冬の冒険
ある冬の寒い日、私は冒険に出る事に決めた。まだ小学生の私にとってこの冒険はきっと過酷な物になるだろう。だが、もう行くと決めたのだ。
「じゃあ、お母さん。行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、遅くならないうちに帰ってくるのよ」
「うん!」
私はそう言って家を出て、歩き出した。これから私が何をするかと言うと……。
「まずは王様に挨拶ね。でも、この現実世界に王様なんていないから、あの偉そうにふんぞりかえっているデブ猫でいいか」
そこにいたのは近所の小学生達から王様と呼ばれている猫だ。この寒い日の朝だというのに堂々としている。私はお参りするように訴えた。
「王様、私これから冒険に行ってきます!」
すると王様が言った。
「ニャア」
どうやら王様は私の旅立ちを祝福してくれるようだ。そして、何かを私に差し出してきた。これは何だろう?
「これって……」
それは小さな石だった。王様の目は私にこう語りかけていた。
『これは私の宝物です。あなたにあげましょう』
どうやらこの石はこの世界で一番価値のある宝石らしい。つまり、旅の助けとなる重要なアイテムという事だ! なんて素晴らしいんだろう! これを捨てるなんてとんでもない!
「ありがとうございます! 大切にします!」
そうして私は王様に別れを告げると冒険の旅に出た。
「さて、ここから一番近いダンジョンまでどのくらいかかるかな?」
とりあえず歩いてみる事にした。しばらく歩くと一人の女の子に出会った。友達のみゆきちゃんだ。彼女は私に気が付くと嬉しそうに話しかけてきた。
「まふゆちゃん、どこか遊びに行くの?」
「えっと……近くのダンジョンまで冒険に行くんだよ」
「面白そう、私も行く」
「きっと過酷な冒険になるよ。それでもついて来るの?」
「もちろんだよ」
こうして私達は一緒に冒険する事にした。歩きながらみゆきちゃんは私の背負っている物を見て話しかけてきた。
「ところでそのリュックには何が入っているの?」
「えへへ、物置にあった伝説の剣だよ」
「すごいなぁ、それがあれば魔王だって倒せるかもね」
「そうなったら凄いよね」
そんな話をしていたその時だった。突然、モンスターが現れた。
「グルルルルッ!!」
近所の犬だ。だが、ただの犬ではない。レベル10の凶暴なモンスターだ。普通の人間ならひとたまりもないが、冒険者である私は負けない!
「くらえっ!」
私は雪玉を拾って投げた。しかし、その攻撃では犬にダメージを与えられなかった。逆に跳びかかられてしまった。
「痛いっ!?」
押し倒される形になった。みゆきちゃんが叫んだ。
「まふゆちゃんを助けなくちゃ!」
みゆきちゃんは持っていた木の実を投げつけた。しかし、それも効果がなかった。そして、犬は私の顔を舐め始めた。ペロペロ……。くすぐったくて仕方がない。
「ひゃあっ!?」
必死に抵抗するが全く歯が立たない。このままではやられてしまう。そう思った時だった。
「おーい、ジョン。こっちに来いよ」
誰かの呼ぶ声が聞こえたかと思うと、急に私の上に乗っている重さがなくなった。
「大丈夫か?」
そこにいたのは一人の少年だった。どうやら彼が犬の飼い主らしい。
「ごめんよ、ジョンが迷惑をかけて」
「いえ、こっちが先に雪玉をぶつけてしまったので」
「それで遊んでくれると思ったんだろうな。よかったらもっと遊んでやってくれないか?」
「でも、今の私達は冒険の真っ最中なんです」
「冒険?」
私は彼に事情を説明した。彼はそれを興味深そうに聞いていた。
「なるほど、そういう事だったのか……。よし、俺も連れていってくれないか? ジョンも一緒だ。きっと役に立つぞ」
「本当ですか? ぜひお願いします!」
戦力不足を痛感していたところにありがたい申し出だった。
こうして私達に仲間が増えた。そして、3人と1匹で旅を続ける事になった。しばらく歩くと近所の公園が見えてきた。あそこにダンジョンがあるに違いない。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「おう!」
3人それぞれ覚悟を決めると、公園に突入した。日が昇って明るくなってきた公園には何もいなかった。冬の寒さでは鳩一匹現れないということか。
しかし、奥の方からかすかに物音が聞こえる。どうやらこの先にあるようだ。私達は慎重に足を進めた。そして、ついにその場所を発見した。
「これがダンジョン……」
そこは一見すると普通のトンネルに見えた。だが、よく見ると壁に文字のようなものが描かれている。
私には難しくて読めないが、おそらくこれが入り口だろう。
「どうする? 入るか?」
「うん、もちろん」
「よし、じゃあ、まずは俺から……」
「待ってよ。私が先に行く」
「どうしてだ? ここは犬を連れている俺がまず先に調べるべき場所だろ?」
「それは私が勇者だから!」
「な、なんだと……ただの冒険者ではなかったのか」
「まふゆちゃん、勇者だったんだね」
「さぁ、どいてください。勇者の私が先に行くのです」
「くそっ、わかったよ。その代わり絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
「わかっています。必ず生きて帰ります」
こうして私は最初の一歩を踏み出した。短い公園のトンネルはすぐに終わった。だが、子供の私達にとっては壮大な冒険をやり遂げた気分だった。
「ふう、ダンジョンを攻略した」
「次はどこに行く?」
「せっかく公園に来たんだから遊んでいこうぜ」
「いいね。ジョン、こっちだよー」
「ワン!」
「俺の犬ー!」
「まふゆちゃん、待ってよー!」
こうして私達は冬の公園でお腹が空くまで遊んでいったのだった。