表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話

プリンプト帝国、首都グロリアス。

10100年5月12日、初夏の涼しい夜。


私――カフェニーは、(たぶん)そこまで狭くもない自分の寝室で、工科大学の卒業証書と、卒業式で一日中動き回ったせいでクタクタになった体を抱えて、そのままベッドにダイブした。


あ〜〜、ほんと疲れた!

ただ人と顔合わせただけなのに、なんで重労働した気分になるんだか。


体をうーんと伸ばすと、じわっとした快感が全身に広がる。


「さーて、エッジー!」


ベッドの下から、北極星柄のついた小さな丸いロボットがころんと出てくる。


「エッジー、これタンスにしまっといて! 今日はほんとに疲れたから!」


私が渡したのは、大学の卒業証書――それも首席で取ったやつだ。

エッジーはそれを受け取ると、自分で作り出したディメンション・ゲートを開いて、数秒でタンスへ放り込んだ。


この子、私がプログラムしたんだよ。すごいでしょ?

で、私は面倒な作業があると、すぐこいつに任せるクセがある(自分でできないわけじゃないけど、まあいいじゃん)。


「ふぁぁぁぁ……眠っ……」


私は遠慮なく大口を開けてあくびする(私はあくびのとき口を隠す習慣がない。気にしないでくれ)。

時計を見ると、すでに夜の22時。


よし、何も考えず寝よ。健康第一!


……


ところが、私のスマホが突然通知を鳴らし、しかもその鳴き声みたいな大音量で、私の睡眠は粉々に砕け散った。


時間は深夜2時。

画面には、友達からのメッセージが目立つように表示されていた。


「デパンドラ? こんな時間に何の用だよ……」


開いてみると、私のイライラを倍増させる一文が飛び込んできた

(というか、寝起きに叩き起こされた時点で私はすでにキレている)。


書いてあったのは、こんな雑なお願いだけ。


「1週間後に卒業試験あるからさ、答え表示マシン作ってくれよ。飯奢るから!」


……お前はもっとまともな文章を書けないのか?


デパンドラは高校時代の同級生で、高校卒業後はプリンプト軍隊学院へ、私は王立工科大学へ進んだ。

で、こいつは成績が「普通」……いや、はっきり言うと微妙。


で、こうやって頼み込んでくるのも、今回が初めてじゃない。


まったく……。

もうちょっと言い方あるだろ。

よりによってカンニング装置なんて……腹立つ!


しかも、もし手伝えば、プリンプト法的に私は裁判沙汰だ。

リスク高すぎ。


すると、追撃のメッセージ。


「あ、あと増幅器も頼む!」


……いやいやいや。

でもまあ、「奢るよ」という一言が誘惑なのも事実。

あいつが苦労するのを見たくないし……うん……(はあ)。


「まあいいや……寝よ……」


窓の外では雨が降り始め、次第に強くなっていく。

眠気を誘う、心地よい音。


……


しかし、雨はすぐに止んでしまった。

そしてなぜか私は目を覚まし、もう眠れなくなった。


起きたら、突然腹が減った。

しかも冷蔵庫には何もない。


しょうがない、外で買おう。

幸い、近くにコンビニはある。


……


私は紫色に淡く光るオートスケートボードに乗って街を滑る。


時刻は朝4時。

なのに高層ビルには色変わりのネオンがまだ煌々と輝いている。

街灯、看板は半分ついて半分壊れている(直す人がいない)。


足元には雨の水たまり。

空からはまだ霧雨が少し降っている。


雨の冷気が残る空気はひんやりして気持ちいい。

道には誰もおらず、私と冷たい風だけが存在していた。


……


しかし、その静けさはすぐに破られる。


空中で、オーバータイム高層ビルの屋上から、緑色の光が飛び出した。

私から数十メートルほど。

ものすごい速度で横切り、緑の光跡を残していく。


オーバータイム高層ビルは、プリンプト最大の博物館だ。

そして光が飛び去った瞬間、ビルは警報を鳴らしはじめた。


……また泥棒か。

ほんと嫌いなんだよ、こういうやつ。


何? 死にたいわけ?


