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僕の選択  作者: LOOK
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出会い

初めて書きました。誤字脱字があるかもしれません。あったらご指摘お願いします。この話は第一章から第三章からなります。もしよければ読んでみてください。感想やコメントをくださるとすごくうれしいです。

一章


 朝は6時に起床し食パンを二枚トースターに入れることから一日が始まる。焼きあがったトーストの香ばしい香りはとても好きだ。洗い物が出ないようにお皿ではなくテーブルの上にティッシュを敷く。焼きあがったアツアツのトーストをそこに置く。即席の粉末コーヒーをカップに入れお湯を注ぐ。朝食は大学時代から、一人暮らしを始めて、ほとんど毎日トーストとコーヒーの組み合わせだ。安くておいしい。六つ切りの食パンを買い、三日に分けて食べる。


 チョコクリームやイチゴジャムなどいろいろな種類を食べてきたが、最近はバターとはちみつをかけたハニーバタートーストにはまっている。学生時代はマーガリンだったが経済的にも余裕が出てきたので、バターに変更した。マーガリンも慣れ親しんだ味でとてもおいしいが、やはりバターは格別にうまい。またブラックコーヒーとよく合う。


 朝食をとるときはいつもテレビを見ている。

 「続いてはこちら。今若者に来ている食べ物………」

 なぜ朝の情報番組はこんなにくだらない内容ばかりなのだろうか。ファッションや流行りの食べ物など僕が微塵も興味がないことばかりを特集している。音がないと寂しいのでテレビをつけているがニュースと天気にしか興味がわかない。


 朝食をとり終え、スマホでSNSをチェックする。さっきまで見ていたテレビもそうだったが、今日は、某有名女優の結婚報道ばかりだ。相手はIT企業社長。やっぱり金かと思ったのは僕だけではないだろう。社長クラスにならないと女優とは結婚ができないのか。やっぱりこの世の中は厳しいな。明るいニュースのはずなのに自分と照らし合わせて考えてみると、その明かりは消えていた。


 今日はとてもいい天気なのでたまっていた洗濯物を洗う。洗濯物を干す作業は割と好きだ。とても心地よい香りが周囲に漂う。風に飛ばされないように、ハンガーを大きめの洗濯ハサミで止める。このひと手間がとても重要だ。


 寝巻から、仕事用のスーツに着替える。しっかりとアイロンをかけたワイシャツ、紺色のネクタイ、ジャケット、パンツに身を包む。どれも大学入学時に買ってもらったものだ。そこまで高価なものではないが大切に使っている。あと3年は持つだろう。いや持たせよう。


 鏡に自分の顔が映る。目の下のくまが目立つ。すごく眠そうな顔をしている。最近は寝不足ぎみだがこれから仕事だ。カフェイン、早く働いてくれ。


 歯磨きを済ませ、腕時計をし、仕事用のバックを背負い、窓、ガス栓、電気の確認をして外に出る。鍵を閉め、最寄り駅まで歩いていて向かう。


 最近は散った桜が道路で目立つようになってきた。毎朝すれ違う犬の散歩をしている隣人に軽く会釈をする。動物も飼ってみたいとは思うが、最後を考えると、飼えない。近所の犬や野良猫と戯れる方が僕にはあっているのだろう。


 改札を抜けホームで電車を待っているといつも通りの時間に電車が来る。満員電車だ。今の時期の満員電車はまだいいが夏は悲惨だ。いつも通りつり革は両手でつかむ。このスタイルはテレビで痴漢に関する話題を目にしてからだ。痴漢は疑われたらすごく面倒だし精神的にもきつい。これなら何を疑われても絶対に負けない。


 改札を抜け会社まで少し歩く。僕も例外ではないが、この時間にスーツで歩いている人たちはすごく足が速い。入社したての頃は出勤だけでもへとへとになったことを覚えている。職場に到着しタイムカードを切る。自分のデスクにつき、仕事の準備に入る。

 「吉田おはよう。眠いし帰りたい。」

 あくびをしながら話しかけてきた彼は僕の隣の席の松田。同じ部署唯一の同期で大学時代からの友人だ。サークルで知り合い、大学生活を一番共に過ごした。就職活動も協力して頑張った。今日はいつもに増してダルそうだ。

