤井は豪華なつくりの馬車に無理やり乗せられた。馬車は草原の広がる道を一時間ほどかけて進んだ。
「なぁ、もっと速い乗り物とかってないのか?」
「あったら最初から使うに決まってるでしょ?」
「デスヨネー」
馬車が目的地にたどり着いた時には藤井は空腹でいつもの気力がすっかりなくなってしまっていた。そのため、藤井は地元の農家の好意で出された食事を、遠慮なく口の中に詰めれるだけ詰め込んだ。
「そういえばナレーターさんは食事とかいらないの?」
『私はもう食べましたよ』
「い、いつ? たった数行だったじゃん!」
『やっぱり第四の壁のアクセス権は、作者にかけあって無くしてもらうようにしないと』
「なんの話をしているの?」
『藤井様、ついていけない人がいるので、第四の壁への干渉は最小限にとどめてください』
「……わかった」
「それはそうと、藤井君。もうちょっと上品に食べてください。あちこちにパンくずがこぼれているわよ」
農家にお礼を言って二人は白竜の眠る森の奥へと向かった。
「なぁ、どうしてこっちってわかるんだよ?」
「召喚者は自分の召喚対象の場所を大まかに知ることができるのよ」
「どんなふうに?」
「ええ? うーん……」
召喚者と召喚対象は互いの魔力が繋がっている状態である。召喚者であるカレンは白竜から発せられる魔力を頼りに探し散る。いわば暗闇の中で、超音波の反射を利用して飛んでいるこうもりのように、魔力の反射を利用してカレンはドラゴンを探すのだ。
「やっぱ解説助かるわー」
「ほんとにそうね。私、説明するの苦手だもの」
『お役に立てて光栄です』
「それでカレン、ドラゴンはここからどれくらい離れているんだ?」
「おおよそ一キロくらい先かしら? 動いていないから寝てるようね」
「お、チャンスじゃん」
「ええ。急ぎましょう」
雲ひとつない晴天でも、森の中は絡みつくように生える木々によって、薄暗く、不気味さをだしていた。
そんな中、時々、ネズミが足元を走ったり、蜘蛛の巣が顔に付いたりするたび、カレンは甲高い悲鳴をあげて、藤井に助けを求めた。
「いい加減にしてくれよ、お嬢様〜。大したことないだろ」
「な、なんであなたはそんなに落ち着いていられるのよ!」
「いや、田舎育ちだから、虫とか蛇とか友達だし」
確かに藤井は黒光りする例のやつも手掴みするほどの――
「ああ! カレンが倒れちまった! どんだけGに耐性ないんだよ!」
私はそっと、カレン様がいるときは例のやつの話をしないことを決意した。
「まだー?」
「もう少しよ。辛抱して」
カレンが回復してから再び歩き出した一行は、相変わらずカレンの探知能力に頼って白竜を探していた。
そして彼らは森の中から突如現れた草原を見つけた。
あたりには小さな木の枝が散開しており、ドラゴンが着陸した際に折れたものだとカレンは藤井に教えた。
「ドラゴンは飛び始めと飛び終わりに最も羽ばたくの。だから周りの木々がその風圧の衝撃で折れたり、羽が当たって木が倒れたりするのよ」
「解説乙!」
そして、少し進んだところに、彼らが探していた白竜が丸くなって眠っていた。
白龍の名にふさわしい大きな純白の体に、爬虫類を連想させるツルッとした頭、そして鱗に覆われた長い尻尾は藤井を圧倒した。
「これが、ドラゴン……」
「起こすわよ。準備して」
固唾を飲み込んで、藤井は習ったこともない太極拳の構えをとる。カレンからもらった召喚術式から発せられる光のおかげで、見た目だけは強そうに見える。
「大丈夫だ。ゲーセンでは負け知らずだったから」
「……何のことかよくわからないけど、いくわよ」
スッと息を吸ってドラゴンに呼びかける。
「強大な力を持つものよ。我の召喚に答えたものよ。その目を開け、我を見よ」
「なかなかサマになってるな、オイ」
『藤井様、もうちょっと緊張感持ってください』
鋭く息を吐いてドラゴンは首を上げる。たったそれだけのことだが、その巨大な体は見るものを怖気つかせる。
ドラゴンは何も言わない。カレンは自分の首筋に生温い汗を感じながら、ドラゴンに話しかけ続けた。
「大地を震わすドラゴンよ。我の力を知り、召喚の理をもって、我に従いたまえ」
その言葉に反応するように、ドラゴンは黄色い瞳を藤井に近づける。ドラゴンは鼻息を藤井に当てながら、藤井を観察した。
