第18話 無事(?)到着
1時間後、無事(?)、ふわふわパンケーキ号は、目的地に到着した。
駐車場に停まるなり、俺と七瀬は車を飛び出し全力疾走でトイレに駆け込んだ。
個室に飛び込むや否や胃袋から便器へ虹を掛ける。
今まで経験した事のないレベルの車酔いだオロロロ。
三半規管が上下左右に揺らされまくってボロボロだ。
ちくしょうめ、ドリフトなんて二度と御免だ。
アドレナリンどばどばでハイになっていた気分をまとめて水に流す。
「いやー! 最高のドライブだったわー!」
車に戻ると、瑠花さんが「ん〜〜」と両腕で伸びをしながら気持ち良さそうにしていた。
この人はきっとエイリアンの三半規管を持っているに違いない。
「し、死ぬかと思ったわ……」
七瀬が胃腸炎を患ったような顔で戻ってきた。
「水、いる?」
「いただくわ」
新しい水を渡す。
力無く、七瀬は水で喉を潤した。
「どしたのりっちゃん? 胃腸炎にでもかかった?」
「衝動的にこの水ぶっかけてやりたくなったわ」
「ダメだよりっちゃんそんなことしたら! 貴重な資源は大事にしないと!」
「あんだけ排気ガス出しておいてどの口が言うのよ」
「何言ってるのりっちゃん? 口は一つしかないよ? ……はっ!! まさかりっちゃん、下の口の事を……」
「その上の口を今すぐ閉じないと、このペットボトルみたいにするわよ」
めきめきぃと、七瀬の手の中でペットボトルがひしゃげる。
「ひぃっ!?」
ささっと、瑠花さんが俺の背後に隠れてきた。
「でもでもっ、楽しかったでしょっ? スリル満点の峠ドライブ!」
「七瀬のあの反応を見てよくそんなこと言えるね」
どうやら瑠花さんの目には都合の良い世界しか映っていないらしい。
「……まあ、そうね」
……お?
七瀬の返答は意外なものだった。
「スリルは満点通り越して危険な領域に踏み込んでいたけれど……とても新鮮な体験で、楽しかった事は確かよ」
心なしか悔しげに、七瀬は言った。
その時、俺は思った。
たぶん彼女は、自分に嘘をつけないタイプなんだろう。
楽しい事は楽しい、楽しくない事は楽しくない。
他者の意思を鑑みる事はなく、自分の感じた事を率直に口にする。
それは時として他者との軋轢を生むが、裏を返すと自分の芯をしっかりと持っていてブレないという魅力でもあった。
七瀬の本音から出た『楽しかった』を聞いて、俺は嬉しい気持ちになった。
「でしょーでしょー!?」
瑠花さんも嬉しそうにうんうんと頷く。
「帰りは別ルートにもっといいカーブがあるから、楽しみにし」
「またあの運転をしたら二度と外を出歩けない身体にするわよ?」
「安全運転に努めます!」
七瀬からただならぬ般若の気配を感じ取った瑠花さんが光速で頭を下げた。
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