第11話 魔王城出現! ラスボスは納期と共にやってくる
「デ、デカい……!」
目の前に聳え立つ、禍々しい黒塗りの城。
空は紫色に淀み、雷鳴が轟いている。
ラストダンジョン『魔王城』。
その威圧感は、これまでのダンジョンとは桁違いだった。
「さすが最終決戦ね! 背景の書き込み量が違うわ!」
「ああ。レンダリングだけで1週間はかかりそうな重厚感だ」
俺とエリスは感嘆の声を上げた。
だが、感心している場合じゃない。
空にはシステムからの無慈悲なカウントダウンが表示されている。
【残り放送枠:あと2話】
【現在のステータス:最終章】
「あと2話……。つまり、今回(第10話)で魔王城を攻略して、次回(最終回)で魔王を倒す。
この過密スケジュールで行くしかない」
俺が拳を握りしめた時だった。
城門が開き、4つの影が現れた。
「「「「我ら、魔王軍四天王!!」」」」
炎を纏った巨漢。氷の微笑を浮かべる魔女。風のように素早い剣士。そして、岩石の巨人。
いかにも強そうな中ボスたちだ。
「くくく……。ここを通るには、我ら四人を一人ずつ倒さねばならん!」
「まずはこの俺、炎の将軍が相手だ!」
四天王が口上を述べ始める。
俺は顔面蒼白になった。
「ば、馬鹿野郎! 四天王なんて出してる場合か!」
「えっ?」
四天王がポカンとする。
「一人1話使ってたら4週間かかるだろ! こっちはあと2話で終わるんだよ!
お前らの過去とか因縁とか描いてる尺(時間)はねえんだよ!!」
「そ、そんなこと言われても……。これが手順ですし……」
困惑する四天王。
だが、視聴者は待ってくれない。
コメント欄が『四天王戦とかダルい』『サクサク行け』とざわつき始めている。
「……やるぞ。奥の手だ」
俺はカノンに指示を飛ばした。
「カノン! 番組の『オープニングテーマ(OP曲)』を流せ!」
「えっ? 今ここでか?」
「そうだ! 一番盛り上がるサビの部分からだ!」
「分かった! いっけぇぇぇ!」
ジャジャジャジャーン!!
カノンのリュートから、聞き慣れた熱い主題歌が流れ始める。
俺はコンソールを高速で叩き、コマンドを入力した。
**【演出介入:ダイジェスト・モンタージュ(尺圧縮)】**
「みんな! 突撃だ! 細かい戦闘はカットする!
『苦戦の末に勝った雰囲気』だけで押し切れ!」
――ここからは、音楽に乗せたダイジェスト映像でお送りします。
♪~(激しいロック調のBGM)
【カット1】
レオンと炎の将軍が剣を交える。
一瞬の攻防。レオンが決めポーズを取ると、背後で将軍が爆発。
(戦闘時間:3秒)
【カット2】
氷の魔女が吹雪を放つ。
シルヴィアが転んで、偶然スカートで魔法を跳ね返す。
魔女が顔を赤らめて爆発。
(戦闘時間:3秒)
【カット3】
風の剣士がカノンに斬りかかる。
カノンが「うるせぇ!」とギター(リュート)で殴打。
剣士が白目を剥いて沈む。
(戦闘時間:2秒)
【カット4】
岩石の巨人がエリスに迫る。
エリスが「アルトぉぉ!」と叫ぶ。
俺が裏から『課金爆弾』を投げる。
巨人が粉砕。
(戦闘時間:4秒)
♪~(曲のフィニッシュ)
ドォォォォン!!
4つの爆発煙を背に、横一列に並ぶ俺たち5人。
カメラがゆっくりとパンアップし、城の最上階を映す。
『RTAで草』
『四天王の扱いwww』
『OP流せば勝てる法則』
『尺の都合で殺された四天王に合掌』
コメント欄は大爆笑だ。
よし、これで面倒な中ボス戦を1分半で消化した!
俺たちは息を切らすことなく、最上階の玉座の間に到達した。
「はぁ……はぁ……。どうだ、このスピード感……!」
「アルト、あんた鬼ね……」
エリスが呆れている。
だが、ついに目の前には巨大な扉。
この奥に、諸悪の根源がいる。
俺たちは顔を見合わせた。
「行くぞ。これで最後だ」
ギギギギギ……。
重厚な扉が開く。
そこには、玉座に座る一人の男がいた。
漆黒のローブ。銀色の長髪。そして、見る者を圧倒する美貌。
だが、何よりも異様なのは――
「……なっ!?」
俺は目を疑った。
その男だけ、**画質(解像度)がおかしい。**
俺たちが標準的なHD画質だとしたら、あいつだけ『8K・120fps』くらいの超高画質で描かれている。
髪の毛一本一本、服の繊維、光の反射まで、実写と見紛うほどのクオリティだ。
「ようこそ、エンタメ対策局の諸君」
男が口を開く。
その声は、誰もが知る『超大御所声優(ギャラ高額)』のイケボだった。
「私が魔王……『ハイ・クオリティ』だ」
ブォン……。
彼が指を一本動かしただけで、空間が歪む。
いや、違う。
**俺たちの動きが『カクついた』のだ。**
「あ、あれ……? 体が……重い……?」
レオンがスローモーションのように動く。
シルヴィアの瞬きがコマ送りになる。
「き、気づいたか……。
私の存在自体が、この世界の『メモリ』を食い尽くしていることに」
魔王ハイ・クオリティが優雅に笑う。
「私の周りでは、低スペックな貴様らはまともに動くことすらできない。
いわゆる『処理落ち(ラグ)』だ」
「な、なんだってー!?」
俺のコンソールに警告が埋め尽くされる。
【WARNING:CPU使用率100%】
【GPU温度上昇中】
【サーバーダウンまであと10分】
魔王の能力は、圧倒的な武力ではない。
無駄に高すぎる作画コストで、番組そのものを物理的に破壊する『サーバー・クラッシャー』だったのだ!
「くっ……! なんて迷惑なラスボスだ!
これじゃ戦う以前に、放送が止まるぞ!」
カクカク動く視界の中で、魔王がゆっくりと立ち上がる。
「さあ、エンディングの時間だ。
この世界諸共、フリーズして永遠の静止画となりたまえ」
絶体絶命。
画面が止まるか、俺たちが勝つか。
最後の戦いが始まる。
空に、最後の次回予告が流れた。
【次回 最終話:さよならエンタメ対策局 ―放送終了の向こう側―】
「……上等だ。
だったら俺たちが、その無駄に高い画質を『低画質(軽量化)』してやるよ!」
俺はラグついた腕で、最後の指揮を執った。




