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お酒と和菓子でおもてなし? ~鬼の次期頭首様は誑し上手~  作者: 小花衣いろは
第一部 覚醒

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第二十一話 陰陽師の使命



 廃屋敷の捜索を行った翌朝。

 妖怪研究同好会のメンバーは、朔夜の机を囲むようにして集まっていた。そこには、隣のクラスである真白と時雨の姿もある。


「朔夜くん、昨日は大丈夫だったかい?」

「うん、大丈夫だよ。あの妖の子は、手当てをしてあげたら家に帰っていったんだ」


 朔夜の身を案じていたらしい瑞樹と蛍は、その言葉にホッと安心したように微笑んだ。


「そ、そうなんだね……帰っちゃったのは、ちょっと残念だけど……朔夜くんが何ともなかったなら、よ、よかったよ……」


 蛍は朔夜と話しながらも、その視線は、チラチラと別の方向に向けられている。視線の向く先は、横で黙って話を聞いている葵だった。


 何か自分に言いたいことがあるのだろうとは察しながらも、自ら声を掛けることはしない葵であったが――とうとう痺れを切らして、蛍に顔を向ける。


「月見くん、私に何か言いたいことでもあるの?」

「ぅえっ!? あ、その、えっと……!」


 蛍はあからさまに動揺した様子で視線を彷徨わせていたが、意を決した様子で、その顔を葵に向ける。


「そ、その……東雲さん、昨日自分のことを、陰陽師の末裔だって言っていたけど……よ、よければ、詳しい話を聞きたいなって、思ってて……」


 陰陽師とは、特に平安時代辺りに活躍していたと言われており、霊的能力を駆使して吉凶などを占っていた者のことを指す。

 物語上では、人に仇なす悪しき妖怪を退治するような描写が描かれていることもあるため、昨夜妖怪と対峙していた葵を見て、蛍は陰陽師への興味を膨らませていたのだ。


「確か陰陽師って、江戸時代末期から明治時代頃に廃止されたんじゃなかったかい?」

「えぇ、そうよ。一之瀬くん、よく知ってるわね」

「ふっ、まぁね。最近は妖怪関連の本を借りて少し勉強しているからかな」


 褒められて気をよくしたらしい瑞樹が得意げに笑う。


「そうね……確かに現代の世では、陰陽師は表立って活躍はしていないわ。でも、貴方達も目にしたように……人の理解を超えた不思議な現象や、不気味な存在として畏怖されてきたもの――妖怪の類は、この世に確かに存在している。それを影で使役したり葬ったりすることが、陰陽師の家系に生まれた者の使命なの」


 葵は、ぽややんとした顔で話を聞いている朔夜にチラリと視線を向けながら、話を続ける。


「昔は妖怪を信じる人も多かったけど、今は妖怪の存在を信じていない人の方が、むしろ多いでしょう? それと比例するように、陰陽師も表舞台から消えて、日陰に活動を移した。それだけの話なの」

「そ、そっか……それじゃあ東雲さんは、これまで色々な妖怪を目にしてきたってことだよね?」

「まぁ……そういうことになるかな」


 目を輝かせた蛍は、自分のまだ知らない、未知なる妖怪の話を聞けるかもしれないと、期待に心躍らせている様子だ。


「陰陽師の東雲さんが味方だなんて、凄く心強いじゃないか!」


 瑞樹の大きな声が聞こえたらしいクラスメイト達が「陰陽師?」と首を傾げている。


「み、瑞樹くん、ちょっと声が大きいよ……!」

「あ、あぁ。すまないね」


 蛍に窘められて瑞樹は声量を落としたが、葵は気にしていないような顔で小さく頭を振る。


「別に隠しているわけじゃないから、構わないわ」


 その言葉に蛍はホッと安堵の息を漏らしながらも、先ほどから一言も発さずに静かな朔夜に目を向けた。


「さ、朔夜くん、どうかした?」

「……っ、え?」

「あ、あの、何だか元気がないのかなって、心配になって……」

「ううん、そんなことないよ! ……心配してくれてありがとう、蛍くん」

「う、うん。それならいいんだけど……」


 笑顔の朔夜を見て、蛍もようやく安心したように微笑む。

 そこで、始業開始五分前のチャイムが鳴りひびいた。


「あ、そろそろ席に着かないとだね」

「それじゃあボクたちも戻ろうか。真白くん、行こう」

「……うっせぇ。俺に触んじゃねーよ」

「あはは、真白くんは今日もツンデレ絶好調だねぇ」


 クラスが違う時雨と真白は、言い合いをしながら教室を出ていった。


 朔夜は自分の席に戻っていった葵の後ろ姿をぼうっと見つめながら、考える。


「(妖怪を滅することが使命、かぁ……。やっぱり、陰陽師と妖怪って、昔から仲が悪かったのかな? 陰陽師の人たちにとっては、妖怪は絶対悪の存在で……人と妖が分かり合うことはできなかったのかな?)」


 組の妖たちの姿や、昨夜出会った妖狐の少女の微笑み、そして……朔夜の両親である大妖怪の酒吞童子と、人間である椿が共に笑い合っていた姿を思い出しながら――憂いを帯びたまなざしで、ピンと背筋の伸びた綺麗な後ろ姿を見つめたのだった。



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