第4話
「死ぬかと思ったよーっ」
私は安堵のため息をつく。
今日、英単語テストがあることをすっかり忘れてしまっていたのだ。
それもこれも香椎のせいだ。と無理やり自分を正当化していく私のスタイル、クソだな。
そこで急遽、杏子にヤマを張ってもらった。
それがなんと、全て的中。杏子様様である。
「いや、まさか私も全部当たるとは…」
いやいや、謙遜すんなって。
ふと、教室を見回すとしーちゃんが頭を抱えている
「詩織、あんた何点だった?」
「……0。」
おっと、聞き間違いか?
あんなに真面目なしーちゃんが0……?
「あんたが0なんて珍しいわね」
あからさまに斜め下を見る詩織。やや沈黙が流れる
杏子選手。地雷を踏んだかーッッ!
「ごめん。流石に失礼だったな…」
おぉ、さすがの杏子選手も謝ったか。
いや、この子は根はいい子なんだようんうん。
「違うの~ただ、テストの範囲を間違えて~」
「なんだー、まぁ、そういう時もあるよな」
杏ちゃんはそう言って伸びをした。
確かに授業は短縮だが疲れはいつもと変わらない
「数学の柳瀬め…。いつもわざとらしく私を当てやがって」
「まあまあ~しょうがないよ~」
詩織さん?何がしょうがないのか
原稿用紙30枚くらいのレポートを提出願いたいね。
「くだらないこと言ってないで。弁当食べたら、私達はダンボールの塗装だぞ。」
「了解~」
淡々と午後の予定について話していく2人は
やり手の会社員さながらだ。いや、本物の会社員なんて知らないけど
あれ、今私、置いてけぼり?
「そういえば、隣のクラスはカフェするんだって?」
「かっこいいねえ~」
「あ、だったら杏ちゃんとしーちゃんメイド服になってよ!そうすればっ……ぐふぅ」
杏子様の豪快な右ストレートが菜月の腹にクリティカルヒット。
あ、やばい。吐き気が…
朝のご飯が胃の中から下界へと解き放たれてしまう。
まだ、時期が来てないからね封印は解かないけど
その時期は2度と来ないと思うが。
きっと、多分、おそろく、メイビー
「脱出ゲームにメイドがいるか馬鹿!」
ごもっともでございます。
机をくっつけて私達は弁当を広げる。
「いつも思ってるんだけど杏ちゃんのお弁当美味しそうだよね~」
「ありがとう。私もいつも思ってるんだけど詩織の弁当は量が多いな」
詩織さんや。そんな眩しい笑顔で重箱を出さないでおくれ
見てるだけで胃がもたれそうなんだけど……。
「杏ちゃんは確か手作り弁当だったよね」
「手作り!?」
バンッと机を叩き詩織が立ち上がる
その顔はいつもの詩織様スマイルではなかった。
「杏ちゃんの手作りお弁当…」
下を向き、肩をわなわな震わせている。
「もしかして、私の弁当食べたいのか?」
「っ…!!頂きますっ!!!」
半ば強引に杏の弁当を取り上げ一瞬で平らげてしまった。
「最高……♡」
目がとろーんとなって恍惚の表情を浮かべ満足している。
なんだかすごい卑猥だよ詩織ちゃん。
そして、杏は苦笑い。
まさか自分の弁当を全て食べられてしまうとは思っていなかったのだろう。
「の、残りの弁当はどうするんだ?」
「あっ、そうだね食べなきゃ~」
そういって重箱の蓋を開けてもりもり食べ始めた。
もうお気づきだとは思うが、詩織ちゃんは底無しの大食いである。
華奢な身体のどこにあの量が入っていくのかわからない。
「むしろ本人よりも弁当の方が体積大きいだろ…」
結局私は見ているだけでお腹いっぱいになり
あまり食べられなかった。