 「そういえばさ、今度田中が結婚するんだってさ。いいなー結婚。俺の好きな女優さんも結婚したしさ。俺達もう二五だぜ。俺も早くしてーよ。いい人いないかな。」

 確かに今年で二五歳だ。僕はそこまで焦りは感じていないが彼女がいないのは少し寂しいところだ。学生時代以来いない。

 「皆さんおはようございます。えー今日は………」

 今朝も部長の挨拶から仕事が始まる。今日もなんともない、いつも通りの一日が始まった。




 お昼休憩になった。僕は今そこまでお腹はすいていないが、このままだと夜までは持たない。検索エンジンで、「近くの軽食」と調べた。いくつかのお店がヒットした。何件かお店を見ていると、ハニーバタートーストの文字が目に留まった。


 目的のカフェに行くまでいくつか同じようなお店が目に入るが予定通り最初に見つけたお店を目指し歩いた。無事目的地に着くとそのカフェは割と落ち着いた雰囲気だった。メニューが書かれた手作り感満載の手書きの看板も飾ってある。そこにも「ハニーバタートースト」の文字があった。期待ができそうだ。


 ―――「カランカラン」―――


 入店すると、おしゃれなインテリアと、僕好みの落ち着く音楽が流れている。

 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

申し訳なさそうに一人ですと答えた。

「かしこまりました。ご案内します。」

 店員さんに案内され、席に着いた。おいしかったら今度松田も誘ってみよう。そんなことを思いながらメニュー表を開く。ランチメニューなど様々な種類のメニューがある。始めのページにはナポリタン、ハンバーグなどガッツリ系のメニューが連なっている。今の僕には重い。

 ページを進めると、サンドイッチ、フレンチトースト、などのいわゆる軽食といわれるメニューも豊富だ。だが、僕がこの店に来た理由はハニーバタートーストだ。


 低めに手を挙げる。店員が僕に気付きメモを持ちながら近づいてくる。僕が来店した時案内してくれた店員とは別の人だった。

 「お待たせいたしました。お伺いいたします。」

 僕はメニュー表を指さしながらハニーバタートーストとコーヒーを注文した。

 オーダー確認をして店員はキッチンの方にはけていった。ちらっとしか見なかったが、オーダーを取りに来てくれた店員はショートカットできれいな女性だった。僕は無意識にキッチンに入るまで彼女を目で追っていた。

 カフェ店員はきれいな人が多いと思うのは僕だけだろうか。カフェ店員をやってみたいと思ったこともないが周りの意識の高さについていけなくなることは容易に想像できる。そんなことを思いながら料理を待っていた。


「お待たせしました。ハニーバタートーストと、ホットコーヒーになります。」

 さっきの店員ではなかった。なぜか分からないが少しがっかりした。いつも朝食べる自分で作るハニーバタートーストとは全然違った。蜂蜜の上品な香りとバターの濃厚さが格別にうまい。コーヒーもなかなかだ。ゆったりとしたBGMも相まってのんびりとした気分で食事を楽しんでいたが、時計を見てはっとする。後10分で午後の仕事が始まる時間になっていた。残っていたまだ少し暖かいコーヒーを飲みほし、慌てて手と口をおしぼりで拭き、伝票を持ってレジに向かう。

「750円になります。」

 オーダーを取りに来てくれたショートカットのかわいい店員だったが、今はそれどころではない。慌てて千円札を取り出し、お釣りお受け取り、慌ただしく扉を開け、カフェを後にし、走って職場に戻る。


 何とか仕事には間に合った。額には汗が滲んでいる。右ポケットに手を入れるがいつもの感触がない。朝はあったのに。どうやらどこかにハンカチを落としてしまったようだ。割とお気に入りだったので悔しい。仕方なくワイシャツで汗をぬぐう。今日はいつもより念入りに洗おう。




 今日は午前十時三十分ごろに起きた。休日は目が覚めるまで寝る。このくらいの時間に起きたときは大体朝ご飯は食べずにお昼に朝昼ごはんとしてまとめて食べる。たくさん寝たせいか今日はいつもよりも寝癖がひどい。誰に見られるわけでもないので適当にくしでとかすだけだ。


