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第2話

週末。

「ふぅ……やっと終わった!」

デペンドラに頼まれていた“法宝アーティファクト”が、ついに完成した。

時刻は午前9時35分。

「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン」

――ドアチャイムが鳴る。

来るとしたら、あいつしかいない。

「はいはい、今出る!」

……

サングラスをかけ、やけに上機嫌な表情のデペンドラが立っていた。

「よっ、カフェニー! で、そのブツは……?」

「ほら、これ。」

私はそれをそのまま、奴の胸元に押しつけた。

「“全知のメガネ”だ。使うときは十分気をつけろよ。

それと、表示に“警告”って文字が出たら、すぐ外せ。」

「へぇ……? なんで?」

「説明はあと! 私、これから仕事探しに行くんだから!」

デペンドラは数秒そのメガネを見つめ、それから自信満々な顔で私を見る。

「了解! 俺の卒業式が終わったら、盛大に遊ぼうぜ!」

「……ああ。」

こいつ、家は決して裕福じゃないくせに、こういうところだけ無駄に格好つける。

本当に見栄っ張りなやつだ。

さて……一週間もダラダラしてたし、そろそろ求人でも探すか。

……

翌日――

場面は、デペンドラが卒業試験を受ける軍事学院へ。

試験会場では、全員が制服をきっちり着込み、直前まで必死に復習している。

中には、あの“邪道な法宝”を忍ばせている者もいるようだ。

午前7時45分、監督官が入室した。

彼は高性能なテクノロジーグラスを装備しており、

どんな些細な異常も見逃さないらしい。

どうやら、簡単にはいかなそうだ。

「――ゴホン。諸君、資料や不要な物はすべて片付けなさい。

試験開始まで、あと15分だ。」

それでもデペンドラは、何事もないかのように落ち着き払っていた。

それを見たクラスメイトが、驚いたように声をかける。

「デペンドラ、この状況でそんなに余裕なのか?」

「ああ。“準備”は万端だからな。」

そう言われ、相手は何も言えず、黙って勉強に戻った。

……

「――試験、開始!」

監督官の合図と同時に、全員が一斉に問題に取りかかる。

ただ一人、デペンドラを除いて。

「へへ……」

彼はそっとメガネを起動した。

次の瞬間、解答が淡くレンズに浮かび上がる。

(おっ、思ったより簡単じゃん……)

迷うことなく、次々と解答欄を埋めていく。

……

――その時。

レンズに赤い警告表示が点灯した。

異変を感じて顔を上げると、

監督官がすぐ隣に立ち、獲物を狙う猛獣のような目で彼を見下ろしていた。

一瞬で恐怖が全身を包み、喉が鳴る。

(マジかよ……バレたとか、言うなよ……)

「おい。何もしていないのに、どうしてそんなに怯える?」

「い、いえ! なんでもありません!」

(この人……怖すぎる……)

監督官は軽く頷くと、他の受験生のチェックに戻っていった。

「……ふぅ、助かった。」

だが――

再びメガネを使おうとした瞬間、

またしても危険警告が表示される。

どうやら、監督官はまだ完全に注意を逸らしてはいなかった。

デペンドラは慌ててメガネを外し、机の上に置いた。

(これ以上使ったら、確実にアウトだ……)

……

それからというもの、彼はずっと落ち着かなかった。

監督官の視線が、常に自分に向けられている気がしてならない。

――いや、気がするのではない。

彼の中では、それは“確信”に変わっていた。

(クソ……このままじゃ終わりだ……!)

彼は別の手段を考える。

(カンニング……他のやつの答案を見るか?)

だが、周囲の答案はすべて不正防止システムで遮断されていた。

彼の解答は、まだ選択問題が終わっただけ。

このままでは、確実に不合格だ。

(ふざけんなよ……!)

家族に、卒業試験に落ちたと知られたら――

その先に待つ未来を想像し、冷房の効いた室内で汗が噴き出す。

……

残り5分。

彼は机に突っ伏し、髪をかきむしる。

監督官の視線は、最後まで一切外れなかった。

……

試験終了。

デペンドラは魂の抜けたような足取りで試験室を出て、

私物を手にしたまま学院の外へ向かう。

通りを見つめ、希望の欠片もないまま、虚空を見据える。

――終わった。完全に、人生詰んだ!

…彼はうなだれたまま家路についた。

肩を落とし、背中を丸め、通りの車線を一つ一つ横切っていく。

やがてレ・バ=フォン地区の近くに差しかかった時、

偶然にも――いや、最悪な形で――

ストリンガーとその取り巻きたちに再会してしまう。

かつての“同級生”。

そして、彼が最も関わりたくなかった連中だ。

デペンドラは、見なかったことにしようと歩き続けた。

「――おい、デペンドラ。」

無視して歩き続ける。

すると、リーダー格のストリンガーがわざと前に出て、進路を塞いだ。

不快極まりない声で。

「なぁデペンドラ、試験どうだった?

 気になってしょうがねぇんだが?」

「……失せろ。」

そう吐き捨て、脇をすり抜けようとする。

だが――

ストリンガーは、もともとチンピラ気質の男だ。

この状況で黙って引くはずがない。

「おいおい、少しくらい俺を立てる気はねぇのか?」

「立てる? ふざけんな。

 俺はお前に一ミリも興味ねぇ。頼むから消えろ!」

――バキッ!!

