第3話 エンタメ対策局結成(いつものメンバー)
「金はある。だが、人がいない」
第2話の放送終了後。
俺とエリスは、村の酒場のテーブルに大量の金貨(スパチャの収益)を積み上げていた。
その額、200万ジェニー。
この辺境の村なら豪邸が建つ金額であり、アニメ制作費で言えば……まあ、30分アニメ1話分の『原画予算(作画マンへのギャラ)』くらいだ。
「どういうことよアルト。お金があれば解決じゃないの?」
「アニメ作りは集団作業だ。俺とお前の二人きりじゃ、いずれ過労死する」
俺は羊皮紙に『求人票』を書き殴った。
【急募:世界を救う簡単なお仕事です】
・職種:演者、音響、美術、その他
・給与:応相談
・備考:アットホームな職場です(※大嘘)
「俺たちに必要なのは専門職だ。
アクション担当、お色気担当、そしてBGM担当。
この3つが揃って初めて、このクソアニメは『作品』として成立する」
「なるほどね! じゃあ早速、村の『ルイーダ的な酒場』に行きましょう!」
酒場は、昼間から荒くれ者たちで賑わっていた。
その店の片隅に、異様なオーラを放つ男が座っていた。
輝く金髪。碧眼。伝説の聖剣。
誰がどう見ても『勇者』のルックスだ。
「あいつだ! あいつをスカウトしましょう!」
エリスが興奮して指差す。
確かに、彼の顔面偏差値(画力)だけは異常に高い。彼が画面に映るだけで、作画コストが跳ね上がりそうだ。
「おい、そこの勇者! 私のアニメに出なさい!」
「……ッ!?」
エリスが声をかけると、勇者はビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを向いた。
「お、おれは……勇者、レオン……だ……」
声が小さい。
しかも、グラスを持つ手が小刻みに震えている。中の氷がカランカランと鳴り止まない。
「なんだこいつ、バイブレーション機能付きか?」
「ち、ちが……。おれ、人前に出ると……吐き気が……」
レオンは真っ青な顔で口元を押さえた。
俺は眉をひそめて彼のステータス(頭上の表示)を確認した。
【レオン(勇者)】
【特性:極度のあがり症(コミュ障)】
【備考:カメラを向けると石化する】
「ダメだこいつ。役者として致命的な欠陥を抱えてやがる」
「で、でも顔はいいわよ! 黙って立ってるだけで絵になるわ!」
「……待てよ」
俺は閃いた。
あがり症で、喋れない。だが顔はいい。
「採用だ。レオン、お前は『無口なクールキャラ』で行く」
「えっ……」
「セリフは全部、俺が後でアフレコ(吹き替え)する。お前はただ、イケメンの角度で立って震えてろ。それが『武者震い』に見えるように編集してやる」
「……え?」
レオンが顔を上げる。
その瞳に、微かな希望の光が宿っていた。
「しゃ、喋らなくても……いいのか? 名乗り口上とか、必殺技とか叫ばなくても……勇者が務まるのか?」
「ああ。むしろ今の流行りは『陰のある無口主人公』だ。お前のコミュ障は、演出次第で『ハードボイルド』に化ける」
俺が断言すると、レオンはボロボロと涙をこぼした。
「ありがとう……! ずっと辛かったんだ……! 魔王の前で噛んで笑われるのが怖くて……!」
彼は俺の手を両手で握りしめた。
こうして、主演男優が仲間になった。
***
次に向かったのは、村はずれの広場だ。
そこには人だかりができていた。
「きゃあああん!」
わざとらしい悲鳴と共に、一人の少女が派手に転んだ。
頭に小さな角。背中にはコウモリの羽。種族は『サキュバス』だ。
彼女が転ぶと同時に、スカートが物理法則を無視してめくれ上がり、絶対に見えてはいけない角度で太ももが露出する。
「おおおお!」
ギャラリーの男たちが歓声を上げる。
しかし、当の本人は顔を真っ赤にしてスカートを押さえていた。
「うう……また転んだ……。なんで私の周りだけ摩擦係数がゼロになるのですか……!」
彼女の名前はシルヴィア。
ステータスにはこうある。
【シルヴィア(サキュバス)】
【特性:ラッキースケベ誘発】
【備考:本人は清楚志向】
「見つけたわアルト! あれぞ『お色気担当』よ! 今すぐスカウトを!」
「待て。本人は嫌がってるぞ」
