第4話 最初の任務は、スライム討伐
「いいか、今回の任務は『チュートリアル』だ」
翌日。
俺たち『エンタメ対策局』のメンバーは、村の近くの平原に来ていた。
この名前はさっき作った。
青空の下、風が吹くたびに草木がカクカクと揺れている。
空には、放送開始を告げるシステムウィンドウが浮かんでいた。
【次回放送:第話 最初の任務は、スライム討伐】
【ON AIRまであと10分】
「第2話でスパチャを稼いで、第3話(今回)で新メンバーのお披露目。
この流れは絶対に失敗できない」
俺は3人の新人を指差した。
ターゲットは『スライム』。この世界で一番弱いモンスターだ。
「レオンは『圧倒的強者の風格』を見せろ。
シルヴィアは『美しく華麗な魔法』を使え。
カノンは『処刑用BGM』で盛り上げろ。
――以上だ。かかれ!」
「お、おう……!」
「は、はい……!」
「任せろオラァ!」
三者三様の返事と共に、作戦が開始された。
平原の向こうから、プルプルとした青い物体が3匹、跳ねてくる。
スライムだ。
顔文字のような目と口がついた、非常に安っぽいデザインだ。
「来たわよ! さあレオン、やっておしまい!」
エリスが叫ぶ。
先陣を切ったのは勇者レオンだ。
彼は聖剣を抜き放ち、スライムの前に立ちはだかった。
「…………ッ!!」
レオンが剣を構える。
金髪が風になびき、その背中は実に絵になる。
だが――動かない。
「……レオン?」
10秒経過。
レオンは石像のように固まっている。
よく見ると、顔面が蒼白で、白目を剥きかけていた。
(だ、だめだ……カメラが……視線が怖い……吐きそう……)
彼の心の声が聞こえてきそうだ。
『回線落ち?』
『動けよ勇者』
『ラグいぞ』
コメント欄がざわつき始める。
マズい。放送事故だ。
「シルヴィア! 援護だ! 魔法で繋げ!」
俺の指示で、シルヴィアが杖を構えて走り出す。
「は、はいっ! 行きます! 炎の精霊よ……きゃあっ!?」
何もない平坦な地面で、シルヴィアが盛大にズッコケた。
スカートがふわりと舞い上がり、純白の布地が画面の半分を埋め尽くす。
『おおおおお!』
『神アングル』
『白! 今日は白だ!』
『ありがとうございまぁぁす!』
視聴者数は一気に増えたが、スライムは無傷だ。
むしろスライムが困惑して動きを止めている。
「カノン! BGMで誤魔化せ! 激しい曲だ!」
「分かった! 聴いてくれ新曲! 『絶望の鎮魂歌』!」
ジャカジャカジャン!
カノンがリュートをかき鳴らす。
だが、流れたのはどう聞いても「演歌」のようなド演歌調のメロディだった。
『選曲ミスってるw』
『スライム相手に演歌て』
『こぶしが効きすぎww』
「あぁん!? 文句あんのかコラァ! この『わびさび』が分からねぇとは!」
カノンが演奏を放棄して、空に向かって中指を立て始めた。
「……だめだこいつら。学級崩壊してやがる」
俺は頭を抱えた。
カオスだ。勇者は気絶寸前、魔法使いはパンツを見せてるだけ、音楽家はキレてる。
スライムが呆れてあくびをしている。
視聴率グラフが、またしても下がり始めた。
空にうっすらと『赤い線』が見える。
「ア、アルト! どうすんのよこれ! また打ち切りラインが来るわよ!」
エリスが俺の袖を引っ張る。
俺は深くため息をつき、懐から「予算」を取り出した。
「……金で解決するしかないようだな」
俺はコンソールを開き、即座にコマンドを入力した。
「演出介入!
予算3000ジェニー投入!
レオンに『オーラ・エフェクト(強)』を付与!
スライムを『魔王級サイズ』に拡大表示!」
ブォン!
レオンの体が金色の光に包まれた。
ただ突っ立って震えているだけなのに、エフェクトのおかげで「怒りで震えている」ように見える。
同時に、カメラアングルを操作し、スライムを地面スレスレから撮影。
遠近法を狂わせ、雑魚スライムを巨人のように見せる。
『お?』
『急に強キャラ感出た』
『勇者、マジギレ?』
コメントの空気が変わる。
俺は畳み掛けるように、カノンのリュートを遠隔操作した。
「音響強制変更! トラック5『英雄の帰還』!」
カノンの意思とは無関係に、リュートが勝手に壮大なオーケストラを奏で始める。
そして、俺は自前のマイクを握った。
「(アフレコ開始)
……フッ。待たせたな、雑魚ども。
俺の剣技、その身に刻むがいい……!」
俺が良い声で喋ると、それがレオンの口パクに合わせて再生される。
『喋ったww』
『声良すぎて草』
『中の人、別人じゃね?』
気づかれてるが、盛り上がればいいんだ。
「シルヴィア! 今だ! 転んだ体勢のまま魔法を撃て! 下から上へ!」
「は、はいっ! ファイアボール!!」
シルヴィアが杖を振る。
俺はそこに『追加予算:5000ジェニー』を投入。
ただの火の玉が、画面を埋め尽くす『紅蓮の火柱(ナパーム級)』に変わる。
ドォォォォン!!
スライムたちが火柱に飲み込まれ、哀れな悲鳴と共に消し飛んだ。
オーバーキルもいいところだ。
「(アフレコ)
……また、つまらぬものを斬ってしまったか……」
俺はレオンに合わせてセリフを入れ、カメラをフェードアウトさせた。
***
――【CLEAR】。
平原には、直径50メートルのクレーターができていた。
スライム3匹を倒すのに使った予算、計8000ジェニー。
大赤字だ。
「はぁ……はぁ……。どうだ、これなら文句ないだろ……」
俺は肩で息をした。
空のコメント欄を見る。
『無駄に壮大でワロタ』
『スライム相手に撃つ魔法じゃねえw』
『このポンコツパーティ、意外と面白いかも』
『継続視聴するわ』
視聴者数は微増。
なんとか第3話のノルマは達成できたようだ。
「やったわねアルト! 大成功よ!」
「……どこがだ。毎回こんな綱渡りしてたら身が持たないぞ」
俺はレオン(まだ震えてる)と、シルヴィア(まだパンツ見えてる)と、カノン(まだ中指立ててる)を見回した。
「……前途多難すぎる」
その時。
空から新たなテロップが降りてきた。
【次回 第4話:物理法則よりも、演出法則が優先されます】
【ターゲット:強敵、オークジェネラル】
「おい待て。
スライムの次がいきなり中ボスかよ!?
レベルデザインどうなってんだこの世界!」
俺の叫びは、カノンの爆音演奏にかき消された。