 無音だと寂しいのでテレビをつける。いつもの朝のニュース番組は終わってしまい、旅番組や町ブラ番組が放送されている。僕が思う、テレビが一番面白くない時間帯がいまだ。休日の午前中にやっているテレビで面白かったためしがない。午後になればゴールデンタイムに放送されている番組の再放送があるから、いくらかましだが。


 今日は何をしようかそんなことを思いながら好きなユーチューバーのゲーム実況動画を見る。ゲームは好きだがあまりうまくない。中学高校と仲の良い友達とよくやったが、全然勝てなかったことを覚えている。大人になってからはよりやらなくなった。誰かがプレイしているところを見るくらいがちょうどよい。


 休日はこんな風に動画を見ていたら一日が終わっていた。そんなことばっかりだ。今日は天気も良く気温もちょうどよい。外食はあまりしないほうだが、今日は昼食でも食べに外に出てみようと思う。


 検索履歴に以前、お昼を食べに行ったあのカフェが出てきた。確か、かわいい店員さんがいたような。少し距離があるが、前回は仕事の合間であまりゆっくりできなかった。今日は休日。あのカフェで小説でも読みながら、ゆっくりしよう。

 通勤と全く同じ道なので少し憂鬱な気持ちになりながらも、スマホの地図アプリを頼りにカフェに行く。前回よりはスムーズにたどり着くことができた。前回来た時とは違うメニューが手書きの看板に書かれている。今日のお勧めは季節のフルーツをふんだんに使ったフルーツサンドのようだ。

 

―――「カランカラン」―――


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 接客してくれたのは、前回来た時、注文を取りに来てくれたショートカットのかわいい店員だった。少し緊張しながら一人ですと答える。

「かしこまりました。ご案内します。」

 笑顔で奥の席に案内される。前回と違う席で、しかも隅っこ。読書をするには最適な場所だ。

 今日は朝から何も食べていないので、たくさん食べたい気分だ。メニュー表を開きメニューを確認するが、それとは別に下敷きのようなもので、季節のフルーツサンドが宣伝されている。これは外の看板に書いてあったものと同じ物のようだ。僕は低めに手を挙げ、店員さんを呼ぶ。

 「お待たせいたしました。お伺いいたします。」

 あの店員さんだ。やはりかわいい。僕好みの顔つきをしている。恥じらう気持ちを抑えて、フルーツサンドとホットコーヒーを注文した。


 小説を開き、読書を始める。主人公の夫の浮気がばれたところで話が止まっていた。浮気をする人の気持ちが僕にはよくわからない。個人的に人付き合いがあまり得意ではないので、仮に結婚したとしてその人以外と関係を持つのは面倒だと感じてしまうと思う。はさんでおいたしおりを取り、読み進めながら注文した料理を待った。


 「お待たせいたしました。フルーツサンドとホットコーヒーになります。」

 彼女が料理を運んできてくれた。運ばれて来た料理に手を付ける。フルーツサンドはメロンとホイップのサンドと、イチゴとホイップのサンドだった。とても甘くておいしい。この甘さが、ブラックコーヒーと会う。


 すると、

「あの、すみません。」

 僕は驚いた。食べるのに夢中で近づいてきていたことに気付かなかった。口に間違いなくホイップがついていただろう。

「このハンカチ違いますか?もしかしたらお客様かなと思いまして。違ったらごめんなさい。」

 そこには見覚えのあるハンカチがあった。なくしたことも忘れていたが、いざ目にすると、あの日ワイシャツで汗をぬぐったことを思い出す。確かにこのカフェに来ていた。まさかここに落としていたなんて。僕の物です。謝罪とお礼を言い、申し訳なさそうに受けとる。

