あなたに今後もお願いします
フィッツはニーナの取り澄ました顔を見つめ、幼い子供にどうして生意気な事を言われても気分が華やぐだけでイラつきもしないのかと考えた。
彼は幼いリュカを可愛いと遊んであげても、あまり長時間では「子供にうんざり」してしまうのであり、そこでいつも自分はやっぱりあのエミールの血を引いているのだと自分に認めてはうんざりもしているのである。
フィッツはエミールに似て父性愛が無いらしい自分では、絶対に結婚などには適さないだろうとも考えている。
ただし今日はニーナの顔を見ている事で思考が後ろ向きにならなかったからか、シンディという若い母のお陰で自分には第二第三のスペアという弟が出来る未来を思いついた。
弟というスペアが出来れば、自分はこのまま気ままに過ごせて、結婚に育児という苦行に手を染めないでいられるのではないかという未来だ。
すると、シンディの結婚報告を聞いてから初めて気分が軽くなった。
「シンディを祝ってあげたいね。さっさと僕に弟を授けてくださいお願いしますって気持ちだな。」
「あなたは何を言い出されるの。」
「いやあ、聞いてよ。弟がいれば、僕が子孫など残さなくともダラダラ生きていいって環境になるって事じゃ無いの。最高でしょう?結婚おめでとう、だね。」
「あなた!しっかりなさって!エミールとシンディの子供だとしたら、責任ある領主様どころか、成長過程であなたに色々と面倒をかける方が確実なんじゃなくて?ここは妹しか生まれないことを望むべきよ。妹だったら、面倒になったそこで誰かに押し付けられるじゃ無いの。」
「――君は本当に九歳なの?百歳のやり手ババアじゃないよね?」
「失礼な!」
ニーナは腕を組んでフィッツを睨みつけた。
けれどフィッツはその視線を受けて嬉しそうに微笑んだ。
「君との会話は楽しいな。ずっと僕の傍にいてって思っちゃうね。時々とっても意地悪で僕が泣きたくなる時もあるけどね。」
「ふうん?」
ニーナはもう少しフィッツには意地悪でも良いかな、と考えた。
ニーナは自分が大人になったその時には、フィッツが別の女性を愛して子供までいるはずだと、つまり、自分の前から確実に消え去る人間だと少々の喪失感を持って確信もしているのである。
それなのに、ニーナの成長を待つなんて言って、フィッツは彼女に期待などさせてもいるのだ。
――ずっと僕の傍にいて欲しい。
フィッツの数十秒前の言葉が脳裏に蘇ったことで、フォルスに相棒扱いされるのが楽しかったから、そんな感じでフィッツに相棒扱いされる立場でいるのはどうかしら?とニーナは思いついた。
「ねえ、フィッツ。わたくしがあなたの結婚相手を裁定して差し上げても良くてよ。あなたがお望みなら、最高の女性になるようにと、わたくしが指導して差し上げますわ。」
フィッツの馬鹿笑いが再び居間に響いた。
「ねえ、君?九歳児が大人の女性をどうやって指導できるのかな?」
ニーナは誇り高そうに顎をあげた。
「クラウディアは古めかしい鎧を脱ぎ捨てられましてよ、少佐様?」
フィッツは「お頼み申します!」と叫び、そしてこの世の憂さが晴れるぐらいの大声で笑いながら、この小さな女の子に好きになった相手が出来たその時には、その男が最高であるかきちんと見極めてやると心に誓った。
駄目な男だったら許しはしない、とも。




