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魔導の声が、わたしを試す

魔導の声が、わたしを試す


「……来てた、ユノから」


兄さん――セリオがそう言ったとき、わたしの胸の奥に、ひとすじの緊張が走った。魔導スタジオの空気が、少しだけ張り詰める。


机の上には、ふたり分のハーブティーと、開きかけた魔導ノートパーチメント。窓辺には、魔導鳩が残した小さな羽根がひとつ、風に揺れていた。


ユノからの伝令文が届いたのは、十五刻前。兄さんが席を外していた間に、魔導鳩が舞い降りてきたらしい。


「開けるよ?」


兄さんがそう言って、わたしはそっと魔導窓を開いた。そこに浮かび上がった文字は、まるで魔導詠唱のように、静かに、でも確かに心に響いた。


『語彙が整いすぎてる。綺麗すぎる。

構成も論理的。けど、それだけじゃ“感情”が通らない。

君の声は、届く音を持っている。だから、削ぎ落として。もっと“君だけの歌”を』


「……わあ、容赦ない」


わたしは目を細めた。けれど、そこには笑みが浮かんでいた。


「なんか……ちょっと、うれしい」


「刺されたのに?」


「うん。だって、ちゃんと聴いてくれてるの、わかるもん」


そう言って、わたしは魔導ノートから視線を外し、兄さんの方を見た。


「……兄さんとは、違う」


「ん?」


「兄さんは、わたしが何を歌っても“いい”って言ってくれる。……それ、ちょっとズルい」


それは、図星だった。


兄さんがわたしのすべてを受け入れてくれる気持ちは、逆に“成長の足かせ”になっているかもしれない。わたしは、誰かと“比べられたい”と思っている。それは、兄さんにとっては少しだけ――怖いことだったのかもしれない。



その夜、仮歌を録ることになった。


兄さんが魔導録音装置をセットしている間、わたしは母の遺した蒼銀のローブを整えて、魔導マイクの前に立った。ローブの裾が揺れるたび、心が少しずつ整っていく。


録音の魔導石を起動する。数秒後、わたしの声が空気を震わせた。


それはもう“初めての歌”じゃなかった。

明確な“意志”が乗っていた。


聴き終えたあと、兄さんは小さく息を吐いた。


「……いい声だった」


「ありがとう。でも、ユノの方が“正直”だったよ」


そう言って、わたしは笑った。だけど、兄さんにはわかる。


その笑顔の奥には、微かに震える不安がある。



翌朝。ユノからの返信が届いた。


『録音、聴いた。

技術は荒削り。でも、声は真っ直ぐだった。

そのまま、進めて。次はリフレインの再構成を提案したい』


わたしはその最後の一文を見て、少しだけ眉をひそめた。


「……この人、誰?」


「どうした?」


「なんか、怖い。

でも……どこか、うれしい」


兄さんの心にも、小さな警鐘が鳴った。


この感覚――

わたしの“音楽”に、新しい誰かが触れはじめた。

その“誰か”が“届きはじめた”。


兄として、隣にいることには変わりない。

でも今、兄さんはほんの少しだけ――“試されている”気がした。

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