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フシミイナリの殺生石

古神道都市ゲント


ホクト天満宮の境内にて役職を決める大規模な陰陽師の試験が行われていた。駆け出しの陰陽師がそれぞれの得意な属性の術を使って遠く離れた的に射的を行うというものだった。


教官「もうだめだ、今年もあきらめろ、フシミキョウシロウ。」


フシミ「ぐ、まだまだ!」


フシミの水を使った技は的に当たりもハズレもせず、近くに落ちるばかりで、遠く届かなかった。


教官「エンノ様、どうしますか?」


座敷の奥から見ていた行者が口を開いた。


エンノ「キョウシロウは今年で、何歳だったか?」


教官「30半ばです。」


エンノ「焦ってるのか?どう見る?セイメイ。」


エンノの横の陰陽師はため息混じりで話し始めた。


セイメイ「的当てというのに刀の技しかできないお前が悪い。一体この1年間、何をしてたんだ?」


フシミ「射的は難しくって……それなら、この技を極めようと……」


エンノ「教官、お前の指導にも原因があるのではないか?」


教官「うぅ、反省しております。」


教官はエンノ達に頭を下げた。


エンノ「フシミイナリの跡取りだからと期待はしておったのだがなぁ。」


セイメイ「……。」


フシミ「くっそ……」


肩で息をするフシミはその場に膝をついた。


エンノ「しまいじゃ、面取りはまた来年よな。」


エンノは席を立った。その後ろに青い鬼と赤い着物の鬼女が続いた。


教官『お前のせいで、コッチまで怒られたではないか!』


フシミは悲しそうな顔をして虚空を見つめるだけだった。




日の沈む頃、

ねぐらの双ヶ丘の庵に帰ったフシミはふて寝しながら考えていた。


フシミ『遠くを狙えなくたって、俺はやれるんだ。』


遠く……


フシミ「そうだ!」


フシミ『式神憑依!式神にやってもらえばいいんだ!』


起き上がったフシミはしかしと、あぐらに腕を組んで唸った。


フシミ『けど、式神をもらえるのは面取に、役職付きになってからだ。式神作りは素人は法度だしなぁ。』


その時、フシミはなにかの囁きを耳にした。


『……私を求めよ。』


フシミ「誰だ?」


『つるぎ石だ。』


フシミは驚いた、


自分の故郷の山にそれがある。雷神を封印してあるとかないとか。そこら辺は、自分よりも優秀な弟のほうが詳しいだろうが今はそんなことはどうでもいい。


フシミ「雷神なら的当てなんてチョチョイのチョイだろう!よし!善は急げだ!」




人々が寝静まり、夜も深い丑三つ時、フシミは自分の故郷のフシミイナリ神社に登った。


フシミ「あったあった。」


フシミは剣石の前まで来ると辺りに誰もいないことを確かめた。


キョロキョロ


封印を解く、出てきた雷神と式神契約して、試験に合格して、自分も晴れて役職付きの陰陽師になれるとあって

フシミは鼻息が荒かった。


小声で素早く呪文を唱える。自分の術なら水浸しになるだけだ、朝には乾く。証拠は残らない。


フシミ『臨兵闘者皆陣烈在前!水龍斬!』


スパッ!


石は封印のしめ縄ごと綺麗に割れた。


月も雲に隠れた闇夜というのに、割れた所から怪しい光が揺らめく。

一層、眩い光を発した石から出てきたのは一糸まとわぬ、白く輝く、世にも美しい女人であった。


フシミ「……あれ?女神?雷神って話は……?」


???「我はキュウビ。かつて玉藻前と呼ばー」

ボン!