「よかった。お釣りを渡した後に落としてまして。走って行っちゃったから、声もかけられなかったんです。」

 どうやらあの時焦っていて、落としたことにも気づかなかったようだ。僕は慌てると、大体悪いことが起こるが、今回は僕にとってはいいことにつながった。

「あっ、すみません。食事の途中でしたね。ごゆっくりどうぞ。」

 なぜだろう落とし物を渡してくれただけなのに心臓の鼓動が早まっている。こんな気持ちになるのは久しぶりだ。丁寧にたたまれたハンカチをカバンにしまう。


 食事を終え、また小説を読み始めようとするが、もう小説の内容など頭に入ってこない。今は彼女のことで頭がいっぱいだ。また来ることを決め、会計をする。対応してくれたのは彼女だった。千円札を渡し、お釣りとレシートを受けとる。彼女の左胸には名札がついていた。佐々木さん。そう名前を確認しカフェを後にする。




 今日も六時のアラームで起き、いつものように朝食をとり、いつものスーツを身にまとい、そしていつもの満員電車に揺られ出勤し、いつものデスクに腰を掛ける。でも最近はいつもと違うところがある。

 「吉田おはよう。今日もダルいな。ていうか最近お前なんか元気だよな。」

 それはそうだ。何せ会社に来るのがとても楽しみなのだから。とはいっても仕事が楽しいわけではない。カフェに行くのが楽しみ。もっと言えば佐々木さんに合うのが楽しみなのだ。このことはまだ、誰にも言っていない。僕だけの楽しみだ。そんなことを思っていた矢先に、

 「そういえば最近お前お昼どっか行っちゃうけどどこ行ってんの?」

 いくら友達であっても、これは教えたくない。もし松田が佐々木さんを気に入ってアタックでもしたら………。平然を装い、適当な答えでごまかした。

 「そっか。今度行くときは俺も誘えよ。そういえばあの女優うまくいっているのかな。絶対俺の方がいい旦那になれると思うけどな。」

 僕はそうは思わないが、松田は本気で思っていそうだ。確かにあんなにきれいな人が奥さんだったら毎日がすごく楽しくなりそうだ。少し雑談を交わし、午前の仕事に入る。


 待望のお昼休憩になった。一度背伸びをして体を伸ばしてから財布と携帯を持ったことを確認し、松田の目を盗み真っ先にあのカフェに向かう。あれから何回かあのカフェに行っているので、道は完璧に覚えた。今日も手書きの看板がおしゃれにデザインされている。


 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 佐々木さんだ。堂々と一人ですと答えると、

 「かしこまりました。ご案内します。」

 僕が席に着き、メニュー表を見ていると、彼女がお冷を持ってきてくれた。

 「最近よく来てくださいますね。ありがとうございます。職場近いんですか?」

 彼女は僕に話しかけてくれた。しかも、僕に関する質問。僕のことを知りたいと思っている証拠だ。なぜ仕事中だと分かったのかなと疑問に思ったが、よく考えてみれば今僕はスーツを着ていた。近くの職場に勤めていて、スマホで調べていてたまたまこの店に出会ったことを伝えた。

 「わっ!すごい偶然ですね。この辺りはカフェも多いですし。今日はハンカチ落とさないように気を付けてくださいね。」

 微笑みながら彼女はそういって仕事に戻っていった。心拍数が上がっていた。顔が赤くなっていなかったかとても心配だ。ただ、もよりも伸びていた。


 今日はお腹がすいていたので、ナポリタンとホットコーヒーにしようと思い、いつも通り低めに手を挙げた。メモを持ち彼女が笑顔で近づいてくる。

 「お待たせいたしました。お伺いします。」

 ナポリタンとホットコーヒーを注文した。注文だけでもすごく緊張する。その後料理を持ってきてくれたのも彼女だった。ナポリタンはよく自分でも作る。最近は隠し味にカレー粉を入れると味に深みが出ることを発見した。トマトソースが口につかないように気を付けながら、食事を進める。

 

 少し冷めたコーヒーでのどを潤し会計に向かう。

 「千円になります。」

 財布を開き千円札を取り出し彼女に渡した。レシートを待っていたが彼女はレジから出てきたレシートを取り、胸ポケットからペンを取り出し、何かを裏に書きだした。ペンが止まったと思うと彼女は顔を上げ、僕にレシートを差し出していた。少し目線をそらしており、少し顔が赤くなっていた。僕はそのレシートを受けとり裏面を確認する。何を書いていたのだろう。




