第1話
自分を肯定することは自分だけではできない。
だから、彼らは徒党を組む。
空気という実態や感情を持たないものを崇拝し、
何かに縛られ、何かにレッテルを貼ることで、自らを肯定する。
だとするならば、それを半ば、あるいは強制的に強いる
『仲間』というものほど恐ろしいものは無い 。
だがしかし、その『仲間』というカテゴリーに属することは
ハイリスクではあるがハイリターンなのである。
たとえカーストの中でトップでは無かったとしても
中の上、中の下くらいまでならば楽しく、比較的安全な生活が約束される。
リスキーなのはカーストの下になった場合だ。
いじる、冷やかす等の行為はカーストトップがほんの気まぐれで行う崇高な遊びでしかなく
その生贄となるのは下の身分のものだけ。
いわばあれだ。
目立ってる人気者が根暗なメガネ君を冷やかしたりしてるのは
貴族が娯楽のために奴隷を殺すみたいなのと一緒だ。
「いや待て、話が飛躍し過ぎだろ」
呆れ顔で首を降っているのは春吉杏子。
肩ぐらいまでのショートヘアに綺麗な二重
ボーイッシュな雰囲気の彼女はそこはかとなく魅力的で、実際ファンクラブなるものが有るらしい
「難しい言葉よくわかんな~い~」
そしてこの方、おさげが特徴的な
いかにもお嬢様って感じの天然ふわふわ系美少女ちゃんは西戸崎詩織ちゃん。
つーか、男体化杏子×詩織の同人誌とか売ってないですか
全力Bダッシュで買いに行くんですけど
カップリングまじで神か。
「変なこと言ってる時間があったら手を動かせよ」
杏子の言う通りではあるのだが、最近ずっと雨続きでナーバスになってるんだよねえ。
今日は晴れてるけど。
「ふーい」
はーいと言ったつもりだが、なんとまあ、気の抜けた返事になってしまった。
もうすぐ、文化祭が始まる。
私達のクラスはというと脱出ゲームをすることになっている。
カップルが困難を乗り切って生還!
吊り橋効果…みたいな?
だったらお化け屋敷をすれば良いじゃんって思うよね。うん、わかってる。
ただ、それは全力でご遠慮願いたい。私、そういうの怖いの。
私がいっても可愛くねえわ。
「あ、もうそろそろ下校の時間かも~」
おっと、急がなくては。
私達は、脱出ゲームのための壁というか仕切りを作っている。
とは言っても、ダンボールにペンキで色を塗る単純作業だ。
吊り橋効果で仲良くなったカップルを見て
色々と妄想する予定だったのだが、
教師の連中から危ないことは駄目だと クラスの連中が出した案はほぼほぼ却下された。
手錠とか縄とか提案したの誰ですか、すみません私です。
ということで、私達ができることは黒い壁と薄暗い部屋だけという
なんとも味気ないものになってしまった訳である。
でもまあ、
準備していくとこんな味気ないものでも
凄く上出来な感じがしてくる。
「ほら、ダンボール持っていくよ」
杏ちゃんはそういうと凄い数のダンボールを一気に持ち抱えた。
「杏ちゃん、力持ち~」
確かに、詩織の言う通りだ。
あんたはあれか、ハルクか。 緑の巨人か
「たしか明日授業午前中までだったよね!」
午前までしか授業が無いってホームルームで
先生が言った時は先生が神様かと思ったよ。
「そりゃあ助かる…って菜月、文化祭終わった2週間後にはもうテストだよ?わかってんの?」
そして、マイ天使、杏子様の有難いお言葉を頂きました。
っていうか、なんで毎度毎度、都合の悪いタイミングでテストをぶっこんでくるかなぁ…
ゲームのイベントとかも大体テストと被るんだよ。
これは国家の陰謀ではなかろうかなどと考えながらダンボールを片付けに向かう。
「これどこまで持っていけばいいの?」
いくらダンボールが軽いとはいってもあまり長時間
持ってると腕が疲れてくる。
「えっとね~たしか3階の使ってない空き教室だよ~」
「いや、ここって……」
「入るぞ。」