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封じられし音、再び紡がれて

午後の魔導学園。

魔導窓から差し込む光が、ローズ鍵盤の銀の縁をきらりと照らしていた。

わたしは、魔導譜を抱えたまま、兄さんの隣で少しだけ緊張していた。


「……今日、来るんだよね。ルナと……シャリカ」

「うん。リリース祝い兼、打ち上げってことで、寮の共用ホールを借りた」


兄さんは、魔導調理台の前で何かを煮込んでいた。

甘い香りが漂ってくる。たぶん、ルナとシャリカの好物。


第十四刻。。

魔導扉のチャイムが鳴った瞬間、わたしは玄関に走った。


「……ひさしぶり」

「リュミナ! 本当に魔導演奏会に出たの!? 可愛かった!!」

「やめて、抱きつかないで……ルナ」


ルナは、いつも通りだった。

でも、その瞳の奥に、少しだけ涙が浮かんでいた。


「だって、リュミナが“わたし、しゃべれないけど、歌うのは……”って言ったときからずっと信じてたもん!

あのときの魔導伝信も、ずっと保存してるもん!」


わたしの動きが、一瞬止まった。


「……え?」

「え? あ、やば……今の、聞こえた……?」


「“あのときの魔導伝信”って……」

兄さんも、わたしの背後で息を呑んだ。


そのとき、シャリカが静かに現れた。

白地に薄紅の花模様の魔導衣。

まるで、風のように静かに。


「ユノは、ルナの作詞パートナー」

シャリカの言葉に、わたしは目を見開いた。


「……ミレイちゃんのこと? 兄さんの曲の魔導映像で何度も一緒に仕事してる……?」


わたしの魔導端末が震えた。

発信者:ミレイ


震える指で通話を開くと、画面越しに映ったのは、ツインテールに派手な魔導衣を纏った女性。

表情は明るく、声は豪快だった。


「よっ、リュミナ! オレ様だよ。元気してた?」

「……ユノって、ミレイちゃんだったの?」


「そうそう、オレ様がユノってわけ。

まあ、みんな気付いてると思ってたけど、ちゃんと伝えてなかったからな」


「……なんで、今まで黙ってたの?」


ミレイは、少しだけ表情を曇らせた。


「“音”に向き合う覚悟を決められるように、手助けしたかったんだよ。

あのときの魔導伝信で、“歌いたい”って言ったの、すごく嬉しかった。

でも、まだ不安そうだったから……プレッシャーになるかもって思ってさ」


わたしは、静かに頷いた。


「……たしかに、わたしは、自分の声に自信がなかった。

ユノの言葉に救われたけど、正体を知ってたら、きっと逃げてたかもしれない」


ミレイは、笑顔を取り戻して言った。


「だからこそ、今なんだよ。

魔導演奏会での歌、最高だった。

もう、隠す理由なんてない。

これからは、正面から一緒に音を作ろうぜ」


わたしは、ゆっくりと笑った。


「……うん。今なら、ちゃんと向き合える。

ありがとう、ミレイちゃん」


魔導窓の向こう、空が少しだけ晴れ始めていた。

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