第一章 3
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放課後、俺は風見中学校の3階の端にあるイクト室と呼ばれる教室に向かった。『Internet and Computer Technology』の頭文字をとって生徒間でつけられた名前だが、ようはコンピュータ室だ。こんなところに来たのはここが『MMO同好会』の部室になっているからだ。ドアの前に立つと、何やら可愛らしいキャラクターがいっぱい描かれた『MMO同好会』の看板が俺を待ち構えていた。たしか十何年か前に世界中で一世を風靡した『フ○イナルファンタジー』なるゲームのキャラクターを可愛くしたものらしい。一つ深い息をついてから白い引き戸を開けようとした時、
「あれ、梶原君?」
その声に俺は自分でも驚くほどビクッ!っと肩を振るわせた。このちょっと甘い響きのある声には大変に聞き覚えがある。俺は恐る恐る振り返ると、やはりそこには彼女がいた。
「さ、桜崎、さん」
俺がカチコチになりながら言うと、
「あー、やっぱり梶原君だ。梶原君も『MMO同好会』に?」
「あ、は、はい!」
ガッチガチになりながら答える俺。
「わぁ〜、そうなんだ。楽しみだね。いっしょにがんばろ!」
「は、はい!よろしくおにぇがいします!」
馬鹿野郎。そこ噛むな。まぁ桜崎が笑ってくれたからよしとしよう。
「「失礼しまーす」」
俺と桜崎は控えめに挨拶をしながらイクトのスライドドアを開けると、そこに二人の先輩がいた。
一人はすっかりおなじみの福田久美先輩。何やら銀色のヘルメットのようなものを被って、パソコンのおいてある机に突っ伏している。アイシールド付きのヘルメットのせいでいつもは福田先輩の代名詞とも言える飛び出し髪は拝むことはできない。
その脇に座り、彼女の顔を覗き込む眼鏡の男子生徒が一人。こちらは何度か廊下で見た事はあるが、名前までは知らない。少し銀色がかった髪は落ち着いた印象を与え、紺色の眼鏡の知的な雰囲気をいっそう強めている。身長はかなり高いが、シルエットそのものはほっそりとしていた。
その先輩は俺と桜崎を見つけると立ち上がり、
「やぁ。君たちが、久美がつれて来たって言う新入部員だね。桜崎舞さんと、梶原望君?」
落ち着いた、しかし親しげな声ではなしかけて来た。俺と桜崎はこくり、と頷いて肯定する。
「そうか。俺は3年の寺井誠。別に部長かなんかって訳でもないが、なにぶん部員が少ないんでね。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
寺井先輩は軽く頷くと、貸し切りのコンピュータ室、通称イクト室の教卓に向かい、そこから適当に分厚い紙束を二つ持って来た。参考書や過去問を死ぬほど見ている俺の目分量が正しければ、A4紙十五枚くらいか。
「僕達『MMO同好会』当分の活動内容はに週間前に発売された新作VRMMO『NOT FOUND ONLINE』の攻略だ」
「「『NOT FOUND ONLINE』?」」
「そもそも君たち、VRMMOってわかる?」
俺と桜井が首を横に振ると、寺井先輩は少し笑って、
「じゃあ、まずそこから説明しよう」
やっとNFOの名前が登場〜