太極拳の構えをとったまま、藤井は凍ったかのように動かなかった。
「いくわよ」
そう言って、カレンは自分の手を藤井の背中に押し付けた。
一瞬青い閃光が二人と一匹を包み、その直後、大きな魔法陣が地面に現れたかと思えば、それは回転を始めた。
最初は魔法陣の記号や模様が識別できたが、回転のスピードが上がるにつれて、それらはただの線になってしまった。だが、藤井にとって、そんなことはどうでもよかった。
速度が上がるにつれて増す輝きのほうが藤井の注意を引いた。そして、魔法陣の光が、目が開けられないほどになったとき、青い稲妻がドラゴンに直撃した。
ドラゴンは雄叫びを上げた。
耳をつんざくほどの轟音が森をガサガサと揺らす。
灰色の大きな煙がドラゴンと藤井たちを包む。
「やったか?」
藤井はこれほどまでにお約束のセリフ(あ!そうだった!)をつい口にしてしまった。そしてお約束と言うだけのことはあり、作者はそれを無視する気は毛頭ない。
「ナレータああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
『作者の意図なんで私にはどうしようもありません』
「ガッデム!」
「来るわよ!」
カレンは振り向いて、地面の上できれいなクラウチングスタートを取る。
そして、藤井がその姿に唖然としている間に、見た目に似合わない速いスピードでカレンは走り出した。
「お、おい!」
「早く逃げなさい! 制御魔法が失敗した今、ドラゴンを止める手立ては私にはないわ!」
「ここまで来るともうすがすがしいくらいだぜ! 逃げるぞ、ナレーター!」
『あ、私は逃げなくて大丈夫なんで、藤井様は自分の身の心配だけをしてください』
「そうだった――とぅあ!」
ドラゴンの咆哮の衝撃波で、藤井の体は簡単にバランスを失い、森の中に転がるように入っていた。
「そういやナレーターは説明してなかったけど、ここ、結構傾斜なんだよなぁ」
藤井ののんきなセリフとは反対に、藤井の前のめりで転がるスピードは上がっていく。
「のあああああああ!」
召喚の時と同じようなダサい叫び声をあげながら、藤井はどんどん転がっていく。
「ダサいとか言うなあああああああ……これでもおおおおおおお……主人公なんだぞおおおおおおお!」
『本当に第四の壁に対するデリカシーがありませんね』
「あら、あなたたち追いついてきたのね?」
転がる藤井を横目で見ながらカレンは言った。その細い足のどこからこれほどのスピードが出るのだろうか。さすが、常習遅刻犯だけのことはある。
「失礼ね!」
カレンは自分の上に突如現れた大きな影に気づいた。もちろん見ないほうがいい。
「しまった! 追いつかれたわ! 一回止まって! ……あれ?」
カレンは、藤井が大きな木の根っこに頭をぶつけて気を失っていることに、気づいていなかった。
「なんでそういう大事なこと先に言わないの⁉」
『私に言われても……』
そうしている間にも、藤井は完全に重力に身をゆだねながら森の中をハイスピードで降りていった。
「ああ、もう! 助けに行くわ!」
私はふと「カレン」と書かれた設定の項目を見た。
そこには作者の汚い手書きの字で『自己中心で、言葉使いがていねいなじゃじゃ馬』と書かれているが、今のカレン様の行動は真逆だ。
……これも藤井様の第四の壁のアクセス権の影響なのだろうか。
「またなんかよくわからないこと言ってる……」
『大丈夫です。エピソード第二十話ぐらいになったらカレン様も第四の壁のアクセス権がもらえますよ』
「……今、何話なの?」
『い、一話です』
「作者にがんばってください、と言っておいてあげてください」
『……了解しました』
「それよりもっ!」
まずは藤井を助けなければならない。
いつもなら自分だけを気にするカレンが、他人のために動いた。
カレンは、無数に生える木の根っこをホップステップでかわしながら、最後に大きなジャンプで藤井との距離を詰める。
「待ちなさい!」の声は藤井に届くはずもなく、カレンは舌打ちをして藤井を追いかけた。
ドラゴンの怒りの咆哮を背中で受け止めながら、カレンの足はただまっすぐに藤井を目指していた。
だが、そうこうしている間に藤井の体は一本の大木に向かい始めていた。