どう見ても、あれは逃走中の怪盗。

でも次のビルまで距離があるし、あいつの装備はどう見ても雑貨品。

きっと落ちて死――いや、生き残るかも?


まあ、どっちでもいい。

なら、私が片付けてあげるか。


私のスケボーは、スナイパーライフルに変形できる。


まったく……

こんな堂々と盗む奴、撃たれて当然だろ。


「ネオンリーパー!」


銃を構え、照準を合わせ――

発射。


(FWOOMP!)


乾いた一発。

弾丸は見事に命中、標的の動きを完全に封じた。


怪盗は近くのビルの屋上に落下し、かなり痛そうに転がった

(まあ、あの位置なら死なないだろ)。


盗んだ物はまあ……たぶん粉々だ。


グロリアスは何千年も文化と繁栄の象徴だった。

だが――最近、私は町がどこか「衰えている」気がしてならない。


まあいい。

こんな深夜に銃を持ってうろついてると、警察に捕まる!


「ハ……ハ……クシュン!  あーやば、絶対風邪ひいた……」


さっきの怪盗、なんか指名手配犯と特徴似てた気が……

まさか本物?


……


思い出すなあ。

あの頃――中等部だった頃のことを。



両親はめったに家にいなかった。

海外出張ばかりで、あるいはどこか遠い場所に滞在していることがほとんどだった。

そんな中で、当時の私にとって一番身近な存在だったのが、兄のカルロス・スネグだった。

……

「カフェニー、こっちだ!」

あの日のことは、今でもはっきり覚えている。

空はどんよりと曇り、北から吹きつける冬の季節風が骨身に染みるほど冷たかった。

王都全体には、異様なほど大量の雪が降り積もっていた。

私はちょうど中等学校の校門を出たところだった。

左手の門のそばに、分厚い灰色のコートを着た兄が立っていて、手を振って私を呼んでいた。

「お兄ちゃん? 今日は会社の用事があるんじゃなかったの?」

「今日は祝日だから、社長が休みにしてくれたんだよ。へへ」

「えー? そっちは休みなのに、私たちは普通に登校っておかしくない?」

「お前たちは受験生だろ。勉強する時間が必要ってことさ。……ま、せっかくだし遊びに行こう。どうだ?」

「うん!」

……

その日は、思う存分ゲームで遊んで、ビュッフェに行って――

とにかく、最高に楽しい一日だった。

……でも。

夜の九時になっても、私たちはポテンシエル区の通りを歩き回っていた。

ネオンに照らされた高層ビル、四方に輝く広告看板、行き交う歩行者たち。

雪かきをするロボットの姿さえあった。

「カフェニー、そろそろ帰るか?」(優しい声で)

「もう少しでもいいよ。それより、服買わない? あのブランド店、良さそう!」

おしゃれな服を着て街を歩く――それ以上に楽しいことなんてない。

(えへへ)

……

「――ご来店ありがとうございました。またのお越しを!」

店を出たとき、手にはそれほど大きくない買い物袋(たぶん四キロくらい)。

その時の私は、ただただ楽しくて仕方がなかった。

「ははははは!」

「ちょ、ちょっと静かにしろ。注目浴びたら変だろ」

「いいじゃん。見られたって死ぬわけじゃないでしょ? それともお金使ったのが惜しいの?」

「違うって。俺がケチなわけないだろ」

実際、周囲の視線が私に集まり始めているのは感じていた。

――でも、本当の異変はその直後だった。

広告スクリーン、ビルの外壁、ラジオ放送。

すべての媒体が、突然同じ内容に切り替わった。

『――市民の皆様に通達します。

窃盗、殺人、そして王族暗殺未遂の罪で指名手配中のクリム・ド・オリジンが脱獄し、市内に逃走しました。

政府は即時、追跡命令を発令します。

生け捕り、または居場所を通報した者には、報奨金三十六億フレンカスを支給します』

犯人の顔が、細部まで鮮明に映し出される。

警察と業務用ロボットが、市内全域を封鎖し始めた。

兄と私は、黙って放送を聞き終えた。

「……カフェニー、分かってるな?」

(気をつけろ、という意味だ)

