1/8 みなし扱いでリア充になったものの
【第四章】
豊島は出会い頭に爆弾を投げつけられた。
「は!?」
ドカン、と威勢よく豊島のキャラクターが後方に吹き飛ばされる。
不意の出来事に思わず声を上げたが、広場にいてこんなことをするのはあの男しかいないと豊島は呆れかえりながら、ダメージを受けた自分のキャラに回復アイテムを与えた。
『リア充おつー!昨日はどうだったよ?』
画面に現れたのはやはりLizだった。
『マジで爆弾投げやがった…』
『今日はバッチリ用意しといたwww』
『普通に絡んでこい普通に』
『すまんすまんwww』
相変わらず草だらけのLizのメッセージに思わず笑いが漏れる。
二日目の休日である日曜日も、豊島は日の高いうちからいつものネットゲームを開いていた。
起動してすぐに馴染みのプレイヤーが爆弾を持って待ち構えているなど、想定していなかったが。
『で、どうだったの?デート』
『だからデートじゃないっつの』
『後輩ちゃん誘わなかったの?』
『まあ成り行きで誘ったよ。カラオケ行ってきた』
『ktkr!三人でデートとかリア充度たけーな!』
よほど他人の浮いた話を聞くのが好きなのだろうか。豊島のメッセージに間髪入れずに返事を返してくるLizの勢いに思わずほくそ笑む。
『もうデートでも何でもいいけどさ、とにかく楽しかったよ』
『よかったな!昨日のカラオケでよっしーも後輩ちゃん見る目変わったんじゃない?』
Lizが送ってきた文章を頭の中で反芻するも、豊島はいまいちピンと来ない様子で首をひねる。
『見る目って?』
『もー相変わらず魔法使いなんだからよっしーは』
『意味わかんねーし』
『付き合ってもいいかなー、とか思わなかったん?』
…そういう意味か。ようやく合点がいって、豊島は返すメッセージを逡巡する。
また爆弾を投げられる予感がしたが、豊島は構わずキーボードを叩いた。
『よくわかんねーけど、付き合うことにはなったよ』
それを送信してからLizが次にとる行動を色々と予測して、豊島は防御の姿勢をキャラクターにとらせる。
だがLizは特に変わったこともせず、メッセージだけを返してきた。
『よかったじゃん!彼女できて!』
やけにあっさりとした反応を返すLizに、思わず豊島は呆気にとられる。
意外な返事にどういった言葉を返すか考えているうちに、Lizは立て続けにメッセージを送ってきた。
『でもその感じだと、よっしーはまだ付き合うことにピンと来てない感じ?』
Lizの言葉は確実に豊島の図星をついていた。
確かに、ピンと来ていない。その確たる理由も一つだけわかっている。
『だってよ、その子の彼氏になったの俺だけじゃなくて、一緒にいた同僚もその子の彼氏認定されたんだわ』
『それなんてエロゲ』
実にしっくり来るLizの返しに、思わず豊島も頷いてしまう。
菜々が豊島と茂松の彼女になった。この状況は一般的に考えて付き合っている、つまり恋人として交際していると公言していいものなのか。
『まさにエロゲだよ。これって付き合ってるって言うの?』
『言うんじゃね?彼氏が二人いようが、後輩ちゃんはよっしーの彼女になったわけだし』
『そんなあっさり認定していいもんかね…』
『そこまで気にするなら同僚ちゃんと相談すれば?彼氏の座を譲り合うもよし、奪い合うもよしw』
後輩ちゃんの呼称に違和感はないが、同僚ちゃんという表現には無理がある。そんなどうでもいいことを気にしかけたが、Lizの提案に豊島は一旦腕組みをして考え込んだ。
豊島は長らくの間、菜々の好きな相手は茂松だと思い込んでいた。今になって豊島のことが好きだと仄めかしたりしたこともあったが、彼女は念願叶って茂松の恋人になれたのだ。
しかも茂松は一度菜々と付き合うことを拒んだはずなのに、昨日の一件に関しては彼氏になることを断らなかった。
菜々の恋人となることに抵抗を感じなくなった茂松の心変わりの表れだろうか、はたまた実は押しに弱い奴だったか。
多様に推測することはできたが、結果としてかつての菜々の希望が叶ったのだ。
どう考えても菜々の彼氏の座は茂松に譲るべきだ、と豊島は思った。正直言って、豊島は菜々の彼氏という立場に依存する気はない。
(とはいえ、どのみち菜々ちゃん次第なんだよな…)
仮に、茂松に彼氏の座を譲ることが、菜々の望んでいない結果だったとしたら。
豊島が菜々の恋人になることが、彼女の望みだったとしたら。
(……結局、振り出しじゃねーか)
菜々が今、二人のどちらを彼氏にしたいのか。二人のどちらが好きなのか。それがわからない限り、彼女の望む形になれない。
茂松と二人で散々議論し合ったことを、また悩まなければいけない。
豊島は組んだ腕を解き、頭を抱えて途方に暮れた。
『早速考え中か?w』
メッセージを受信する音で豊島は我に返ってモニタを見る。会話が途切れたことにLizがしびれを切らしたようだ。
『悪い。なんか最近考え込むクセついたみたいで』
『そんなに真面目モードで悩むことか?』
『当たり前だろ。真剣に考えてやらないと彼女に申し訳ないし』
『優しい魔法使いさんやねw鈍いけどwww』
付け足された一言にむっとなったが、Lizの含みのある言い方が豊島は気になった。
『じゃあお前ならどうすんだよ。もし俺と同じ立場だったら』
改めて豊島の鈍さを指摘してきたのは、Lizの中である程度の答えに気づいているということだろう。そう思いながら、彼は期待を込めてLizの返答を待った。
譲るか、奪うか。彼の性格を考慮すると、後者の可能性が高いと豊島は予想する。
だが、どちらでもない答えが返ってきた。
『オレなら頑張る!』
『頑張る?どゆこと?』
『その子に相応しい彼氏になれるように努力するってことだよ。何も変わんなくたって、自分が努力して頑張ってるとこを彼女が見てくれてたら、彼女の方から自分をちゃんとした彼氏に選んでくれるだろうから』
やけに真摯な長文を送ってきたLizのメッセージに、豊島の目が釘付けになる。
譲る姿勢も見せず、無理に奪うこともしない。彼女が誇れる恋人となるために、努力して頑張ること。
それがLizの導き出した答えだった。
『なんかよっしーにつられてオレまで真面目モードで語っちゃったよw』
『いや助かるよ。かなり盲点だった』
『ならよかったw』
『どう頑張ればいいかはわかんないけどなw』
『後輩ちゃんのことちゃんと好きになれば頑張れるってw』
おそらく何の気なしに発したのであろうLizの一言に、豊島の手が止まる。
(菜々ちゃんのことを、ちゃんと好きに…)
彼女が何を想うか。何を望んでいるか。豊島はそればかり気にしていた。
自身は、菜々のことが好きなのだろうか。