そしてカレンが目をそらすと同時に、派手な音が辺り一面に響き渡る。
「ぐあああ! 痛あああああ!」
木にぶつかった衝撃で藤井は目を覚ました。
「ほら立って! ドラゴンが来るわよ!」
カレンが藤井を立ち上がらせようとしたが、白竜の着地の衝撃で、二人とも大きく吹っ飛んだ。
「きゃあああああ!」
「ホーリーカウ!」
「ドラゴンよ!」
「それ、今言うか!」
確かにこのドラゴンは一度たりともブレスを吐かなかった。だが、大きな体で踏みつぶせば人間なんてどうとでもなかった。
「藤井君! こっち来て! 一時的だけどアイツの動きを止めるわ!」
「オーケー、そのあとは?」
「止めたら考えるわ!」
「ノープラン、ノーホープ。最高のシチュエーションだぜ」
今にもドラゴンがカレンを踏みつぶさんとばかりに迫ってきていた。
藤井はカレンのほうへ走り、カレンを庇うようにして、魔法発射準備を整える。
「風の力よ、邪悪なものを、止めるべし!」
詠唱のあとに藤井の体は鈍い青色から淡い緑へとかわり、ツタのようなものが藤井の周りから現れてドラゴンを止めた。
「……すごい、あれなら二分は止められるわ!」
「いいから早く手段を考えろ!」
「そんなこと言っても……」
「なんでもいいから! 早く!」
「えーと、えーと……」
「ああ、くそ! お嬢様しっかりしてくれよ!」
「焦らせないで! 余計わけわかんなくなっちゃう!」
「チッ」
「……舌打ちしたでしょ」
「え?」
「今、舌打ちしたでしょ」
「ああ、たぶん……」
「謝って」
「このタイミングで?」
「そうよ」
「ちょっと冷静になれよ。今は目の前の……」
「謝らないと私の気が済まないわ。早く」
「えーと、じゃあどうもすいませんでした。これでいいだろ」
「ぜっんぜん誠意がないわ。もっときちんと」
「ふざけるなよ! 今は時間が限られているんだぞ!」
「あなたが誤ればいい話じゃない!」
「こんな猫の手も借りたいときに……」
藤井は突然何かに気が付いた。
第四の壁のアクセス権を使えば、藤井が干渉するだけでなく、外から見ている誰かを干渉させることもできるのではないか。
「……カレン。今すぐ召喚の魔法陣を描いてくれ」
「謝罪は?」
「あとでいくらでもしてやるから……早く!」
「……わかったわ。でも何を召喚するの?」
「今は説明する時間がない。とりあえず俺が召喚できるようにしてくれ」
カレンはうなずいて、腰のポーチに入れておいたチョークの粉を地面の上にかける。
「どうやっても一分はかかるわ」
「一分あれば充分だ。たぶん」
「今、たぶんって言った!」
「いいから早く!」
カレンは藤井の意図が掴めないまま、ただ闇雲に召喚の魔法陣を描いた。
円形の中に等間隔で突き詰められたルーン文字を間違えぬように、カレンは迅速だが丁寧に魔法陣を作る。
その様子はケーキ屋である藤井の父親がショートケーキを作る様子にどこか似ていた。
「できた! 準備完了よ!」
「よし! どうしたらいい!」
「手を陣の中に入れて、私のあとに続いて言って!」
「いいぞ!」
「我らと異なる存在よ」
「我らと異なる存在よ」
「その体は鋼より堅く、その英知は偉大なり」
「その体は鋼より堅く、その英知は偉大なり」
「「我は命ず、我と契約し、我の願いを叶えたまえ」」
「「ここに森羅万象の理を以って、ここへ来たれ!」」
召喚の魔法陣は彼らの言葉を聞き遂げると、赤い光を放ちながら地面から浮き上がっていった。
ちょうど藤井の目の高さほどになった時、魔法陣は止まり、素早く回転し始めた。
そして魔法陣と地面の間にまばゆい光の輪が発生し、見るものを眩ませた。
「なんか出てきたけど大丈夫なのか?」
「大丈夫! ここまで来たならもう召喚は確定よ!」
「……ナレーター。そういやさ、これってどういう原理なんだ?」
『一種のテレポートです。あの光の円柱の中に召喚対象を移動させるのですよ』
「へー」
光の輪がフラグメントとなって空中に消えてなくなると、そこにはインドア系の眼鏡をかけた女子が座っていた。
「え、な、なんなんですか? こ、ここは!」
「おい! 立てるか!」
「ふえ? は、はい!」
「走るぞ! ついてこい!」
「え、え、どうして!」
