表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕チタ勇者ハ甦ル  作者: あんぜ
三章 呪い
39/65

第36話 兆し

 アザール領の領都にウェブデンを残したまま、私とアシス、数人の金緑(オーシェ)は、戦士長を連れて辺境領ロバルへと向かった。アザール領都にはまだ領主代理の元、戦士団、約80名の本隊と士気が低いとはいえ60名ほどの領民兵が残っているからだ。ロバルの西の領境の町ではウィカルデ及び金緑(オーシェ)の一部と合流した。


 私は拾った領民兵の胸当てと篭手を平服の上から身に着け、スカートの下には脛当てを付けていた。両手剣と長剣、それから戦士団から剥いだミトンは拝借したままだ。ウィカルデからは、――これはまた面妖な出で立ちですね――などと言われてしまった。


「なるほど、ここを通過した伝令が我々に何も伝えなかったわけですね」

「できれば金緑(オーシェ)の本隊と合流して領主代理の軍を抑えようと考えている。ガナトのやり方は間違っている」


 手元の団員は仮にウェブデンたちを加えても40名に満たないが、本隊と合流できれば300を超える精鋭だ。その中には元白銀(ソワール)の優秀な団員も含まれる。これまではその価値を把握できていなかった私だが、上手く活用できればアザール領の解放など容易だろう。


「ええ、それにジルコワル殿が青鋼(ゴドカ)を引き連れてこられるとの話ですからね」

「ジルコワルが来るのか? ルシアは?」


「ルシア様はわかりませんが……ジルコワル殿が来られると何か問題でも?」


 思わず不審が顔に出てしまっていた。ジルコワルの言動はおかしい。

 オーゼやロージフが言っていたのもあるが、ルシアに擦り寄ったり、何か信用ならない。


「いや、問題ない。ただ、三戦士団が集まるのだ。少々過剰ではないかと」


 峠を越えた東では雪がちらついていた。寒空は珍しくなかったが雪が降るにしてはまだ早いような気もする。女神様に祝福されたこの土地では東の果ての地のように雪で閉ざされるようなことは少ない。我々は領境の町で防寒具を買い足し、領都へと向かった。



  ◇◇◇◇◇



 ロバル領都へ戻ると雰囲気が一変していた。

 何かがおかしい。


 金緑(オーシェ)を引き連れ砦へと戻ると、砦の門が閉じたままだった。

 さらには百人を超える青鋼(ゴドカ)に包囲される。彼らの後方には赤銅(バーレ)の魔術師の姿も見える。


「これはどういうことか!」


 青鋼(ゴドカ)に向かって問いかける。

 いつもならジルコワルかロージフが居るはずだが姿が見えない。

 代わりに別の団員が答える。


「団長の指示だ! 勇者様と金緑(オーシェ)には反逆の疑いがもたれている!」


 語気の強いその団員の様子を訝しむ。

 青鋼(ゴドカ)とは言え、私に対する態度に違和感を覚える。


「砦の金緑(オーシェ)はどうした!」

「答える必要はない! 武器を捨てろ!」


 青鋼(ゴドカ)の団員はあくまで我々を咎人と疑うつもりらしい。


「謂れなき罪に問われ、我らの魂を捨てるつもりはないぞ!」


 その言葉に反応し、金緑(オーシェ)の皆は応と答えた。

 ただ、青鋼(ゴドカ)も迂闊に手を出すつもりは無いようで、実力行使してくる気配はない。こちらは全員が騎乗しているため強引に包囲を突破することもできるが、馬は危険だ。容易に魔術師たちの魔法に翻弄されるため、上手く嵌められると落馬により隊が崩壊しかねない。少数だが赤銅(バーレ)の魔術師が厄介だった。



 一刻に渡って続いた睨み合いだったが、ジルコワルの登場によって解かれた。


「いやあエリン、これはうちの団員が手荒なことをしてしまった」

「ジルコワル! どういうことだこれは。冗談では済まされないぞ」


「ガナト殿より軍の潰走の責任はエリンにあると聞かされてね。戦う前から総崩れになったとか」


「馬鹿馬鹿しい! 元より士気の低い領民兵を無理に徴収したことが潰走の原因だ。それに、そもそも彼のやり口がおかしいのだ。オーゼ捜索を掲げて混乱した領地を掠め取ろうなど! 魔王討伐に協力した領地なのだぞ!」


