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第3話



 六月上旬。梅雨の訪れを全く感じない、晴れた日の午前六時前。

学校に行かなくてはと重い足取りで洗面所へ向かう。



 今日は文化祭の前日。昨日から授業は短縮になっており、

午後から最後の準備に取り掛からなければならない。

コツコツやってきたが、正直完成させられるかはわからない。



私は、そんなことを五秒くらい考えた後、

つい先日買いためた同人誌の山を誇らしげに眺めながら制服に袖を通した。



待っててね。文化祭が終わったら絶対読むからね可愛い息子達!!

 愛しい愛息子達との別れを惜しみながら自転車の鍵を取って自転車小屋に向かった。



 「うぃーっす。おはよー遅い」

「杏ちゃん。おはよう!」

実は杏ちゃんとは、昔からの長い付き合いである。

腐れ縁と彼女は言うけれど、友達の少ない私にとっては唯一無二の存在だ。



「なに?気持ち悪い顔して」



朝から毒が体に染み渡ります……。



「ほら、さっさと行くよ」



 自転車を運転する。晴れた日の早朝は清々しい気分になる。

先ほど杏ちゃんから浴びた毒がキアリーも顔負けの勢いで消えていった。すげえな太陽。



でも、昼間になるとちょっと暑いな。

やっぱりあんた駄目だわ。



「杏ちゃんは当日の担当は何?」

「呼び込みだなプラカード持ち歩いて宣伝。」



ちょっと待って。何か楽しそう。

私なんか、脱出ゲームの出口で人数数える係だよ。



「楽しそうだね…」

「そうでもないだろ あんたの方が楽そうでいい」



 あー、信号に捕まってしまった。

絶対に捕まる信号ってあるよね

何なんだろうね、道路交通省に恨みでもかってるのかな私。



「冗談だって!そんなあからさまに落ち込まれると気が狂うだろー」



そういいながら杏ちゃんは肩を叩く

割と痛いんですが、これ

信号が青になった。自転車のペダルを踏む。

無駄話が多かったせいで遅刻すれすれじゃん!!



あ、私が家を出るの遅かったからか



 学校に着くと杏ちゃんは職員室に用事があると言って行ってしまった。

しょうがないので一人で自分のクラスに入ると、

クラスメイト四、五人がそれぞれの時間を過ごしていた。



そういえば四時間目に英単語テストがあったんだっけ

私は単語帳を開く。だが、範囲がわからない。

クラスメイトは確かに居るが、

こういう時に限って普段話さない人達ばかりだ。

……多分、ここの範囲でいいでしょ。



「疲れましたわ~」



うわ、最悪だ。私はあからさまに不機嫌な顔になる。

私は、基本的にいつもの二人と部員以外に友達はいないし作ろうとも思わないが、

心から嫌ってるやつはいない。



でもあいつだけは例外だ。香椎メイ。

彼女はスクールカーストの頂点に君臨する女王。

常に背後には親衛隊のような人達がついている。



容姿端麗。頭脳明晰。文武両道。

彼女は完璧だとみんなが口を揃えて言う。

いやいや、あんなわがまま姫のどこが完璧なんだ。



関わるとめんどくさいことになりそうなので

私は急遽、暗記をやめ、寝たフリをする。



「青葉さん、おはよう」



寝たフリを決め込んだのにわざわざ話しかけてくる。

そこまで大事な用事でもあるのだろうか、いやないだろう。

昨日習ったばかりの反語をさっそく使える私、天才か。



「おはよう。香椎さん 何か用?」



私はできるだけ苦手意識が伝わらないように返事をした。



「脱出ゲーム用の仕切りは完成したのかしら?」



「まだ終わってないけど、でもあと少しだよ」



「そう。それは結構なことね それで、別件なんだけど…」



そう言って、香椎メイは少し間を置いて



「杏子さ…いえ、春吉さんはどこ?」



なにか今言いかけた?

まぁ、今はこの話を終わらせることが最優先か。



「職員室に行ったよ。なんか、用事があるみたい」



「そ。」



そして、彼女はツカツカと教室を出て廊下を歩いて行った。

もちろん、親衛隊も一緒に。

そして、ガラガラと音を立てて扉が開かれしーちゃんが入ってきた。


「おはよ~」

「おはようございますであります。」



さっきのワガママ王女と打って変わって

しーちゃんのこの可愛さ。もう癒しでしかないな。



「なんで敬語~?」



新しい遊び~?と笑いながら

カバンから教科書を出して机の中に入れる。



「そういえば、今日は一人一個ずつクイズのネタを考えてくるんだったよね~」



あぁ、すっかり忘れてた。

クイズかーなんかいいの無いかな………。



「なっちゃんは当然面白いの考えてきてるよね~」



ニコニコした顔から発せられた言葉はなにか含むような意味がある気がしてならない。

天使が一気に悪魔に見えてきた。

堕天使か、かっこいいな。



「あ、当たり前じゃん!例えばね……」



失敗は許されない。これが一球入魂、私の全身全霊をかけたクイズだっっ!!!



「入れたのに出したことになるものってなーんだ?」



あれ、私今なんて言った…?



「………。」



しーちゃんがポカンとしてる。

いや、待て今のは誤解だ。断じて違う。

誰かが私に乗り移ったのだ。



「ということは無意識にそんなことを言ってしまえるのか…」



そう言って扉の前に杏ちゃんが立っている。

いつからそこに?!



「わかんない~難しい~」



しーちゃんは真剣に考えていたようだ。

よし、バカだ。ピュアバカだ



「答えは~??」

「答えは手紙でしたー」

しーちゃんはおぉっ!と感嘆の声をあげている。



「そういえば、香椎さんが杏ちゃんのこと探してたよ」

「え?そうなの?」



どうやら、香椎さんは出会えなかったらしい。

行き違いになってしまったのか、可哀想に。



そうこうしてるうちにクラスの半分くらいは席についていた。

帰宅ラッシュならぬ、登校ラッシュね。



まだ、六月とはいえ昨日までの雨でジメジメする。

ゆるま湯にずっと浸かってるような、

水圧で身体が動きにくい感覚。

気だるげが伝染して 街の中が大きな露天風呂になってる。

今日も暑い……。もうすぐ、朝のホームルームが始まる。




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