俺は人だかりをかき分けて、シルヴィアに手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……。私、昔からドジで……。本当は画家になりたくて美術の勉強をしているのに、いつも変なポーズになってしまって……」
「画家志望? 美術?」
俺はピクリと反応した。
彼女が大事そうに抱えていたスケッチブックを拾い上げ、中を覗き込む。
そこには、緻密で美しい背景画が描かれていた。パースも完璧、色彩感覚もプロ並みだ。
「採用だ」
「えっ、あ、あの……お色気要員としてですか……? やっぱり、私の体しか見てくれないんですね……」
シルヴィアが悲しげに俯く。
俺はスケッチブックを彼女に突き返した。
「バカ言え。こんな即戦力の画力を腐らせてたまるか。
お前は『美術スタッフ(背景マン)』だ。今日から書き割りと背景原図を描きまくってもらう」
「えっ……? 絵を……描いていいんですか?」
「ああ。お前のその『意図しないパンチラ』は、視聴維持率を支える武器として使わせてもらうが、メインの仕事は『絵』だ。
お前の描いた背景が、世界を作るんだ」
シルヴィアが息を呑む。
彼女の頬が紅潮し、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「初めて言われました……。私の絵が必要だなんて……!
やります! 私、背景でも何でも描きます!」
こうして、美術担当(兼サービス要員)が仲間になった。
最後の一人は、探すまでもなかった。
村の中央広場で、一番うるさい奴がそれだったからだ。
「オラァァァ! 『歌が下手』だァ!? テメェの耳が腐ってんだよ!!」
リュートを背負った吟遊詩人の男が、空に向かって中指を立てていた。
彼は演奏もせずに、空に流れる視聴者のコメントと口喧嘩をしていたのだ。
【カノン(吟遊詩人)】
【特性:レスバ中毒(ネット弁慶)】
【備考:アンチコメントを見つけると演奏を中断する】
「……あいつ、ヤバくない? 関わらない方が……」
エリスが引いている。
確かに、コメント欄のアンチと戦う演者は、運営にとって爆弾でしかない。
『音程外れて草』
「うるせぇ! これはジャズアレンジだ馬鹿野郎!」
カノンは顔を真っ赤にして空に叫んでいる。
だが、俺は彼が持っているリュートに注目した。
彼が感情的になって弦を弾くと、周囲のBGMが『戦闘曲』に強制的に書き換わったのだ。
「……空間BGMの操作能力か。使える」
俺はカノンの背後から近づき、その肩を叩いた。
「おい、レスバ野郎」
「あぁん!? なんだテメェ、アンチか!?」
「ファンだ。お前のその『煽り耐性の無さ』と『即興演奏』を高く評価している」
俺は金貨の袋を彼の目の前にぶら下げた。
「俺たちの番組でBGMを担当しろ。コメント欄の管理権限もやる。
気に入らないアンチは、音楽の力で物理的に黙らせていい」
「……マジか。アンチを殴っていいのか?」
「ああ。その代わり、俺が指示したタイミングで完璧なSEを出せ」
「乗ったァ!!」
こうして、音響担当(兼トラブルメーカー)が仲間になった。
夕暮れ時。
俺の小屋の前に、4人と1匹(アルト、エリス、レオン、シルヴィア、カノン)が揃った。
・あがり症の勇者。
・転ぶとパンツが出る美術係。
・アンチと戦う音響係。
・数字しか見ていない総監督。
・そして、死んだ目の制作進行。
「……地獄のようなメンツだ」
俺は頭を抱えた。
まともな奴が一人もいない。
だが、空には早くも次の予告が出ていた。
【次回、第3話:最初の任務は、スライム討伐(※ただし派手に倒せ)】
「よし、お前ら! 自己紹介は終わりだ!
レオンは鏡の前で『震えを止める練習』!
シルヴィアは背景の書き割り作成!
カノンは著作権フリーのBGM選曲!
エリスは……邪魔だから弁当の買い出しに行ってこい!」
「なんで私だけパシリなのよー!!」
俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
というか、このペースだと最終回までに俺の胃に穴が開く方が先かもしれない。
「胃薬……アセットストアに売ってないかな……」
俺のつぶやきは、カノンの爆音チューニングにかき消された。




