ことば
“はなが さいたら まもりましょ”
“みどりは しげり あお あおと”
“あかと き きれいに いろづい て”
“しろの ぼうし を かぶり ましょ”
“おさなご そだてば こ になって”
“こは そとへと かけて いく”
“ゆうぐれ どきには てて つなぎ”
“さぁさ わがや へ かえり ましょ”
“としを とれば あさ はやく”
“おてんとさま と ごあいさつ”
“とりの なくこえ きこえたら”
“きらり ふわり と ちがうひび”
“うごけぬ あさが きた ひには”
“ほんの ひととき おもい だす”
“あのひ この ひ とかわりつつ”
“おてんとさま に さようなら”
…………………
「母さん………。」
童が起き上がった。
心の臓を失くした童は一言。
かあさん
と呟きながら長い長い暗闇の中から光を求めたのだ。
影はただただ見ていた。
悲しみに涙を流す童を見ていた。
何が楽しいのか。
何が嬉しいのか。
何が面白いのか。
影の感情なんてわかるはずもない。
この世にあって無いようなモノなのだ。
しかし、この影には感情がある。
必要の無いものだと影自身感じてはいるのだが、この時ばかりはあって良かったと安堵する。
童は影に気づいたようで目を見開いていた。
「…うぁ…え…………だ…だれ?」
影は嬉しそうに“クツクツクツ”と鳴いた。
それはもう本当に嬉しそうに。
ただ、それは童が感じたことであり、他の者が見てもそうは思わないだろう。
見た目とは反して高い声。
真っ黒な体の頭付近にある紅い光。
その横のもう1つ光があったと思われる場所は固く閉ざされていた。
“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”
影は鳴き続けていた。
その鳴きかたは確かに影の喜の感情を表す鳴きかたで。
そんなことは知らない童はただただ影が本当に嬉しそうだと感じていた。
「……ごほっ…あ、お、お前…名前は?」
童の声を聞き取った瞬間影はさらに鳴いた。
“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”“クツクツクツ”
紅い光をさらに光らせ。
大きな体を大きくし。
四肢と思われるモノを伸ばして。
口らしき場所から声を漏らし。
これ以上の喜びはないとでも言うように。
鳴き始めた。
これには童も驚いたのか固まってしまった。
その様子が可笑しかったのかさらに鳴く。
何故これ程までに嬉々としているのか。
それは影に対する童の態度であった。
人はみな影を恐れる。
人はみな影を嘲る。
人はみな影を見らず。
人はみな影を同等に扱わない。
影はひとりだったのだ。
生まれた日も場所も分からず。
誰が自分を産んだのかもわからない。
何も分からないはずなのに1つだけ分かっていることがあった。
それは自分は化け物ということ。
初めて人を見たのは山を下りたとき。
記憶は曖昧で鮮明には思い出せない。
が。
思い出せることが1つ。
『『化け物』』
人から貰った。
初めての。
言葉。