女の子は恋をするもの
ホテルから戻ったシンディはかなり浮かれており、お酒に酔ったかのように結婚するのだと宣言した。
クラウディアとミアは結婚という言葉に歓声を上げ、ドレスや花などどうするかと騒ぎながらシンディを囲んだ。
そして彼女達はそのまま女だけの話し合いだと、広い居間を出てピアノのあるサロンの方へと移動していったのである。
ニーナもその騒ぎに乗って一緒に居間を出ていくべきなのだろうが、その騒ぎに乗ることがなぜかためらわれ、その気持ちこそどうした事かとニーナはフィッツの顔を思わず見つめてしまった。
居間の暖炉近くの安楽椅子に沈みこむようにしてフィッツは座っていたが、彼の表情に落ち込みも傷ついたところも無い事にニーナはほっとした。
けれど、フィッツがあまりにもすました顔をしている事に違和感を感じた。
彼女はぶらぶらと歩いてフィッツに近づき、彼の真正面に立って見せた。
「よろしくて?あなたのお母様になるらしいわよ、シンディが。」
「ああ、それで君は結婚話に乗り気じゃないんだ。そうだね、シンディが君の未来のお母様になっちゃうかもだものね。」
「あら、いやだ。残念なお母様をお持ちの方は、そもそもわたくしの伴侶の候補にはなり得ないと思いますわよ。」
「――それは君のお兄様の裁定なのかな。」
「わたくしの、です。なさぬ仲の若き母と道ならぬ恋をしそうな男性は、ええ、最初からわたくしの恋愛対象者にはなり得ませんの。」
ぶはっ。
フィッツはフォルスとふざけている時のように大笑いをし始め、ニーナの頭をぐしゃぐしゃと大きく撫でた。
「君は本当に憎たらしくて可愛いよ。僕はね、君がいいな。そしてね、僕は親父と違いまして恋をした人には一途ですから、浮気など一切しないと誓うことができます。とりあえず、十年後の君に恋をした時にはね。」
「まあ!それを聞いてほっとしましたわ!あなたに待たれたらわたくしこそ素晴らしき男性に出会う機会を失う所でしたもの。」
「ああ!ほんっとに憎たらしいお姫様だ。僕は意外と人気者なのにね。」
フィッツはふざけながらも少々寂しそうな声を出したので、ニーナはほんの少しだけ自分が意地悪すぎたのかもと反省した。
ほんの少しだけ。
幼い女の子だろうが、女の子は恋をするものだ。
それは憧れだけなのかもしれないが、ずっと年上の男性に女の子達が騒ぎ立てる事などよくあることでもあるのだ。
ニーナはそう考えている。
だから、フィッツに憧れるのも何の間違いもない事だと。
彼は社交界どころか子供の世界においても、戦場を駆け抜ける金色の格好の良い少佐だと憧れの存在ではないか、と。
ニーナは兄であるフォルスに絶大な憧れを抱いているが、フォルスはニーナにとっては父であり兄であろうとしてくれるので絶対に消えてしまわない存在だ。
では、フィッツは?
ニーナは考えるまでもないと笑顔のまま心の中で溜息を吐いた。
肉親どころかニーナの友人でもない彼は、いつかはニーナの目の前から去る予定の男性でしかないじゃないか、と。




