魔導通信の向こうで
ユノに詞を送ったあと、返事が来るまでは心臓が落ち着かなかった。
何度も魔導端末を確認して、そのたびに光がついていないことに安堵したり、がっかりしたり。
でも――思ったよりずっと早く、光は届いた。
『詞を読ませてもらいました。
とても素敵です。旋律の空白に、すっと馴染む気がしました。
あなたの声を重ねた記録も、何度も聴きました。
ぜひ一緒に仕上げましょう。』
読み終わった瞬間、胸が熱くなった。
“素敵”って言ってくれた。
“仕上げましょう”って、わたしを招いてくれた。
「……っ」
気づけば、わたしは椅子の上で膝を抱えて顔を埋めていた。
嬉しいのに、涙が出そうになるなんて。
* * *
それからの日々は、魔導通信越しにユノとやりとりを重ねることになった。
《この部分の旋律、少し上げてみませんか?》
《いいですね、じゃあ次は二拍目を伸ばして……》
《詞にもう一行足すなら、“祈り”のイメージが合いそうです》
《わかる! その方がしっくりくる!》
魔導端末越しなのに、まるで隣に座って一緒に譜面を覗き込んでいるみたいだった。
「……不思議」
小声で呟いてしまった。
わたしはこれまで、ずっとひとりで音を作ってきた。
ひとりの方が気楽だったし、誰かに踏み込まれるのは怖かった。
でも今は――ユノと重ねる音が楽しくて仕方ない。
空白を埋めていくたびに、わたし自身も何かを満たされていくみたいだった。
* * *
夜。
最後の修正を終えた瞬間、ユノから短い魔導文が届いた。
『完成しましたね』
それだけなのに、胸が跳ね上がった。
《……うん。わたしたちの曲だね》
送信すると、すぐに返事が返ってきた。
『はい。あなたとわたしの共鳴です』
光の文字が水晶端末に浮かんで、ゆっくり消える。
その残像を見つめながら、わたしは唇をかすかに震わせた。
「……わたしたちの、曲」
声に出してみると、それは思った以上に重みのある言葉だった。
“誰かと一緒に作る”なんて想像もしなかったのに――今、それが当たり前のように胸にある。
夜空の星が瞬く。
それはまるで、遠いどこかでユノも同じ星を見上げているみたいで。
わたしはそっと端末を胸に抱いた。
「……ありがとう、ユノ」
これからの音が、もっと広く、もっと遠くへ届く気がした。