第一章 1
やっとストーリーに入れますww
第一章 出会い
1
「梶原君!うちの部に入ってよ!」
窓際の中央あたりにある俺の机に思いっきり両手を叩き付けながら大声で叫んで来た少女に対して、俺は思わず深い溜め息をついた。まだ壊れないのか、というほどかけ慣れた黒ぶちの眼鏡を右手で直し、手に持っていた数学の参考書を机におく。
「・・・福田先輩・・・」
「わぁ!覚えててくれたの!?クミ、嬉しい!」
「毎月勧誘に来てりゃ覚えるわぁ!つうか毎月同じ反応すんな!」
らしくもなく大声でツッコミを入れて、再び溜め息をつく。さっきからわぁわぁうるさいこの女は福田久美。肩のあたりまでのふわっとした茶色っぽい髪を緑色の大きなビーズが着いたゴムで一房だけ結って右にはみ出させるという特徴的な髪型の中学3年。俺の一年先輩で、去年の中頃、つまり入学当初から毎月の第一金曜日の昼休みに部活の勧誘をしにくるのだ。顔は、まぁ平均以上ではあるが、恋愛感情が無い事は断言しておく。
「それで、また断られに来たんですか?」
「いやいやいや、今回はチャンスじゃん!梶原君、天文部辞めたんでしょ?」
確かにそうだ。全国の
「だからって『MMO同好会』なんか入りませんよ・・・」
そう。この女が俺を勧誘しようとしているのは『MMO同好会』だ。名前の通り、MMORPG、大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームとかいう馬鹿長い名前のゲームが好きな連中の集まりだ。だがお門違いも良いところだ。前述した通り、俺は全く娯楽に興味がないのだから。
「えー、なんでよー。一回で良いから来てみなよ、絶対楽しいから!」
「ゲームなんかやってる時間あったら勉強しますよ。後一年半で高校受験ですからね」
「まだ一年半もあるじゃん!」
「年末に受験を控えた八月に、あんたがそれを言うな!」
何となく周りの視線が気になりだしたので、一度軽く咳払いをする。
「まぁ、なんにせよ、俺はMMORPGなんか興味ありませんから」
そう言って参考書を再び開こうとした時、福田先輩は何を思ってか、急に俺の耳元に急接近すると、声を潜めて、
「(・・・舞ちゃんも入ってみるってよ~)」
ガバッ!という大きな音とともに俺は思わず立ち上がって後ずさった。後ろの席でのんびりと弁当を食っていた小太りの倉崎が「わぁ」とか間抜けな悲鳴を上げたので俺は「あっ、わり」と短く言って再び席に着く。福田先輩に顔を近づけると手で口を隠しながら、
「(・・・どこで聞いたんすか!?)」
「(へへーん♪クミの情報網をなめてもらっちゃ困るぞ~ん)」
俺は本日最も深い溜め息をつきながら右手を額に当てた。とりあえず、今は桜崎舞の事は忘れる事にしよう、と思ったが、高校生とは恐ろしい物だ。
「・・・考えときますよ・・・」
「よっしゃーー!新入部員獲得ぅ!」
「桜崎さんが入ってんだからもう新入部員いんだろ・・・」
俺の言葉を無視して満面の笑みでピースサインを見せつける福田先輩を見て、俺もいい加減に力尽きて机の上の参考書に顔を埋めた。