「大逆人の捜索は国にとっての一大事だよ。……だが、ガナト殿のやり口に問題があったのも事実だ。まあなんだ、ここから先は中で聞こう」


 ジルコワルは私を言い含めるように促す。だが――。


「いや、青鋼(ゴドカ)赤銅(バーレ)の皆にもここで聞いて欲しい!」


 私が断ると、ジルコワルが眉をひそめる。


「――領主代理はアザール侵攻の際、領境の町との交渉事を(はかりごと)を以って裏切り、アザール側に責任があるように見せかけ領境ばかりか領都を占拠したのだ!」


 私は続けたが、おかしなことに周囲からの反応が薄い。

 ジルコワルも不気味な笑みを見せていた。


「――領主ガナトの代理は領地拡大を目的としてさらにロハラ領へと侵攻した! だがロハラ側からの反撃に遭い軍は潰走。その責任を私に押し付けた! さらには兵糧確保のため領民の隊商を襲撃、その場に居合わせた私を口封じに葬ろうとしたのだ! その証人こそこの戦士長だ!」


 縛り上げたガナトの戦士団の戦士長を指さす。がしかし、青鋼(ゴドカ)からも赤銅(バーレ)からも声が上がらず、これだけの人間が居て誰一人、動揺さえ見せなかった。


「エリンの言い分はわかった。で、どうしたいのだ?」


 先ほどよりも余裕のある表情でジルコワルが問いかける。


金緑(オーシェ)本隊と合流し、アザール領を解放する!」


 フム――と、ジルコワルは続けた。


「では200の青鋼(ゴドカ)を貸そう。ここに居る赤銅(バーレ)も連れて行って構わん」

「どういう意味だ?」


「君の金緑(オーシェ)は今、王都だ。ここには居ない」

「どういうことだ? 私の許可も無く動かしたのか?」


「そうだ。王命だ」


 ジルコワルは私の勇者の加護が失われたことなど、まるで公然たる事実のように語る。

 先ほどの青鋼(ゴドカ)の団員と言い、何かがおかしい。


 ただ、まずは一刻も早くアザール領だと考えた私は、ジルコワルの提案を飲んだ。加えてガナトへの追及を提言しておく。



  ◇◇◇◇◇



 我々は既に設営済みの青鋼(ゴドカ)の野営地へと移動させられる。

 私は用意されていた大型テント(パヴィリオン)にウィカルデとアシスを呼び、団員を見張りに立たせた。


「どう思う? ジルコワルを」

「おかしいです。いくら王命といえ金緑(オーシェ)を勝手に動かすなど」

「砦を使わせないのも妙です。この程度の人員なら受け入れは容易なのに」


金緑(オーシェ)がまだ砦に居る可能性もあるな」

「調べさせましょうか?」


「いや、ウィカルデたちが動くのはまずい」


 ちらとアシスに目をやる。


「ははっ、そんな目をされても、こちらの領都は把握してませんよ?」


 アシスはおどけたように言う。


「そうか。もし可能なら頼む。嫌な予感がする」

「わかりました、できうる限り」


「いずれにせよアザール領の解放が先だ。ただ、こちらも気になる。何名かは残して様子を見ていてくれ」

「承知」



「ところで……」――と私はウィカルデに顔を寄せ――。


「――ええと、ウィカルデ、以前より少し落ち着きましたか?」

「えっ!?」


 ウィカルデが目を逸らす。

 久しぶりに会った彼女は、以前の刺々しい物言いがいくらか落ち着いたように見える。今日も、昨日に増して機嫌が良さそうだ。


「いえ……はい、そうかもしれません」

「何かありました?」


「いえ、その……自分が如何に小さいかを思い知らされました……」

「アシスですか?」


「えっ、はい。そうです。こう、苛々して溜まっていたものをぶちまけたというか……」

「勇者様に倣って、ウィカルデのため自制いたしました」


「そうでしたか。――わかりました。ウィカルデはしばらくアシスと共にこちらに残りなさい」

「しかしそれでは!」


「いえ、こちらに残って本隊と合流できた場合の指揮をお願いします。可能ならその後に私とも合流を。そしてそのためにも、平静を保つことを考えてアシスと共に居なさい。正直、少し前までの貴女は見ていられませんでした」

「そう……ですか。承知しました」


 そうして私はウィカルデとアシス、それから数名の金緑(オーシェ)を残し、青鋼(ゴドカ)赤銅(バーレ)を率いてアザール領へと引き返していった。









 四戦士団の団員は、小隊64名を基本として4小隊の256名、これに白銀の100名程度が三戦士団に移籍して金緑と赤銅が各300程度、ほぼ青鋼は変動なしと言ったところでしょうか。これに非戦闘員が付く形ですが、常設軍に比べて非戦闘員の数が大幅に少ないのが特徴です。兵糧は常設軍が運んでいました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