第二章 1
微エロ注意ww
第二章 蒼色の弾丸と漆黒の鎌
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まだ、頭がくらくらする。
ゆっくりと眼を開ける。薄暗い、少しじめっとした空間。視界の左上には緑色のバーがあり、その左に『HP』と書かれている。そのしたには少し短めの青いバーもあり、『MP』と書いてある。それらの上には白い文字で『Ikuto』と書かれている。名前だ、俺の。
(そっか、俺NFOに…)
ゆっくりと上体を起こそうとして、俺は自分の上に一枚の布がかかっている事に気づいた。
「ん?」
簡素な白い布だ。誰かがかけてくれたのか?というか、俺以外にもここに人がいるのか?
辺りを見回す。どうやら洞窟の中のようだ。出口はかなり遠いのか、目視では見えない。岩ごつごつなオーソドックスな洞窟の中では、俺から少し離れたところで焚き火
が焚かれていた。しかし人影は見えない。
(一体、この布の人はどこへ・・・)
そこまで考えたところで、俺の耳が何かを捉えた。ばしゃばしゃという、水同士がぶつかるような音だ。俺はゆっくりと体を起こす。自分の体に目を向けた。冬物の大きな黒いコートに、赤いマフラー。手で触った感じ眼鏡はかけていない。肉眼で見える景色の鮮明さにしばし感激する。髪のボサボサは相変わらずだが、少しかっこの付いたボサボサ加減になっており、ラフというよりは適当にかっこつけているという感じだ。顔の前に一房引っ張って来てみれば色も薄茶色だ。無論眼の色は確認出来ないが、基本的には現実より格好がいい。悲しい事に身長は同じだが。
俺は黒い革手袋をはめた両手を見て、にぎにぎと数回開閉した。肺いっぱいに空気を吸い込み、耳を澄まし、辺りを見回し、最後に両の方を手で叩いた。すごい。圧巻だ。現実と全く区別のつかないほどのリアリティー。洞窟の中に居るだけでも現実より『生きている』感じがする。俺は久々に心から笑った気がした。
俺は気を取り直して、遠くから聞こえる水音に誘われて洞窟を歩いた。焚かれていた焚き火の木の一本を掴み、松明代わりにしながら暗い洞窟を水音の音源に向かって進む。
不意に視界が開けた。今まで細い道のようになっていた洞窟から、少し広い広場のようなところに出た。頭上を仰げば、ぽっかりと大きな穴があいており、満天の星空と三日月が優しい光を放っている。視界の右上にある現実時間であろうデジタル時計を見れば現実ではまだ四時過ぎだ。少し早めに出た三日月によって、洞窟の広場は淡く照らし出されていた。いや、広場というのは少し違う。この広い空間のほとんどが池だ。学校の校庭くらいのサイズの浅い池が広い空間全体を覆っている。よく見ればその池の奥の方には小さな滝があった。流れ落ちる透き通る水が月光を反射してきらきらと光っている。そこで、
少女が水浴びをしていた。
「ッ!!?」
俺は一瞬驚いて眼を背けたが、思わずゆっくりと眼を戻してしまう。
(・・・きれいだ)
向こうを向いているので顔は見えないが、三日月が輝く夜空を見上げて髪を洗うその姿を、俺は美しいと思った。システム上でコンピューターが作った物なのは重々承知だ。しかし、そのほっそりとしたボディラインと、短く切られ、濡れていても少し跳ねる水色の髪の後ろ姿は、仮想世界ラグランジュの月光と相まって、鮮烈とも言える美しさを俺に魅せていた。
と、不意に少女が振り返った。俺の気配に気づいたのか、髪に手を添えたまま体をひねるように後方の俺の方を見る。距離はあるが、辛うじて顔が見えた。見たところ、年は俺と同じくらい、怖いくらいに深くて蒼い眼をしていた。少女と目が合う。時間が止まり俺も彼女も硬着する。数秒の時間が経過した後、少女は、
「・・・!!?」
無言のまま真っ赤になると、両手を使って胸の薄い体を必死に隠す。システムの考慮か、俺には「本当に見てはいけない数カ所」は見えないが、それでも相当な物を見てしまった。俺も思わず眼を両手で覆いながら、
「す、すみません!覗くつもりは・・・」
少女は体を隠したまま薄く笑うと、
「目、覚めたんだね」
少し甘い、良く通る声で言った。