第27話 浜松に降臨
編集に集中していると、あっという間に浜松に到着した。
「おー、思った以上に栄えてるなー、浜松」
駅前に聳え立つ、ハーモニカを連想させる高層ビルを見上げながら俺は言う。
「県庁所在地の静岡よりも人口が多いらしいわね。都会度で言うと、どっちが……」
「その話題ストップ。炎上する」
同規模の都市同士のどっちが都会か対決は、突いてはいけない禁忌領域だ。
荷物をコインロッカーにぶち込んだ後、さわやかへ向かう。
目的の店は駅前の百貨店のレストラン街にあった。
「すごい人気ね」
時刻は11時半ごろ。
お昼時には速い時間だが、店前にはすでに行列ができていた。
「行列は得意派? ちなみに俺は平気派」
「行列に並ぶという経験をした事がないから、わからないわ」
「へえ。そもそもお店でご飯を食べないとか?」
「家政婦さんがいつも作ってくれてたから、基本、外食はしないわね」
「まさかのブルジョワだった」
「ブルジョワかどうかはわからないけれど、金銭面では裕福な家庭だったと思うわ」
特段、驚きはなかった。
七瀬は、英才教育を施された良い所出のお嬢様と言われても遜色ない雰囲気を纏っている。
そもそも今回の旅費もだいぶ使っているはずなのに平気な顔をしているから、やっぱり家がお金持ちなんだろう。
そういえば、七瀬の家庭的な情報を聞くのはこれが初めてかもしれない。
意識的に聞かないようにしていた、というのはあったが。
「行列の件だけど、私の性格を客観的に分析するにただ列に並ぶというなんの生産性のない行為が精神的に健全かと聞かれると、あまり健全ではない気はしてて」
「よし、とりあえず並ぼうか」
「あ、ちょっと……」
つらつらと理屈を並べる七瀬の傍ら、俺はさっさと名前を記入して並び椅子に座る。
「私の意思をガン無視するなんて、いい度胸ね」
ジトーと非難の目線を投げかけてくる七瀬に、俺は言う。
「経験をしたことがないなら、とりあえず経験してみようや。意外と、やってみたら悪くないかもしれないぞ」
「何もしないでぼーっとするなんて、悪くなる可能性しか浮かばないんだけれど」
ダラダラSNSを眺める習慣がない七瀬には、手持ち無沙汰になってしまうのだろう。
「よし、それじゃあ行列に並んでいる時のおすすめの時間の潰し方を伝授しよう」
「無益な情報を流し込むのはしない主義だって言わなかったかしら?」
「まあまあ落ち着け。まず、ヨーチューブを開くだろ?」
「ヨッシーチャンネルとやらはもう間に合ってるわ」
「いや、ヨッシーさんの方じゃないから。いいから、騙されたと思って開いてみ」
「むう……絶対ロクなことじゃない」
ぶつくさ言いながらも、ちゃんとやってくれるあたり根は素直だよなあと思う。
「開いたわ」
「よし、その次に『さわやか ハンバーグ』で検索してくれ」
「有象無象のグルメ系ヨーチューバーの動画が出てきたけど」
「有象無象言うな。肉類のお店なら、肉汁TVか、あっくんの外飲みグルメあたりの動画がおすすめだな」
「さっきから高橋くんは、私に何をさせようとしているの?」
怪しい自己啓発本でも読んでいるかのような七瀬に、俺はドヤ顔で告げる。
「行列に並んでいる間、その店のレビュー動画をひたすら見続けるんだ。そしたら、食欲と期待値が極限まで上昇して、行列中でもワクワク感を楽しめる!」
七瀬が胡散臭い宗教が訪ねてきたような反応をする。
「無意味な時間を過ごす未来しか見えないんだけど」
「まあまあやってみ。グルメレビュー動画、意外とクセになるぞ」
「しつこいわね。そんな無生産な動画、この私がハマるわけないじゃない」
20分後。
「……あの、七瀬?」
「話しかけないで、もうすぐ実食シーンなんだから」
どハマりしていた。
ぶっちゃけ視聴開始20秒くらいで「くだらないわね」と唾棄されるものかと思っていたから、驚く。
意外にも、七瀬はエンタメに対するハードルが低いのかもしれない。
「2名でお待ちの高橋様〜」
呼ばれるなり、七瀬が俺よりも早く立ち上がった。
「高橋くん、決戦よ」
「ノリノリだな……」
俺よりもハンバーグを楽しみにし始めた七瀬の先導で入店した。
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「続きが気になる!」
「意外と七瀬、単純……?」
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