 土曜日、僕は駅にいた。レシートの裏を見て時間と場所を再確認する。十時集合だったが三十分前についてしまった。都合が合えばと書いてあったが、都合が悪いわけがない。あったとしてもこっちが優先に決まっている。今日はなんだか自分に自信がある。洋服屋の店員にコーディネートしてもらった服装。昨日切ったばかりの髪、教えてもらった髪型のセット。磨いた靴。いつものコスパを重視した場所ではなく、意識の高い洋服店や、美容室にも行ったのでなかなかの出費となったが、これだけで自分に自信がもてるようなるのなら安いものだ。


 集合場所でこまめに時間を確認する。数分後一人の女性が近づいてきた。

「あのー、カフェにいつも来てくれる………。」

 佐々木さんが来た。そうですと答えた。そう言えばまだ自分の名前をまだ言っていなかった。吉田ですと名乗ると

 「吉田さん………。吉田何さんですか?私は渚。佐々木渚です。よろしくお願いします。」

 渚という名前をここで初めて知った。大地、そう自分の名前を伝える。佐々木さんと会う時はいつもカフェなのではお店のエプロンを付けてる印象しかなかったが今日は、白のワンピースに淡いピンクのベレー帽。とても似合っていた。そしてなんだか甘い香りもする。柔軟剤か香水なのかこの時の僕にはわからなかったが、いずれにしても、いい香りだ。いつもに増して心拍数が上がっていく。

 「今日は来てくれて本当にありがとうございます。ところでそんなまじまじと見て私に何かついてますか?」

 僕無意識のうちに彼女のことをじっと見てしまっていた。何もついてないよとごまかした。本当は見とれていただけだ。こういう時にかわいかったからなど正直に言える人はほんとにうらやましい。恥ずかしくて正直なことを言えたためしがない。その一言でぐっと距離を縮められることは知ってはいる。

 「そうですか。ならよかった!それじゃ行きましょう。」

 良かったら一緒に水族館に行きません?と書かれていたレシートの裏を思い出す。多分同じ目的地であろうカップルや親子の波に乗り、歩き始めた。


 数日前から二人で出かけるということは分かっていたが、いざとなると緊張する。何を話したらいい。取り合えず水族館に関する話を振ってみる。

 「水族館好きなんです。ペンギンとかアザラシとかサメとか。でも一番好きなのはイルカのショーです。なんていうか、飼育員とイルカの努力と絆が見えてすごい好きなんです。」

 水族館は僕も嫌いじゃない。小さいころ家族とよく行っていた。でも高校時代の修学旅行以来言っていない。最近の水族館はどう進化しているのか正直僕も楽しみだ。


 水族館に到着した。大きなイルカとペンギンのオブジェが目を惹く。始めてくる水族館だ。チケット売り場に並んでいると子供たちの楽しげな声がよく聞こえてくる。僕たちの順番が来た。心の中で入館料高いなと思いながらも、大人二人で、と言いチケット受け取った。


 こういう時の歩くスピードはとても難しい。展示されている魚よりも彼女がどれに興味があるのか、どこで歩を止めるのかの方に気を取られてしまう。大きな水槽のコーナーや小さな水槽のコーナー、深海魚コーナーなど、多種多様な生き物が展示されている。ペンギンのコーナーに入ったところで佐々木さんはひと際キラキラした目で指をさしながら、僕に話しかけてくる。

「あの奥のペンギンかわいいですね!」

あのペンギンよりも今僕の目を惹くものがある。普段見れない表情、しぐさ、そしてテンション。すべてが魅力的だった。


 順路を進み大きく開けたイルカショー会場についた。前の方の席は空いていたが、後ろの方の席はすでに埋まっていた。仕方ないので立ち見をすることにした。華やかな音楽に合わせイルカたちがパフォーマンスをする。やはりいくつになっても見ていて楽しいものだ。横を見ると拍手をしながら楽しそうにしている佐々木さんがいた。さっきのペンギンといいこのイルカショーといい、ほんとに水族館が好きだということがと伝わってくる。