「いや、別に走らなくてもいいぞ。後ろのドラゴンに踏みつぶされてもいいならな」
「ドラ……って、きゃあああ!」
ドラゴンは風の拘束を破壊して、藤井たちにハリウッド映画のモンスターさながら近づいてくる。
「ほら! 早く!」
「どうしてあたしがこんな目にー!」
藤井たちは走り出した。後ろからドラゴンは地面を鳴らしながら近づいていく。
「どうしてー! どうしてなのー!」
「うるせぇ! 死にたくなきゃ走れ!」
「あんたってそういうキャラだったっけ?」
「少しは緊張感持てよ!」
『それ藤井様が言うセリフじゃないと思いますが』
「シャラップ! いいか、走りながら俺の言うことをよく聞け!」
「「ゴクリ」」
「そこのメガネ」
「メ、メガネ……」
「あんた読者だろ?」
「え?」
「だーかーら、この世界の読者だろ? ナレーターが物語に介入してく話の!」
「え、ええ。そうですけど。なんで私がこのせか――」
「小さいことは後回しだ! あんたには俺たちの世界に触れることができる!」
「触れるって……」
「どうやって俺たちを見てたんだ!」
「え、ほ、本ですけど」
「その本は?」
「ここに……」
「おい、ナレーター」
『なんでしょう?』
「あんたができないのはネタバレだけだ! この世界のタイトルを言いな!」
『し、しかし!』
「おい、ここには部外者、それも作者の世界のがいるんだぜ?このメガネが死んだらお前は責任取れるのか、ゴラァ!」
『くっ……《ナレーターが異世界にログインしたようです》……です』
「それで間違いないか! メガネ!」
「間違いないです! そろそろメガネ――」
「俺が『今だ!』って太文字で言っている箇所からあとのページから破り捨てろ」
「え!」
『ちょ、藤井様!』
「責任は作者が取る! お前じゃねぇ!」
『そういう問題じゃありませんよ!』
「メガネ、お前自分の名前言いたいだろ! そうするには後ろのドラゴンを何とかしなきゃならない! それができるのはお前だけなんだ!」
『だめです! そんなことしたら作者が徹夜で考えたシナリオが!』
「うるさい! 主人公が物語を進めるんだよ! いくぞ――今だ!」
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(ここからは作者の都合より、数ページ先から改行詰めをした状態で始まります)
「一体何があったって言うの!」
「とりあえず生きてる。よかったー」
「も、もういや……」
『ああ、世界法則がねじ曲がっていく。作者様の努力も水の泡に……』
「大体こういう設定にした作者が悪いのさ。じゃなきゃこんなことにはならなかったさ」
『一応神様ですよ! 私たちを生み出した人ですよ! なのにこんなふうに世界を荒らしちゃっていいんですか!』
「あ、ナレーターがキレたわ」
「キレましたね」
『こんなことになるんだったらタイトル言うんじゃなかった……』
「こんどはヘコんだわ」
「ヘコみましたね」
「もう、あきらめろよー。やっちまったもんはしょうがねぇんだから」
『……そうですね。せっかく引きこもりでもできるいい働き口があったのに、第一話でクビとか、、マジで首つりものですよ』
「く、首だけにな」
「笑えないわ」
「笑えませんね」
「ていうか、ナレーターって仕事なの? あれって給料出てたの?」
『最初に言ったじゃないですか、ナレーターやってますって』
「いや、四次元的存在か何かかと思ってたから」
『……』
「誰か―! 誰か解説できる人いませんかー!」
「何なのこの状況」
「何なんでしょうね。あたし、そろそろ帰りたいんですけど」
「おお、いつでも帰っていいぞー。お前の役目は終わったからなー」
「じゃあお言葉に甘えて一発殴って帰ります」
「おう! ……えっ?」
「行きますよー! カイザーナックル!」
「あ、藤井君が潰れたパンみたいになっちゃった」
「そうですよ。このパンチは食らわせた相手の顔をカイザーロールにする効果がありますから」
「嘘だろ! 絶対!」
「もう一発いきますか? ジャムパンチ!」
「それはパクッ――ぐえ!」
「あ、藤井君の鼻から……」
「大丈夫。それはクランベリージャムです」
「せめてラズベリーのほうがよかった……」