「大丈夫だよ。この街、何千万人もいるんだよ? まさか私たちに当たるわけ――」

「甘く見るな。いいから帰るぞ。家で見せたいものもある」

そう言って、兄は私の手を引いて急いで帰路についた。

……

家の近くの細い路地に入った。

人通りはなく、店はすべてシャッターを下ろしている。

空から降る雪は、さらに激しくなっていた。

その時だった。

遠くから、空中ホバーボードに乗った男がこちらへ一直線に突っ込んできた。

そして――転倒。

そのままの勢いで、私たちの方へ滑ってくる。

男は自動販売機に激突し、ガラス扉を粉々に破壊して中に突っ込んだ。

中年の男が、苦しそうにもがきながら這い出てくる。

「くそ……くそっ……! 追いつかれたら終わりだ……」

顔を上げた瞬間。

私と兄、そしてその男。

六つの目が交錯した。

――間違いない。

指名手配犯、その人間だった。

白髪交じりの髭、右頬の傷、老いた顔立ち。

男の表情が歪み、どこからかミニショットガンを取り出した。

私は何もできなかった。

素手では、どうしようもない。

引き金を引こうとした、その瞬間――

「危ない!」

兄が私の肩を掴み、背後へ突き飛ばした。

だが、男は私ではなく、兄へと銃口を向け直す。

――ドンッ!

散弾が腕と脚を貫き、深い傷を刻む。

「――あああっ!!」

痛みなんて、もうどうでもよかった。

兄は、ほぼ全弾をその身で受け止めていた。

無数の散弾が、体中に突き刺さる。

それでも、男は止まらない。

再び引き金を引いた。

――ドンッ!

次の一撃は、兄の頭部を撃ち抜いた。

肉が弾け、血が飛び散る。

そこに残ったのは、首のない骸だけだった。

――ドサッ。

血が、地面に広がっていく。

私は泣き崩れ、声すら出なかった。

恐怖と無力感で、何も考えられなかった。

ただ、足元にあったレンガを掴み、男の頭に投げつけた。

――グシャッ!

「ぐああっ!!」

血は流れたが、致命傷ではなかった。

「……上等だ。死にたいらしいな!!」

獣のように、男が私へ飛びかかろうとした、その時。

「動くな! 警察だ!」

いつの間にか、三人の警官が男を包囲していた。

男は制圧され、業務用ロボットにより連行された。

……

その夜、葬儀が行われた。

参列者は、私と両親、そしてデペンドラだけだった。

母は強いショックで重い病に倒れ、長期入院。

父は一か月以上、深い鬱状態に陥った。

今も、その影は消えていない。

……

数日後。

葬儀も終わり、遺体は土へ還った。

相変わらず、曇天の寒い朝。

私は家の中を片付けていた。

兄のクローゼットを整理していると、透明フィルムで包まれた箱を見つけた。

「……プレゼント?」

中を開ける。

そこには、一枚のボードと、一通のメモ。

『妹の誕生日。絶対に忘れるな!』

ボードに付いた青いボタンを押すと、

それは一瞬で――銃へと変形した。

私が、ずっと欲しかったものだった。

涙が、止まらなくなった。

……それでも、少しだけ。

ほんの少しだけ、心が救われた気がした。

……

後悔に満ちた、その夜――。

……

現在に戻ろう。

物思いにふけりながら歩いているうちに、いつの間にか家に着いていた。

幸いなことに、店にはまだ必要なものがいくつか残っていた。

どういうわけか、今はまったく眠気を感じない。

……せっかくだし、少し作業を進めておこうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