 「やっぱイルカショーは最高です。でも毎回思うんです。イルカたちはあんなに高く飛んで着水するとき痛くないのかなって。」

 確かに、そんなこと考えたこともなかった。僕はそれよりもイルカが着水するときに上がる水しぶきの方に目が行っていた。イルカショーは前の方の席はすごく濡れる。人生で一度は前の方の席に座ってみたいなとは思うが、今日ではないことは確かだ。イルカショーが終わり人の波に流され、会場を後にする。


 水族館の中を一通り見終わり、お土産コーナーに着いた。

 「このペンギンかわいい。これ買う!」

僕はそこまで欲しくなかったが、こういうお揃いの物を買うということは今後何かしらに生きてくることは鈍感な僕でも分かった。お揃いのストラップをカバンに着け、水族館を後にした。


 会話を重ねるうちに、いつの間にか敬語でもなくなっていて、僕のことを下の名前で呼んでくれるようになった。「あー楽しかった。また来ようね。この後大地君が良かったらご飯でもどう?」

もちろん行く。それよりもまた来ようという言葉が僕の脳に焼きつく。渚さんに見えないように固くこぶしを握る。その後近くのイタリアン料理店に入った。



 「おいしかったね。今度みんなに教えてあげよ!」

 海沿いの公園を歩きながら彼女は言った。街灯の薄暗さと、波の音が心地よくすごくおしゃれな雰囲気だ。僕からも何か話を広げようと思い、何を話そうか考えていた。すると渚が僕に話しかける。

 「私たちもう二五歳だよ。早いよね。社会人になると、出会いとかなくなるし、結婚とかできるのかな。」

 いきなりだったので、少しびっくりした。彼女の年齢が同じだと知ったのは、ついさっき食事をしている時だ。確かに、社会人は出会いが本当にない。同じ部署は男の方が多いし、だからと言って、僕は積極的なタイプではないから、合コンにもあまり参加しないしましてやナンパなどもしたことが無い。いったい世間の人たちはどこでどう出会っているのだろうか。

 「なんかさ、学生時代に戻りたいなってつくづく思うよ。授業は退屈だったけど、毎日友達に会えるし好きな人とかできて自由に恋愛できたしさ。」

僕もそう思うことは多々ある。人並みに恋愛などはしてきたが、今思えば学生でいる間は、最高の環境だった。この先あのような環境はないと思うと少し悲しい。

 「大地君っていま彼女とかいるの?」

 話の流れからそういう話をするだろうなとは思った。僕には高校生以来彼女はいない。いたら今日、この場にいないだろう。「渚はいるの?」と聞き返そうとしたが、その隙は無く、渚は足を速め少し僕の前にでて振り返えった。一度目が合ったが、すこし目線をそらしながら僕に言う。

 「なら、私と付き合ってほしい。」

 水族館に誘われたあたりから、変な期待はしていたが、こんなにも早く、まっすぐに言われるなんて思わなかった。高鳴っていた僕の心臓がよりいっそう激しく鳴る。僕に断る理由はない。こんなにもかわいい人が僕に告白してくれるなんて、この先二度とないだろう。僕の出す答えは一つだ。ここから駅までは少し距離がある。薄暗い帰り道を僕たちは手をつないで歩いた。


 今日もいつものスーツに身を包みそしていつもの仕事用バックを背負う。黒一色のバックだったが、ペンギンのストラップ一つでなんだかかわいらしく見えてくる。職場につき、自分のデスクに腰を掛ける。隣の席から松田が僕の顔をまじまじと見ながら言う。

 「最近ほんと元気だよな。てか、そんなキーホルダーとかつけてたか。なんかあった?」

なんかあったよ。佐々木渚という可愛い彼女ができた。今日もお昼になれば彼女に会える。僕に彼女ができたことは、職場の誰にも言っていない。もちろん松田にも。ただ一部を除いて。

 「なんか一人で楽しんじゃって。俺にも分けてほしいよ。」




 今日も仕事を終え、家に帰ってきた。やはり帰りは行く時より荷物が重く感じる。ペンギンがつぶれないように丁寧にバックをおろす。今日は急遽会議が入ってしまい、お昼を食べる時間がなかった。最近はお昼をカフェでとっていたので毎日渚に会っていた。今日は会えていないので少し寂しい。


