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きみ  作者: 哉哉
1/1

あずき味のキャラメル

おひとつ、いかがですか、お試しで、と言われたのでありがたく頂戴した。小皿にはまだまだたくさん、お姉さんいわくお試し用のキャラメルが積まれていた。なんの味でしょう、普通のキャラメルとは色が違いますね、と会話をつなぐ。ええ、あずき味、おいしいでしょ、とお姉さん。まだ、噛んでいません、とは答えない。

確かに、確かに、噛めば噛むだけ、あずきの味がした。キャラメルの滑らかな舌触りと、あずきのざらざらした食感のどちらもあるように思う。ああ、確かに、あずきですねえ、歯の裏にへばりつかないように舌を動かしながら、答える。

おいしいでしょ、お姉さんが先程と同じように微笑んだ。ええ、おいしいですねえ、答えるものの上の空だ。

不思議な味がする。あまり好みではないように思う。昔、スイカ味のガムを噛んだことがある。あれのときと似ている。これは確かにスイカだなあ、けれど、おいしくはないかなあ、という、あれに似ている。

お姉さんが掬い上げるようにこちらを見据える。どうですか、おひとつ、と、そのおひとつは、今度はお試しではないのだろう。

こういうときの押しに非常に弱い。まずいことにひとつ食べてしまっている。断りきれるはずがない、と早々に諦めて、では二箱ください、と受け取った。二箱買ったのはなにも自暴自棄になったからではない。君の分も買ってやろうと思ったのだ。



◆◇◇



「なんだこの味は」


あずき味なんだ、と説明するより先に君はさっさと包みを開けて口へ放ってしまった。おかしな顔をしている。君を連れていかなくてよかった、この顔はお姉さんに見せられない。うん、うん、ううん、と唸っている。

おいしかったら全部食べていいよ、と二箱とも封を開けた。箱を傾けると、ざらざらと四角く包装されたあずき味が滑り出てくる。いくつもいくつも滑り出てくる。


「どうして二箱も買うかな、買い物下手」


文句を言いながら君はまた包みを開ける。間隙を置かず二つ目を頬張った。おいしいの?と聞くと、「微妙だなあ」と返ってくる。


「お前も食べろよ」


返事も聞かずに君はあずき味をこちらに寄越した。口を閉じる前に素早くねじ込まれる。不思議な食感がよみがえった。ああ、歯の裏にくっついてしまう。


「うん、くせになる、悪くないな」


そうかなあ。


「そういえばお前さあ、昔もスイカ味のガムとか、自分で買ったくせに俺に全部押しつけて、忘れたわけじゃないだろうな」


忘れてしまった。そんなことがあったろうか。


「でも結局、俺が食べてるの見て羨ましくなってさ」


君の話は耳からその反対側へと通り抜けていった。上の空だった。君の口許を見ている。君の手元を見ている。目が離せないのは、次から次へ包みを空にしていくそのリズムが心地いいからだろうか。ああ、なんだか羨ましい。

ひとつ頂戴、手のひらを見せると君は笑った。


「ほらな、お前って、わがまま」


二箱買っておいてよかったかな、とつぶやいてまた君の文句を聞き流した。

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