はじめての“共鳴”
「……やってみたい」
ユノからの魔導文を読んだあと、わたしはずっと考えていた。
最近、霊出席の記録を見返す機会があって、胸の奥が少しだけざわついた。
でも、それでも――音楽にふれると、心が動く。
“もしよかったら、一緒に何か作ってみませんか”――その一文が、胸の奥でずっと光っていたから。
兄さんに相談すると、すぐに茶化されると思ったけれど、意外とまじめに返ってきた。
「変じゃないだろ。やりたいなら、そう言えばいい」
「だよね。……だよね!」
不安よりも、胸の高鳴りの方が勝っていた。
わたしはすぐに端末を手に取り、魔導文字を打ち込んだ。
《ぜひ、お願いします》
送信の光が走って消えた瞬間、心臓が跳ねた。
けれど、後悔はなかった。
* * *
返事は驚くほど早く届いた。
『作りかけの魔導譜があります。
旋律も詞も未完成ですが、
よかったら声を重ねてもらえませんか。
魔導記録を添付します。』
添付された魔導譜を再生すると、静かでやさしい旋律が流れ出した。
どこか懐かしくて、けれど少し切なくて――まるで、胸の奥を撫でてくるみたいな音。
「……すごい」
思わず声に出てしまった。
旋律はまだ途中で途切れていて、空白が多かった。
でも、その空白は、まるでわたしの声を待っているみたいで。
霊出席の記録に残る“少なさ”とは違う。
これは、わたしが埋めてもいい空白だ――そう思えた。
「わたし、この曲に詞をつけたい」
兄さんに言うと、少し驚いた顔をされた。
でも、すぐにうなずいてくれた。
「そう思えるなら、やってみろ」
「うん」
* * *
机にノート水晶を広げて、わたしはことばを探した。
音に寄り添うような言葉。
ユノに返せるような言葉。
鼻歌を繰り返しながら、何度も書いては消して――
ようやく、ひとつの詞が浮かんだ。
ふたりで見た夢が
声を持ったみたいに
呼びかけてくる
わたしはそれに、ちゃんと応えたい
書き終えた瞬間、胸が熱くなった。
ああ、これだ。これがわたしの“返事”だ。
「できた……!」
わたしは魔導譜に自分の声を重ね、ユノに送信した。
光がひときわ明るく弾けて、部屋が一瞬だけ輝く。
* * *
深夜の静けさのなかで、わたしは窓辺に座って空を見上げた。
星々の瞬きが、まるで誰かの瞳みたいにこちらを見返してくる。
――届くかな。
この詞も、この声も。
でも、怖くはなかった。
だって今は、わたしの音が“誰かと重なる”ことを、心から望んでいるのだから。
それはきっと、わたしにとってはじめての“共鳴”だった。