第一章 4
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持っていた書類をもとの場所に戻し、ホワイトボードの前に立ってペンのキャップをとる。きゅぽん、という小気味いい音。学校中でホワイトボードなのはこの教室だけだ。寺井先輩はホワイトボードに大きく「V R M M O R P G」と書くと、
こちらを振り返った。
「VRMMORPG、略してVRMMOは2014年に登場し、翌年2015年から今年2025年まで十年連続で世界一のシェアを誇るゲームカテゴリーだ。名前はVirtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game」の頭文字をとった物。言葉の意味わかるかな?」
「仮想現実上超大規模オンラインロールプレイングゲーム、ですか?」
「そう。桜崎さんは頭がいいね」
ちっ、先を越された。俺にもわかってたんだが。
「つまりこれは、プレイヤーが仮想空間に入り、なにか特定の目的を果たすために、いろいろな人と協力しながら進んで行く類のゲームなのさ。この仮想世界に入る事をフルダイブと言って、今久美が被っているのはNEX-phereと言う最新式のフルダイブ式ゲームハードだ。脊髄を通って体に流れる電気信号を、電磁波によって回収し、その動きのすべてをゲーム内で再現できるって物さ。つまり今、久美はゲームの中にいる訳だ」
俺は思わず息をのんだ。今、福田先輩は、体はここにあれど、心は別の場所で、別の体の中で戦っているのか。
不思議な感慨に囚われ、黙り込む俺と桜崎を見て、寺井先輩は満足そうに軽く目を細める。
「さて、では次にNFOの話に移ろう」
「NFO?」
「あぁ、ごめん。『NOT FOUND ONLINE』の通称だよ。今後はNFOと呼ぶからね」
丁寧に説明すると、寺田先輩は先ほど配布をやめた例の書類を俺たちに配った。やはり十五枚ほどのA4紙によってなるそれの表紙なるページには『『NOT FOUND ONLINE』詳細解説書』と書かれている。
「では、これを使ってゲームの概要を説明するよ。ちょっと長くなるけど、準備は良い?」
俺と桜崎は顔を見合わすと、寺田先輩に向かって頷いた。彼は笑って頷くと、VRMMORPG『NOT FOUND ONLINE』の解説を始めた。