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8 初めての夜

 翌日。昼。

 婚礼の儀は慎ましやかに行われた。

 王と王妃、立会人の執事長、侍女、料理長、守衛数人だけの式。

 本来なら国を挙げて執り行うものだし、国内の貴族や異国の王族も出席するもの。

 しかしその誰一人としてそこには存在しなかった。

 純白のドレスに身を包み笑みを浮かべながらも、シリカは冷静に状況を見極める。

 国交もほとんどなく、異国からは国益も望めないと見捨てられ、果ては教団の言いなりとなるしかできない。

 これが我が国、ロンダリアの現実なのだと。


 しかしシリカは絶望しない。

 むしろ、とくんとくんと鼓動が高鳴った。

 そんなシリカの横顔を、ヴィルヘルムは見ていた。

 僅かに目を伏せ、表情を険しくする。

 微笑む顔と厳めしい顔。

 シリカとヴィルヘルムは真反対の表情を浮かべていた。


   ●〇●〇●〇●〇


「ど、どど、どうしましょう!」


 昼間の堂々とした態度とは打って変わり、シリカは動揺し、部屋内を行ったり来たりしていた。

 すでに夜半時。外は暗闇に覆われ、就寝時間だとこれみよがしに主張していた。

 式を終えたのは夕刻前。

 食事と沐浴を終え、寝巻に着替えて、さあ休もうと思った時のことだった。

 結婚式の夜。夫婦は何をするかとふと考えてしまったのだ。

 言わずもがな初夜である。

 とんとん拍子で事が進むものだから、深く考えなかったが、伴侶となれば当然すべきこと。

 特に相手が王ともなれば世継ぎが重要だ。

 お子は必須、なれば必然的に……。


「あああああああ!!! 忘れてたわ……いえ、結婚するのだから当たり前だし、なぜ忘れてたのか自分でも不思議なのだけれど!!!」


 ベッドの上で頭を抱えて、大声で独り言を漏らす程度には、混乱しているらしい。

 ばたばたと足を動かし、心の叫びをかき消そうとする。


「落ち着いて、落ち着くのよ……すーはーすーはー。よし、落ち着いた!」


 深呼吸をするだけで本当に少しだけ落ち着いた。

 単純な娘である。


(この機会に乗じて考えるのよ、シリカ!)


 まず王であるヴィルヘルムが、王妃であるシリカの部屋に来るということはないだろう。

 お声がかかり、王の寝室へと赴くことになるはずである。

 殿方の部屋へ行く、と考えるとシリカは急に恥ずかしくなってきた。

 顔どころか全身が熱を発しているように感じる。

 聖女として働き続けていたため、当然そういった経験はない。

 それどころか異性と交際したことも、むしろ恋をしたことさえない。

 聖女は激務であるため、必死に働くことしかできなかった。


 ドキドキという音が鼓膜に伝わる。

 こんなに緊張したのは、聖女になった初日くらいだろう。

 しかし結婚とはそういうもの。

 覚悟を決めるも何もないのだ。

 受け入れるなら好意的に考えた方がいい。

 そもそも別に陛下を嫌っているわけでもない。

 むしろ、ほとんど知らないので好きも嫌いもないのだが。

 こうなったらなるようになれ、だ。


 シリカはぐっと唇を引き絞り、扉を凝視した。

 いつ扉が叩かれるかわからない。

 ああ、どうせなら早く来て欲しいと願わずにはいられない。

 早く。早く。早く……!

 そんな思いのまま、シリカはじっと時を待った。


 だが。

 その瞬間は一向に来なかった。

 十分、二十分、三十分……一時間が経過しても、まだ来なかった。

 最初は緊張していたシリカだったが、段々落ち着いて、最終的に頬を引きつらせ始めた。

 そして万感の思いを込めて叫んだ。


「お声、かからず!」


 両手で顔を覆い、耳まで真っ赤になるシリカ。

 シリカも自覚していた。

 すべては空回っていたということを。


「期待していたわけではないけれど! 別に望んでいたわけでもないけれど! 何? 何なの!? 何なのもおおおおっ!!!」


 ぼすぼすと枕を叩いて感情をどうにか発散させる。


「はぁ……寝ましょ」


 ため息を漏らして枕に顔を埋めた。

 今日は疲れた。ゆっくり休んで、明日から頑張ろう。

 陛下のこと、お国のこと、国民のこと、そして自分のこと。

 それを少しずつ知っていく。

 そしていつか……みんなが今よりも幸せになれたらどんなにいいだろう。

 自分も含め全員が、今はとても幸福な状態だとは思えない。

 自分にできることがあるのかはわからない。

 けれど、頑張ろう。

 そう決意して、シリカは意識を手放した。

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