「うるさいですね! こんどはアンパンを持ち出しますよ!」
「それは絶対やめて! 著作権とかで作者が訴えられちゃうから! すでにジャムでクレームくるレベルだよ? 作者のSNSが炎上しちゃうよ?」
「大丈夫。そこまで有名じゃないわ、彼」
「マジですか」
「だからいくわよ? あーん……」
「ぎゃあああああああ!」
「ねぇ、ナレーター。藤井君、まだ殴られてないのに叫び声あげてるけど、どうして?」
『そうですね……人の物を取ったら泥棒ってことですよ』
「ふーん。よくわからないわ」
『ま、第四の壁のアクセス権があればわかりますよ』
「そのうちってこと?」
『永遠にこないかもしれませんが……』
「え? どういうこと?」
『……いえ、お忘れください。それより、あなたがたも帰らなくていいんですか?』
「帰るわよ、そのうち。だけどあれじゃあねぇ……」
『……そうですね』
「ほ、ほめんなふぁい。も、もうゆふして」
「じゃあさっさとあたしをもとの地球に戻しなさいなー!」
「ファレーン! たふけてー!」
「ハイハイ……ミヤモトさーん、そのへんにしといてあげてくださーい。藤井君のジャムが全部出ちゃいますよー」
「そーですねー。これくらいにしておきましょー」
ミヤモトは藤井の襟首を放した。藤井は糸の切れたマリオネットとのように、ドサリと地面の上に落ちた。
「で、あたしはどうやったら帰れるの?」
「な、ナレーふぁー……」
召喚魔法は召喚者と召喚対象者は魂の契約に従っている。ゆえに、両者の承諾さえあれば、召喚対象はもとの世界に戻ることができる。
「帰らせてー。ねぇー」
「きょ、きょふぁしまふ」
藤井の言葉に反応するようにミヤモトの体は地面に現れた魔法陣に吸い込まれるように消えていった。
「大丈夫? 藤井君」
「ふぃにくいっふぇんの?」
「とりあえず帰りましょう。今帰ったら、晩御飯には間に合うわ」
「ほーふぇー」
「……締まらないわね」
馬車に乗って、藤井たちは来た道を戻っていった。
真っ赤な太陽をバックに、藤井たちの馬車は自分たちの家へと戻っていった。
藤井が初めて見たこの世界の太陽は、地平線にゆっくりと沈んでいく太陽は、藤井をそっと応援しているように見えた。
「次回の《ナレーターが異世界にログインしたようです》! この異世界に新たな人物が登場! それは……」
『藤井様、露骨な次回予告やめましょう。この世界の説明形式はアニメではありません』
「だけどさ、もしアニメになったらこの部分どうするんだ?」
「……たぶん永久にこないから安心してくだ……ぐふぇ!」
「おい、どうしたんだ、ナレーター? 応答しろ、ナレーター! ナレーターーー! ……カレン! とりあえず台本通り頼む!」
「えーと……ぜひ次回もよろしくおねがいしまーす。これでよかったのかしら?」
作者の秋野三郭です。
こんなやりたい放題な内容の物語を楽しんでいただけたら幸いです。
たぶん、「どうしてこうなった」と思う方が多いと思いますので軽い小話を。
最初は主人公チートの異世界物を書こうと思い、筆を走らせるとあの冒頭の「えええええええ!」ができあがりました。主人公ダッセェなおいこれほんとにチートものかよになったので、自分のツッコミをナレーターが入れてくれたらなーと思ったらこんな作品になりました。
よって主人公超残念です。ヒロインも大概ですが(笑)
それでも、書いてるほうからすると、超楽しかったです。
この自分の楽しさが読み手にそのまま伝わったらいいなと祈っています。
あと、本編最後の次回予告ですが、あれは嘘です。
次回作なんてまったく考えていません。現にこれ短編小説で投稿していますし。
期待させたらすいません。さんざん本編内で「続き書くよ」感出していますが、ギャグとしてスルーしておいてください。
まぁ読みたいって言うんだら……書いてあげてもいいんだからね。
ツンデレ? 違いますよ?
最後にインターネットと小説家になろうにめっちゃ感謝を送ります。僕のような三流作家でも気軽に投稿できるのは素直にありがたいです。
あと、この小説を書くに至って参考にした映画「デッドプール」と「フェリスはある朝突然に」に、盛大な感謝。
そして最後まで読んでくれた読者の皆さんにも感謝します。本当にありがとうございます。