女人は煙を発したかと思ったらちんちくりんな幼女になってしまった。


フシミ&キュウビ「うわーー!なんだこりゃー!」


その大声に周囲の家々の明かりがまばらにつき、騒ぎを聞きつけた人々の足音が近づいてくる。


フシミ「ま、マズイ!」


キュウビ「うわーん!どうするんじゃコレー!」


フシミは幼女になってしまい泣きじゃくる素っ裸のキュウビを小脇に担いで一目散に山を下りた。

勝手知ったる、自分の生まれ育った山だったので、人には見つからないルートでフシミは難なく自分のねぐらに帰った。



キュウビ「トホホ、せっかく、下郎を騙して外へ出れたと思ったのに。」


キュウビは今頃、恥ずかしくなったのかフシミの万年床の掛け布団にくるまっていた。


フシミ「へ!残念だったな!妖怪!」


キュウビ「むむむ!お互い様じゃぞ!お主!」


う、確かにキュウビの言う通りだ。


こんな事がバレたら家に帰れなくなるどころか、島流しー。最悪、死罪もあるのでは……。


フシミ「……」


フシミはマズイことになったと難しい顔をして自分の未来のことを思案した。そこへキュウビがおもむろに話しかけた。


キュウビ「お主の名は何と申すのじゃ?」


フシミ「キョウシロウだ。フシミキョウシロウ。」


キュウビ「そうか、キョウシロウ。ワシの服を用意せい!それから飯じゃ!腹が減った!」


えぇ……


まぁ、幼女を裸のままにはして置けないよな。とりあえず、今日は自分の予備の服を着させるとして、明日にでも、自分が小さかった頃、着ていた服を取りに行こうとフシミは考えた。


フシミ『しかし、飯かぁ。』


定職に未だつけてないフシミは貧乏で、ごく簡単な料理しか作ったことがなかったし、今後は2人分の食い扶持を稼がねばならないのかと不安になった。


フシミ「ほらよ。」


キュウビ「おう、スマヌな。」(イソイソ)


衣装箪笥から出した服をキュウビに投げるとフシミは冷蔵庫を開けた。


閑散……


その光景にため息しか出ない。


フシミ「……チャーハンでいいか?」


キュウビ「なんじゃ?チャーハンて?うまいのか?」


ええい、これもつけてやるか。


フシミは大事にとって置いた、むきえびをつかんだ。


フシミ「簡単に作れてうまいぞ?」


キュウビ「それはいい!10合くれ!」


10合?!コメの単位だよな?キュウビは小さい体に似合わず大食らいのようだ。


フシミ「米びつには俺のと合わせて3合くらいしか残ってないぞ?それで我慢してくれ。」


その間にキュウビはフシミの服を着た。サイズが合うはずもなく、ぶかぶかであった。

フシミはささっとエビのチャーハンを作って、ちゃぶ台でキュウビと一緒に食べた。


キュウビ「うまい!何年ぶりじゃろうか!人の飯を食うのは!」


フシミ『親のスネ……かじりすぎだよなぁ。』


心もとない折りたたみ財布を取り出して中身を見る、お札かと思ったらそれはレシートだった。


はぁ。




ホクト天満宮の陰陽座の入っている屋敷の一部屋にエンノとセイメイと道士姿の翁が囲炉裏で顔を合わせて座っていた。


エンノ「ついに奴等が動き出したか。」


セイメイ「どうされますか?バンコ様。」


バンコと呼ばれた道士姿の翁が細いひげを撫でながら話し始めた。


バンコ「合格者にいいのは居たか?」


エンノもセイメイも首を横に振った。


バンコ「左様か。」


エンノ「カルト教団、アジ・ダカーハ。おとなしくしとればいいものを。」


セイメイ「各地のインフラ。それと、神社仏閣に執拗にテロ行為をしております。我らを標的にしてくるのは時間の問題でしょう。」


バンコ「厄介な話よなぁ。」


3人のため息のあと沈黙が部屋を覆った。それをセイメイは何かを思い出したかのように口火を切って話しだした。


セイメイ「一人いいのが居ました。」


エンノ「?セイメイ。お主も合格者の中にはおらぬと言ってたではないか。」


セイメイ「合格者の中には。です。」


会場にいなかったバンコが鋭い目、すべてを見通す目をセイメイに向ける。


バンコ「フシミか。」


セイメイ「はい。」


エンノ「アヤツを?縁故採用は禁止だぞ、セイメイ。」


セイメイ「水龍斬。奴の地面に穿った穴を行者も見たでしょう?」


エンノは次の言葉に詰まった。確かに、フシミの術は深々と地面を穿っていた。しかし。


エンノ「ものになるのか?的あてもできんのだぞ?」


セイメイ「私が確かめてみましょう。入れ。」


部屋の外に待機していた四人の侍がふすまを開けて部屋に入って来た。


エンノ「雷光四天王か、なるほど。」


ツナ「渡辺綱。」


キントキ「坂田金時。」


サダミツ「碓井うすい貞光。」


スエタケ「卜部うらべ季武。」


侍達が名乗りを上げる。

すべてセイメイの式神なのだろう。体の輪郭が時折、画像のように乱れる。


セイメイ「バンコ様、また境内が騒がしくなることをお許しください。」


目を細めたバンコは大きく頷いた。



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