第7話:勇者の過去捏造! 予算ゼロの紙芝居演出
「……ない」
エンタメ対策局の作戦会議室(俺の小屋)。
俺は空っぽの金庫を見つめていた。
「ないわね」
エリスも同じ顔をしている。
前回、古参ファンから15万ジェニーもの大金(赤スパ)が投げられたはずだ。
なのに、残高がゼロだ。
「どういうことよアルト! まさかあなたが持ち逃げを!?」
「違う! 『サーバー維持費』で消えたんだよ!」
俺は領収書を叩きつけた。
第2話での洞窟修復費。
第4話でのクレーター埋め立て工事費。
そして第5話の時止め演出による、時空修正パッチの購入費。
「この世界、維持するだけで金がかかりすぎるんだよ!
15万ジェニーなんて、バグ修正ですぐ消える!」
「じゃ、じゃあどうするの!?
次回は『レオンの過去編』よ!? 古参ファンが手ぐすね引いて待ってるのよ!?」
そう。予告してしまった以上、逃げられない。
しかも相手は、作画ミス一つで長文お気持ちメールを送ってくる『名無しの古参』だ。
半端なものを作れば炎上。かといって、金はない。
俺は腕組みをして唸った。
金がない。時間もない。
だが、感動的なストーリーを作らなきゃいけない。
「……やるしかないか」
「なにか策があるの?」
「ああ。アニメ業界に伝わる、禁断の秘奥義を使う」
俺はシルヴィアを呼んだ。
「シルヴィア、スケッチブックと鉛筆を持て。
今回は『動画』を作らない。
お前の『ラフ画』をそのまま放送する」
***
放送開始。
お茶の間の神々(視聴者)は、画面の異変に気づいたはずだ。
いつものカラー映像ではない。
画面はモノクロ。しかも、鉛筆で描かれたような荒々しいタッチの『静止画』が映し出されている。
BGMは、カノンによる寂しげなピアノソロのみ。
『ん? 回想か?』
『色がねえぞ』
『作画間に合わなかった?』
コメントがざわつく。
だが、俺はマイクに向かって、重々しい声でナレーションを入れた。
「(ナレ)
……これは、色彩を失った記憶の物語……」
『おお、そういう演出か』
『あえてのモノクロ』
『雰囲気あるな』
チョロい。
「手抜き」を「演出」と言い張る。これがプロの技だ。
画面(紙芝居)が切り替わる。
燃え盛る村。逃げ惑う人々。
シルヴィアの画力が凄まじいため、鉛筆書きでも鬼気迫る迫力がある。
「(ナレ)
あの日、俺の世界から色が消えた……」
レオン(幼少期)の静止画が、カメラワーク(パン・アップ)だけで動いているように見せかけられる。
いわゆる『止め絵』の連続使用だ。
作画枚数は普段の10分の1。エコすぎる。
そして、問題のシーン。
レオンが傷を負う場面だ。
前回、古参ファンに「傷の位置がおかしい(右腕か左腕か)」と突っ込まれた箇所だ。
俺はシルヴィアに描かせた「謎の黒いモヤ」の絵を表示させた。
「(レオンの声)
うああああ! 傷が! 呪いの傷が動くぅぅぅ!!」
画面上で、黒いモヤがレオンの全身を這い回るエフェクト(合成)をかける。
「(ナレ)
それは『移動する呪印』。
右腕に現れ、時には左腕に、そして背中へ……。
俺を蝕む永遠の痛み……」
『なるほど、だから傷の位置が変わるのか!』
『作画ミスじゃなくて設定だったのか!』
『すげえ伏線回収』
よし、騙せた。
これで今後、どこに傷を描いても「移動したんです」で言い訳ができる。最強の免罪符を手に入れたぞ。
物語はクライマックスへ。
燃える村を背に、一人生き残ったレオンが涙を流すシーン。
ここはシルヴィア渾身の一枚絵だ。
カノンのピアノが盛り上がる。
レオン本人が、マイクの前で号泣しながら叫ぶ。
「うおおおおお! 僕は……僕は絶対に許さないぃぃぃ!」
演技じゃない。
自分の(捏造された)過去映像を見て、純粋に感動して泣いているだけだ。
だが、それが迫真の演技として乗る。
――プツン。
映像が途切れ、エンドカード(鉛筆書きのレオンの笑顔)が表示される。
***
放送終了。
俺は緊張で胃液が逆流しそうになりながら、空を見上げた。
ほぼ静止画の紙芝居。
手抜きと言われても文句は言えない。
だが、空を埋め尽くしたのは称賛の嵐だった。
『神回』
『泣いた』
『この鉛筆のタッチが、レオンの荒んだ心を表現してるんだな』
『あえて色を塗らないことで、視聴者に想像させる高度な演出』
『インディーズアニメの傑作』
そして、あの通知音が鳴る。
ピロリン♪
【名無しの古参】
【¥200,000】
『素晴らしい。
最近のアニメはCGばかりで味気ないが、これぞ「魂の作画」。
原点回帰したようなインディーズ感(感触)。
傷の設定も、私の考察通りで満足した。
引き続き支援させてもらう』
「……勝った」
俺はその場に大の字に寝転がった。
20万ジェニー。
これでしばらくは食いつなげる。
「すごいですアルトさん! 私の絵が……こんなに褒められるなんて!」
シルヴィアが涙ぐんでいる。
彼女にとっても、自分の絵(しかもラフ画)が評価されたのは初めての経験だったようだ。
「ああ、お前の画力の勝利だ。助かったよ」
「へへへ……もっと描きたいです。もっと色んな絵を……」
一件落着。
そう思った矢先、エリスが血相を変えて飛んできた。
「た、大変よアルト! 次の『ターゲット』が決まったわ!」
「あ? 次はなんだ。またオークか?」
「違うわ……これを見て!」
エリスが指差した空には、禍々しい紫色のテロップが出ていた。
視聴者用の、表向きのタイトルだ。
【次回 第7話:黄金の迷宮と、囚われの悪魔】
「……『黄金』? ダンジョンの財宝回か?」
「違うわよ! その下! こっちが運営からの指令よ!」
俺は管理者権限で、タイトルの詳細(ターゲット情報)を開いた。
【ターゲット:心の闇の克服】
【推奨攻略法:ダンジョンで泣いているサキュバスを拾うこと】
「……は?」
俺はシルヴィアを見た。
彼女はきょとんとしている。
サキュバスを拾う、ってことは……シルヴィアのメイン回か?
「……おいシルヴィア。お前、サキュバスなのに『画家志望』って言ってたよな?」
「は、はい」
「なんでサキュバス辞めたんだ?」
俺の問いに、シルヴィアの表情が曇った。
「それは……その……。
私、男性に触れると……相手の『精気』じゃなくて、『運気』を吸っちゃうんです」
「……はい?」
「だから、私に関わった人はみんな……不幸になって……」
俺は青ざめた。
おい待て。
それ、制作現場においては一番ヤバいデバフ(呪い)じゃないか!?