 最近彼女と様々な場所に行き、よく話し、彼女のことが少しずつわかってきた。佐々木渚。二十五歳。都内の短大を卒業後、都内の企業に就職。しかし、一年を過ぎたところで退職。理由は人間関係だそうだ。その後は実家に住みながら近くのカフェでアルバイトし生活をしている。今は就職する気はなく、アルバイトをしながらゆっくりと生活をしているようだ。兄弟はいない。大切に育てられたことは一緒にいてよくわかる。


 シャワーを浴び髪を乾かす。今日の夕飯は何にしよう。冷蔵庫にある食材で適当にご飯を作る。一人暮らしを始めて早7年。自炊など慣れたものだ。

 

 食事を終え少ししたら渚に電話でもしようかなと思いながらスポンジを泡立たせる。すると僕のポケットが振動する。「誰だよ」と思いながら手に着いている泡を洗い流し、ズボンで手をふき、携帯を確認する。渚からだった。僕は慌てて電話に出た。

 「もしもし、大地君?お疲れ様!今大丈夫?」

 ソファーでくつろいでいたところだと嘘をつく。渚はとてもかわいらしい声をしている。

 「今日は来なかったからどうしたのかなと思って。仕事忙しかったのかな?そういえば聞いてよ。今日は、迷惑なお客さんが来てさ……」

 水道の蛇口を閉め、ソファーに向かう。彼女の話に相槌を打ちながら聞いた。内容のないつまらない話だったが、そんなことはどうでもいい。こんなにかわいい彼女がかわいい声で僕のために時間を割いて話をしてくれている。そう考えるだけで僕は満足だった。ひと段落ついたみたいだ。すると渚がまた話し出した。

 「ねえ。大地はどっか行きたいところある?」

 付き合い始めてから、割といろいろなところに行った。後はどこに行っていないだろうか。少し考えていると、

 「私大地と二人で旅行に行きたい。温泉とかどう。」

 そういえば、まだ泊りでどこかに行ったことは無かった。彼女からの誘いを断る理由はない。どこにしようかと二人で考えて予定を立てる。

 この時間が一番楽しいと感じるのは僕だけではないだろう。二人で泊りか。僕も男だ。正直いろいろなことを想像してしまう。最低限の準備はしておこう。こうして二人で温泉旅行に行くことになった。




 渚とは駅で待ち合わせることになっている。今回の旅行用にまた、新しい服を買い、髪も整え、靴もしっかり磨いてきた。お泊り用の荷物もしっかり持った。準備は万全だ。今回もいつものように待ち合わせの三十分前に到着した。LINEで決めた時間と場所を再確認し彼女を待つ。


 「大地君、お待たせ!」

 集合時間ほぼぴったりに渚が来た。今日来ている洋服もとても似合っている。これから二人だけの旅行が始まる。どんな思い出ができるのかとても楽しみだ。


 数時間電車に揺られ、目的地に到着した。

 「着いたー。湯気すごいね。」

確かにあたりを見渡すと様々なところから湯気が出ている。事前に調べて、写真なども見てきたが、実際に見るとやはり迫力がある。においも温泉街特有のにおいが立ち込めている。

 「じゃ行こうか。」

 いつもに増して渚のテンションが高い。楽しみにしていたことがよく伝わってくる。実際僕もすごく楽しみだった。昨日夜、楽しみでなかなか眠れなかったことは彼女には秘密だ。


 今回のデートプランはまず着物を着ることから始まる。駅の近くにある着物を取り扱っているお店に入る。

 それぞれ男女に分かれた部屋に案内された。僕が最後に着物を着たのは7歳の時だ。どのようなデザインだったか、よく覚えていないが、嫌がったことはよく覚えている。店員さんに言われるがまま、着物を着た。鏡を見てみると、我ながら似合っているのではないかと思う。店員さんにもお褒めの言葉をいただき、いつも以上に自分に自信が湧いていた。

