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ここまで付き合っていただきありがとうございます
4.
「あ、目が覚めました?」
右のほうから女の子の声がした。声の方向に顔を向けなくてもわかる。
そこには制服を着た女の子、古川アキ。
なんとかして第一の脱出方法を見つけ出さないと。
「ちょっとー、無視ですかー。」
アキがわめいているがそれどころではない。早くしないと隣人が圧死してしまうのだ。
「僕は有宮ショウ。きみは?」
「古川アキって言います!」
「そ、よろしく。」
そっけなく自己紹介だけ終わらせ僕は思考時間に入る。
いつものアナウンスが流れていた気がしたが、聞かなかった。
菓子パンが目に入ったが、今はそれどころでは……
違和感。
菓子パンのあたりに違和感を覚え、もう一度凝視する。
「……シミ?」
床に、よく見ないと見えないほどの淡い赤色のしみがついていた。
ぽたぽたと三滴くらい液体を垂らしたように。
「……前まであったかどうかさすがに覚えていないな、何のシミだこれ。」
まさか隣人の血液?
いや、そんなはずはない。隣人は今はまだ生きているはず……そうだ!隣人とコンタクトを取らないと。
僕は壁に向かって走る。
「おーい!」
ドンドン、と強く壁をたたくが、想像以上に軽い音が返ってくるだけだった。
声帯を切除している。
甲高いアナウンスが脳裏に浮かぶ。
「……なんて、周到なやつなんだ。」
縮んでいると見せかけるトリック。隣人がいて、そいつは喋れない。出口はなくロープも伝うことができない。脱出方法の一つ目はまだわからないまま。
……ロープ?
一周目の記憶を手繰り寄せる。
「このシミはもしかして……いや、でもそれは一周目の記憶であってここはループした四周目の世界のはず。」
本当にそうか?
「ループしたと思い込んでいるだけだとしたら?」
死にたい宣言ののち、部屋に充満するのはただの催眠ガスだとしたら?
そもそもループしていると思った理由はアキに記憶がないからだ。
「やけに頭が悪いはずなのにこの件に関しては飲み込みがよく、積極的に僕の作戦に協力してくれる古川アキ。」
変に落ち着いている僕にほとんど疑問を持たないアキ。
そして、床のシミ。
床にぽたぽたと血が垂れている悲惨な光景を思い出す。
ロープには棘がついているらしく相当の覚悟がないと握れないようになっていた。
「僕はループなんてしていない……いままで起きていたことは全部本当にあったことだったんだ」
『おめでとうございます!』
そうつぶやいた瞬間甲高いアナウンスが響いた。
『第一の脱出方法は、すべて理解すること。これで隣人を圧殺することなく脱出できましたね!まあ、もう殺してるんですけど』
その瞬間どういう仕掛けか四方を取り囲んでいた白い壁が透け、そこには見るに堪えない死体が複数転がっていた。
「う……」
こみ上げる吐き気に必死で抗っていると隣から手が伸びてきた。
「水です。落ち着きますよ。」
「……ありがとう。」
混乱していた水を飲み干したあと気付く。アキは主催者側の人間だということに。
「お……」
あれ。
声が出ない。
「……」
のどが震えない。 声が出ない。
音がでない。
アキを精一杯罵倒するセリフが口から出ない。
「………」
そのまま意識が暗転した。
あとエピローグが数行だけ