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戦慄の根源

作者: パンター

ホラーは放り出されたままの恐怖が一番怖いと思う。誤字脱字がありましたので修正しました。

 いつも通勤で通る道筋に古びた九階建てのビルがある。多くのテナントが入っていた雑居ビルだった。

 それがどうやら取り壊されるらしい。

 一度だけこのビルの3階にあったスナックに飲みに来たことがあった。仕事の帰りに急に飲みたくなって初めて入ったのだ。

 スナックは客が10人ほど入ればいっぱいになる狭い室内で、今どき風に言えばアラフォーのママが一人で切り盛りをしているアットホームな感じの店だった。常連の客のおじさんは人懐っこくて自分が飲んでいたボトルのウィスキーをおれのグラスに注いで乾杯を何度もしたっけ。どこかの中小企業の社長だとか言っていたような気がするがはっきり覚えていない。その後みんなで何か歌を大声で歌ったような。なんだか楽しかった記憶の片鱗だけが残っていた。

 だがその店には二度とは行かなかった。別に大した理由はなかったが縁がなかったとしかいいようがなかった。

 気がつけばそのビルが取り壊されようとしていると知りわずかに感傷が湧いてきた。

 あの店のママはどうしたのだろう。あのおじさんや常連の客は。

 一見の客のおれがどうこう言える立場ではないのだが気にはなった。

 確か3階あたりの窓は階段の踊り場にある。ちょうど大人の平均身長で胸から上が見えるぐらいの高さでめ殺しの窓があったと思う。

 そこに顔が見える。誰かいるのか。工事の下見かな。

 言っておくが今は真昼である。今日は私用で有給休暇を取り散歩していたのだ。昼間なのに人通りが無いのが確かに不気味であったのだが。

 なぜ今その説明をしたのかといえば、それがとてもまずいものであったからだ。

 なぜならその顔は普通の人間の3倍以上あった。それが窓枠からはみ出すくらいの大きさだったからだ。

 しかも目が梟のように大きく丸かった。まさに人間の目ではない。顔は間違いなく人間なのだが目は梟である。さらに口元から牙のようなものが中からはみ出していた。

 大きく口を開けるとそれがはっきり見えるようになった.

 突然それはけたたましい声で笑い出した。窓が閉じられているにもかかわらずその声は大音量で聞こえてきた。


 ゲゲゲゲゲゲゲゲッゲゲゲエゲッゲゲゲげっゲゲッゲえげっゲゲゲゲゲえゲゲえゲゲエッゲ!

 ゲゲゲッゲゲゲゲゲゲゲグゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲエッッッゲゲゲゲゲゲゲゲゲエゲゲ!

 グゲゲゲゲゲッゲゲゲッゲッッゲゲゲッゲエエエッッゲゲエエエゲエゲゲゲエエエエッッッ!

 ゲゲゲゲゲゲゲゲッゲゲゲエゲッゲゲゲげっゲゲッゲえげっゲゲゲゲゲえゲゲえゲゲエッゲ!

 ガゲゲッゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲエッげッゲゲゲゲゲゲゲゲゲエゲゲ!

 ゲゲゲゲゲゲッゲゲゲッゲッッゲゲゲッゲエエエッッゲゲエエエゲエゲゲゲエエイエッッッ!



 人の笑い声ではない!耳から吐き気を催す不快な波動が押し寄せてきた。

 おれは逃げた。全力で走りだした。

 走りながら全身が震えていた。痙攣を起こすように体中が震えていた。

 あり得ないほどの戦慄がおれの体内を駆け巡っていた。

 恐らく30分ほど走っていたらしい。

 疲労に負けて足を止めるとそこはおれが住むアパートの前だった。

 無意識に家へ逃げ帰っていたのだ。

 それ以来二度とそのビルの前を通ることは止めあえて遠回りして通勤している。

 その後すぐにビルは壊されてしまったらしいが、怖くてその道は今でも通ることができなかった。

分析され分類された怪異は恐怖の対象としては通俗化してしまって怖さが弱まっている。分からないからこそ恐怖といえるのでは。

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