僕の方が先に着付けが終わり、ロビーで渚を待っていた。

 数分後、カフェのエプロンでもなく、普段着でもなく、着物を着ている渚が出てきた。髪飾りなども付けており、とてもかわいかった。確実に僕よりも似合っているだろう。

 「ど、どうかな。」

 渚は恥じらいながら聞く。僕はかわいい以外の言葉が浮かばなかった。それぐらい似合っていた。これからこの子と、町を散策したり、食事をしたりできるのかと思うだけで僕は幸せだった。手をつなぎ、着物店を後にし、温泉街の散策を始めた。


 ちょっとした足湯に入ったり、温泉饅頭を食べたり、それぞれの職場用へのお土産などを買ったりした。

 一通り温泉街を満喫し、旅館に向かうことにした。


 「ここが今日の宿かな。雰囲気あるね。」

 渚が言うように今日宿泊する旅館はお世辞にもきれいとは言えない外観だったが、中に入ると一変、和風で品のある上品な空間が広がっていた。女将さんが僕たちをもてなしてくれ、部屋まで案内してくれた。

 「わっ!思ったより広いね」

 畳のにおいが心地よい。とても広い部屋だった。二人部屋にしては十分すぎるほどの部屋の広さをしている。


 「疲れたね。足痛い。」

 彼女が畳に敷かれた座布団の上に座り体を伸ばしながらそう言った。この旅館は温泉がメインだ。入浴の準備をし、時間を決めそれぞれの暖簾をくぐった。


 実家の近くの銭湯はよく行っていたが、温泉はあまり来たことが無かった。シャワーで体を流し温泉につかる。少し熱いくらいだったが、慣れてくると心地よい。このような大衆浴場は、嫌いじゃない。足を延ばすことができ、本当にリラックスできる。後は、実家のお風呂のように、歌でも歌えたら最高なのだが。今は渚と旅行に来ているという気持ちがあるのでそこまで疲れは感じていないが、実際は違うだろう。明日のためにもここでリラックスしておこう。


 決めた時間よりも早く出てきてしまった。結局温泉の熱さにやられて、すぐに出てしまった。休憩所に設置してある、ウォーターサーバーの水をコップに注ぎ彼女を待った。

 水を飲み、ぼーっとしていると渚が出てきた。今日は、彼女のいろいろな服装を見てきたが、少し濡れた髪も相まって今着ている浴衣が一番似合っているのではないかと思う。

 「お待たせ。大地君早くない。まだ時間あるのに。」

 ただのぼせてすぐに出てきたというと、渚はけらけらと笑った。渚にも水を一杯渡し、今日の観光の話をしながら、少し休憩をした。


 夕食をすまし、部屋に戻ってきた。時計が十一時を回ったころ僕たちは布団を二枚敷き、横になりながら、話をしていた。

 「いやー、布団最高だね。てか今日の夜ごはんおいしかったね。あのお肉、脂すごかった。」

 僕も驚いた。あんなにおいしいお肉は食べたことが無かった。テレビでよく、「口で溶けた」とよく表現されるが、本当にあの表現であっていた。

 「そういえば渚ね、今日すごく楽しみで、昨日なかなか眠れなかったんだよ。」

あいにく僕も同じだ。

 「それで眠るのが遅くなっちゃって、今日ママに起こしてもらっちゃった。」

 なんとかわいいエピソードだ。今度から起こしてほしいときは僕に電話するようにと冗談交じりで渚に言った。彼女は笑いながら僕に言った。

 「ありがとね。ほんと大地君ってまじめだよね。ちゃんと働いてるし。おまけに一人暮らしでしょ。ほんとしっかりしてる。私すぐ仕事辞めちゃったし、実家暮らしで家事も何にもしてない。料理もできないしさ。」

 僕は自分のことをまじめだともしっかりしているともあまり思わないが、彼女が僕のことをこんな風に見てくれていると思うとうれしい。正直彼女は欠点ばかりだと思う。いつからだろう。そんな彼女を僕が支えてあげたいと思い始めたのは。

 「てか、電話じゃなくて直接起こしてよ。」

 どうやって起こすんだよ。朝渚の家に行くとか。反射的にツッコミを入れた。彼女は僕を見つめている。何かいけないことを言ってしまったのではと思うが、僕に心当たりは全くなかった。直接起こすとはどういうことか。その意味が最初は分からなかったが、理解した時、僕はとても嬉しかった。



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