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8/8 鈍感男がもたらしたリア充的スケジュール





            *   *   *




『つまり、よっしーと同僚ちゃんというリアル彼氏と、ネット交際してるネット彼氏?三人と付き合ってる訳か、後輩ちゃんは』


『だとさ』


『後輩ちゃんパネエwww三股かよwww』



 他人事に爆笑していられるネトゲの相棒が、豊島は心底羨ましかった。


 例のバグ修正のための休日出勤は思いの外あっさりと作業を終え、昼過ぎくらいに修正版が仕上がった。豊島と茂松は帰り支度をしながら昼飯に行く店を決め、会社を出る前に喫煙室に立ち寄った。


 そこで少し前日のいざこざについて触れたが、修正作業の疲れかはたまたその前日の疲れからか、二人の議論はあまり長く続かなかった。


 現状維持。とりあえずそう結論づけて、二人は遅めの昼飯を軽く済ませて早々に帰宅した。


 帰宅してすぐにいつものネトゲを開いた豊島は、縋る思いでLizの姿を探していた。そして広場を無意味に駆け回る彼をようやく見つけて、前日の出来事を洗いざらい彼に打ち明けていたのである。



『疲れる連休だったわ。急な休日出勤までさせられて』


『それでかwなかなか来ねーなーと思ってたらw』


『午前中からいたのか?』


『昼くらいからだけどなwバイトの時間までによっしー来ないか待ってたw』


『ありがとな。気楽に話せる相談相手がいてくれて、かなり助かってる』


『相談くらいいつでも乗ってやるよ相棒!』



 バイトの時間、とLizが発したメッセージを見返して、豊島は壁掛けの時計を見やる。


 そろそろ晩飯について考える時間になるだろうかと予測していたが、時刻は五時を回っていた。


 Lizの詳しい出勤時間など知らない豊島は、それでも彼の晩飯や出勤の支度なども考慮して、あまり長くネトゲに興じてはいられないだろうと予想する。


 いつ会話が中断してもいいように、豊島は伝えるべきことを優先に打ち込んだ。



『俺と同僚はとにかくその子の好きにさせるってことでFA。これからも三人で遊ぶことにしたわ』


『え、現状維持?どっちが後輩ちゃんの本命になるか決まらず?』


『それもあの子に任せる。俺らはお互い、どっちを本命に選んでも今んとこ文句ないし』


『受け身いくないぜ?日和見してるうちにネット彼氏に本気になっちゃったらどうすんだよ』


『どのみち俺らは考えてる余裕がねーの。仕事すらいっぱいいっぱいなんです』


『やだねえ仕事人間は。せっかく本命選びにうってつけの時期だってのに』


『うってつけ?何が?』


『もうすぐクリスマスだろw』



 その字面は、これまでの豊島に全く縁のない物だった。


 クリスマスといえば、バレンタインデーと並ぶ恋人たちの一大イベント。一般的にも、豊島でさえそう認識している。


 Lizの意図を思案して、豊島は導き出した推論を打ち込んだ。



『クリスマスまでにどっちが彼氏になるか決めろってこと?』


『そのとーり!』


『もう半月もないだろ』


『半月あればじゅーぶんっしょ!イブに後輩ちゃん告っちゃえ!』


『どーせイブもクリスマスも仕事だろ…』


『おいwwwちゃんとカレンダー見ろしwww』



 Lizの指摘に首を傾げながら、時計の下にさげられたカレンダーに目をやる。


 あ、と思わず声を漏らしてカレンダーの右下を見つめながら、豊島は同時に昨夜の続きを思い出した。







            *   *   *




「――次のカラオケ?」


「はい。いつにします?」


「いつの土曜がいい?」


「土曜はいつでも空いてますよ」



 豊島の問いかけに答えながら、菜々は楽しげににこにこと笑っている。


 ある程度時間が経って悟りの境地に到った豊島は、煙草をふかしながらスマホを開き、仕事のスケジュールを書き込んでいるカレンダーを眺める。


 二人が何を話していたのか興味津々に問いかけてしまった茂松は、包み隠さず全てを口にした菜々の言葉の衝撃の大きさに、豊島の横で死体のようにテーブルに伏している。


 内緒にしてほしいと豊島に念を押していたはずの、茂松のどこが好きかという話さえ、菜々は本人を目の前にして堂々と打ち明けたのだ。


 恋愛事に不慣れな魔法使いには、よほど刺激が強すぎたらしい。茂松に対してある程度のフォローをしたつもりの豊島は、伏せる彼を放置して逡巡する。



「第四土曜なら大丈夫そうかな」


「えっ」


「都合悪い?」


「いえ別に。豊島さん達、仕事の都合がなければ…」


「第三土曜は俺とシゲ、出張の予定あるからさ。第四だったら俺は仕事ないけど、シゲは?」



 伏せる茂松をようやく揺り起こす豊島。疲れ切った顔を上げて、茂松も億劫げに自分のスマホに手を伸ばしてスケジュールを確認する。


 普段からスマホのカレンダー機能をスケジュール管理に多用している茂松は、何も書き込まれていない第四土曜日を見つめて眉をひそめる。



「……24日じゃん」


「今んとこ、何もないか?ゲームの発売日とか言うなよ」


「いや、それもねーけどよ…」



 茂松は仕事のスケジュールだけではなく、ゲームやアニメDVDの発売日もカレンダーに書き込んでいる。そのことを知っている豊島は、それを理由に彼がカラオケを断ると本気で思ったわけではないが、念のため釘を刺したのだ。



「まあ…年末だし。追い込みの仕事がない限りは大丈夫だけど」


「営業の年末の挨拶回りは?」


「土日はやらねーよ」


「なら、24日にするか」



 カレンダーに予定を打ち込んで詳細をどうするか問う豊島に対し、茂松と菜々は集合時間やら二軒目の店やらをいつも通りに提案し合った。


 三人がいつものように次に会う予定を決める中、ふと茂松と菜々は示し合わせたように目を合わせる。


 何も気づいてない。お互いに彼に対して同じことを思っていたと視線で確認し合い、二人で密かに苦笑を浮かべた。


 三人が次にカラオケに集まる日は、12月24日。


 クリスマスイブに三人で集まることを提案した豊島がその事実に気づいたのは、それを約束した次の日になってからだった。




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