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クローズド  作者: 三笠ことなり
3/5

3

三話目です。もうすぐ終わります

3.


「……ん?」

 ここは、どこだ。

「あ、目が覚めました?」

 右のほうから女の子の声がした。声の方向に顔を向ける。

 そこには制服を着た女の子、古川アキがいた。

「また、生き返ったのか僕は。」

「何か言いました?」

「いや、なにもない。ここはどこ?」

「それが私にもさっぱりで……昨日の夜学校帰りに友達と別れたところまでは覚えているんですけど……」

「その制服、もしかしてミヤ高?」

「ミヤ高知ってるんですか!そうですよ、そこの高校一年生です」

「僕は桜塚の二年生、有宮ショウ。君は?」

「有宮さん……って、もしかして今大学生の有宮リョウさんと何か関係あったりします?」

「ん、リョウは僕の兄貴だよ、知っているの?」

「ええ、昔お世話になったことがありまして……私はアキです。古川アキ。」

 知っている。

 その名前を聞くのも三回目である。

「で、ここはどこなんだろうね。僕も午後八時くらいから記憶がないんだ。」

「同じですねー。」

 変にのんきなところも一周目、二周目と同じ。

 そろそろアナウンスが流れるころか。


と、その時部屋に甲高いアナウンスが響いた。完璧なタイミング。

『有宮ショウさん、古川アキさん、こんにちは。』

「だ、誰ですか!」

 アキが叫ぶが僕は落ち着いていた。この展開はもうよく知っている。

『はいはい落ち着いてください。これは脱出ゲーム。この部屋から出る方法は二つだけあります。頑張って探して脱出してください。』

 記憶の中のセリフと全く同じ。やっぱり僕はこの部屋三周目のようだ。

「脱出ゲームって何よ!私はやく帰りたいんですけど!」

 前回と一字一句同じアキの発言も予想済み。

『ルールは二つ。午前八時、正午、午後六時にこちらのほうから食事と携帯トイレを提供します。使用後は元あった位置に戻してください。ちなみに今は午前七時半なので一度チュートリアルとして午前八時提供分を出しましょう。』

 高い天井が開いた。

 そこから紐に繋がった大皿が降りてくる。皿の上にはもう見飽きた、袋から出された携帯トイレと菓子パン、それに縛られたビニール袋の中に入った水が乗っていた。

『食べ終わったり処理を終えたら二時間後に再び降ろすこの皿にのせてください。回収します。一度でも乗っていなかった場合、以降の食事提供はありませんので。』

「ルールの二つ目というのはなに?」


『死にたい、と思ったらいつでも言ってください。言えば楽に殺してあげます。』


 そこでアナウンスは途切れ、あとには不愉快な機械音だけが残る。


「アキ。話がある。」

 唐突に僕は口を開く。

 向こうからしたら初対面なので当然その馴れ馴れしい態度に怪訝な顔をされたが、もうなりふり構っていられる状況ではない。

絶対に信じてもらえないだろうけど、という前置きをしてから僕は今までの経緯を話す。

一周目、だんだんと体が小さくなって絶望から自殺したこと。薬の実験体に選ばれたのではないかという仮説。

二周目、提供物を口にしなければいいと考え餓死しかけ、また殺してもらったこと。

脱出方法はまだ見つかっていないこと。ロープにつかまることは不可能に近いこと。

途中話したパンの下りや体育科云々の下りでアキは少しだけ僕を信用してくれたらしく、真剣に置かれた状況について考え始めてくれた。

「ショウさんが本当に死んで戻っているのか、それとも夢なのかどうかは置いておいて、それを信じるなら私たちのとる行動は一つですね。」

「……ひとつ?」

「この真っ白な部屋。二時間に一回一瞬だけ降ろされる大皿。基本的に提供物は大きさのわかりにくいビニール袋に入っていて、汚物の入った携帯トイレは人間の心理的に触らない。最後にこの不愉快な機械音。」

 ……この不愉快な機械音。

「この部屋は本当に広がっているんですよ。で、皿は主催者側がだんだん大きくしているだけ。この真っ白な何もない部屋で大きさの基準として信じられるのは定期的に提供されるものと部屋の広さだけですからね。私たちが小さくなっていると誤認するのも仕方のない話なんです。」

 頭の中で色々つながっていく。

 天井が高い理由だって部屋の大きさをわからなくさせるのに一役買っているのだろう。朝は袋などに入っていないパン。昼は太さなどを変えやすい麺類。晩は皿の大きさが衝撃的過ぎて覚えていないが、それも何日も続いたとして大きさを変えやすいものだったはずだ。

「つまり、僕たちがとるべき行動は」

「そう、いつまでかはわからないけれど、向こうから提供されるものをしっかりとって、根競べをすることです。」


 今後の方針が定まった。

 そして一日目の夜。

「実際、この大きさのお皿が出てくるとたしかに縮んでるって気になりますね。」

「一周目に自殺コールをしたのは君だからな。」

「……なんかすいません。」

「いや、僕も確か掴みかかったりしているからおあいこ。ごめんね」

「それは夢のなかってことにしておきましょう。」

 なんて他愛もない会話をする余裕すら僕たちにはあった。

 寝て、次の日の朝が来る。

 昼が来て、夜が来る。

「あとはこれがいつまで続くか、ですよね。」

「そうだね、あんまり長く続くようだと学校の成績にも影響が出るしそもそも親が心配する……親?」

 そうだよ、捜索願とか出ているんじゃないか?

「捜索願とか出てそうなものですよね。あと一日二日我慢すれば警察が見つけてくれるかも?」

「だね!」

 希望が見えてきて、僕たちも笑顔を浮かべるようになって―


 ■■■■


部屋に不愉快な、肉がつぶれるような音が響いた。ぐちゃりだとかぐちゅだとか、そういった安っぽい擬音では表すことのできないような不快な音。

 そしてずっと聞こえていた機械音が止まる。

「な、に…?今の音は。」

「何かがつぶれる音、でしょうか、それよりこの部屋の拡大、止まりました……?」


『おめでとうございます!』


 甲高いアナウンスが部屋に響いた。

『第二の脱出条件、部屋の拡大の停止を待つ、をクリアしたためあなた方は外に出ることができます!脱出クリア本当におめでとうございます。』

「ちょっと待て、クリアだって?いや、それよりもさっきの肉のつぶれる音はなんなんだよ!」

『あなたたちの部屋が広がっていた、ということはどういうことだと思いますか?考えてみてください。』


 ……僕は思い出す。

 一周目、壁をけったとき、思ったよりも軽い音がしたことを。

「隣も……部屋?」

『ご名答!隣の部屋には声帯を切除した男の人が住んでいました!』

「そん……な」

「じゃあ僕たちは人を犠牲にして……脱出成功、だって?」

 何も成功していないじゃないか。

「おい主催者。」

 ただ僕には特殊能力がある。

 この部屋で死んだら一番初めに戻れる能力が―!

「僕を殺せ。死にたい。」

「ちょ、え、ショウさん、なにを!」

『ほう……まあいいでしょう。承りました。』


 部屋中にガスが蔓延する。僕は第一の脱出方法を探しに、最初に戻った。

もう終わります

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