音の契約、わたしの“こたえ”
魔導学園の地下演奏室。
そこは、外界の音を遮断する結界が張られた、特別な空間だった。
わたしは、ローズ鍵盤の前に立ち、深く息を吸った。
「……最後の曲です。わたしの、“こたえ”です」
魔導演奏会の記録用魔導石が、赤く光る。
兄さんが魔導譜を確認し、ミレイが魔導映像装置を起動する。
ルナとシャリカも、静かに見守っていた。
「この曲は、ミレイちゃんと一緒に作りました。
たぶん、いちばん痛くて、いちばん大切な“しるし”です」
わたしは、鍵盤に指を置いた。
ローズ鍵盤の音が、静かに空気を満たしていく。
少し曇ったような、でも芯のある音。
それは、まるで感情の輪郭をなぞるように、言葉の届かない場所へと染み込んでいく。
わたしの声が、静かに、でも確かに、みんなの内側に染み渡った。
『あの日、こたえられなかったことを』
『こんどこそ、しるしたい』
『きえないままのこえに、こたえを』
涙がこぼれても、声は止まらなかった。
それは、痛みと悦びが混じり合った、魂の叫びだった。
しるしであり、こたえであり、確かに届いた、震えるほどの音だった。
最後の音が止まった瞬間、わたしはマイクを抱きしめるように、そっと膝をついた。
魔導石の光が消えるころ、わたしは小さく、囁くようにつぶやいた。
「……聞こえたよ」
その一言に、すべてが込められていた。
後日、わたしたちはスタジオの小部屋に集まった。
ルナ、シャリカ、ミレイ、そして兄さん。
わたしは、濡れた瞳の奥に強い決意を秘めて言った。
「わたし、歌い続ける。どんな形でも」
「……だよな」
兄さんが笑った。
「始まったばっかだもんな、リュミナの歌は」
ルナが魔導端末を開く。
「この前の演奏記録、海外の魔導ネットでバズってるよ」
「えっ?」
「“Voice that transcends words”ってタグでシェアされてる。
“言葉を超えた声”って」
わたしは照れくさそうにうつむいたが、ミレイはにやりと笑って言った。
「オレ様の演出も効いてたってことだな。
……でも、いちばん届いたのは、リュミナの声だよ」
ルナが勢いよく立ち上がった。
「じゃあさ、次はユニットで新曲ってことでいい?
タイトルは……『Answer after silence』とか!」
「ださっ」
「えぇぇーっ!?」
みんなの笑いが響く。
その笑いには、もう不安も迷いもなかった。
やっと、ここから「始められる」。
そんな確かな熱が、わたしの胸に灯っていた。