ストリンガーの拳が、デペンドラの顔面を狙って振るわれた。

デペンドラは反射的にかわしたが、完全には間に合わず、

拳は顎をかすめる。

だが――

デペンドラも決して大人しい男ではない。

「――ッ!」

反射を活かし、

雷のような蹴りをストリンガーの顎に叩き込んだ。

「ぐあああっ!!」

ストリンガーは吹き飛び、地面に転がり、

情けなく呻きながら転げ回る。

「クソが……! おい、来い!!」

呼ばれて飛び出してきたのは、

ブルドッグとライノ――

強化グローブを装着した二人の手下だった。

二人は一斉に殴りかかる。

デペンドラは次々とかわし、

隙を突いて、それぞれに強烈な蹴りを叩き込む。

二人は腹を抱えて地面に沈んだ。

「ふぅ……見た目だけでかくて、弱すぎだろ――

 ……っぐ!」

――その瞬間。

後頭部に、強烈な一撃。

ストリンガーだった。

その一撃で、デペンドラは一瞬視界が揺れる。

その隙を逃さず、

痛みに耐えたブルドッグとライノが再び襲いかかる。

今度は、完全に不利だった。

……

――その時。

「おい。

 俺の息子に、何をしてる?」

低く、重い声。

振り向くと――

中年の男が、拳銃を手に、

ストリンガーの顔面へまっすぐ銃口を向けていた。

一瞬で状況を悟った三人は、

舌打ちしながら後退する。

「覚えてろよ、クソガキども!」

吐き捨て、姿を消した。

その男こそ、

デペンドラの父――インピュイサンだった。

白いタンクトップに、ジーンズ姿。

「大丈夫か、息子。」

彼はデペンドラを支え、立たせる。

「父さん……どうしてここに……」

「たまたまだ。さ、乗れ。

 その顔を見りゃ、だいたい察しはつく。」

「……はい。」

……

二人は、古びたバイクに乗り、

レ・バ=フォン地区南部の自宅へ向かう。

荒れた街並み。

崩れかけた建物、絡み合う電線。

風が唸る。

デペンドラはため息をついた。

「父さん……俺……」

「責める気はない。

 どうせ落ちたってことくらい、分かってた。」

「……え?」

「“え”じゃない。

 自分の息子のことくらい、父親は分かる。」

言葉が、出なかった。

父は許してくれている。

だが――

母は違う。

心臓に病を抱え、息子に大きな期待を寄せていた。

知られたら、どうなる……?

「母さんのことは心配するな。

 それは俺が何とかする。」

インピュイサンは、息子にとって優しい父だった。

だが――

デペンドラは分かっていた。

父の心の奥に、確かな失望があることを。

……

家まで、あと数キロ――

だが。

死神が、来た。

――ドォォン!!!

轟音。

炎。

上空にはヘリの影。

そこには、

炎に包まれるデペンドラと父を見下ろし、

笑い転げるストリンガーたちの姿があった。

「ヒャハハハ! ざまぁみろ!」

連中は、そのまま立ち去った。

笑い声と、燃え盛る炎だけを残して。

――皮肉なことに。

デペンドラは、生きていた。

全身に焼けつくような痛みを抱えながら。

だが――

神が救ったのは、彼だけだった。

「……父さん?

 父さん……どこ……?」

数秒後、

彼は理解してしまった。

父は、もう――いない。

ふらつきながら、燃えるバイクへ近づく。

何か……

何か一部でも残っていないかと。

やがて見つけたのは、

父の左腕。

その腕は、

いつも彼を守っていた腕だった。

涙が、

抑えきれず、静かにこぼれ落ちる。

……

一時間近く歩き、

ようやく家に辿り着いた。

彼はその腕を抱えたまま、家に入る。

ちょうど出てきた母が、それを見た。

「――なに……!?

 デペンドラ!? その怪我……

 お父さんは!? その腕は……!?」

――指輪。

薬指の銀の指輪で、彼女は理解してしまった。

「……父さんを、埋葬しよう。母さん。」

母は、言葉を失った。

次の瞬間、

顔色が真っ青になり、胸を押さえて倒れ込む。

予想していた。

だからこそ、デペンドラは即座に動いた。

母を抱え、病院へ。

彼女は――

心臓病を患っていた。

……

午後8時。

レ・バ=フォン中央病院。

デペンドラは、救急室の前で待っていた。

思考は、ただ一つ。

――ストリンガー。

怒りで、体が震える。

その瞳に、

殺意の光が走る。

……

「デペンドラさん。

 朗報です。お母様は、ひとまず峠を越えました。」

「……本当ですか……」

「ただし、神経系に深刻な影響が出ています。

 今後は……」

「……ありがとうございます、先生……」

「それと、入院費の件ですが――心配いりません。」

医師は、この病院の院長だった。

デペンドラの家族とは、古くからの付き合いがある。

こうして、

目先の不安は、一時的に消えた。

――だが。

今、デペンドラの心を支配しているのは。

**復


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