これが失恋という痛手?
フィッツは自分の胸のうちがむかむかとしている事が解せなかった。
海辺で拾ったことで自分に課せられた、自分の未来への重荷でしか無かったシンディ。
彼女との結婚などフィッツ自身考えてもおらず、ましてや、このラバーナに彼女を連れて来た事は彼女に自分以外の良き結婚を薦める目的でしかない。
それなのに喪失感らしきものを感じるのは、あの恥知らずな海千山千の男に純粋なシンディを置いて来たことで良心が痛むのか?と自問した。
そこで、シンディとの結婚をニーナが自分に薦めて来た本来の理由を彼は思い出したのだ。
「あ、永住権の為の結婚!あの馬鹿男じゃやり捨てだけじゃないか!」
フィッツはニーナを抱きしめ直すと、ホテルのエントランスを出たばかりでありながら、くるりと身を翻して再びホテルホールの中を駆けていた。
「きゃあ!フィッツったら!」
「ごめん!君を置いて行ったら、僕の脳みそが動かなくなった時に進退窮まる。お願いだからもう少しだけ大人の汚い世界を体験してくれるかな?」
「シンディがここに住めなくなっても、フローディアに強制送還される事になっても、それはシンディの選んだ事だと思うわよ。」
ニーナの言葉にフィッツは足を止め、自分の腕の中の陶器人形のような少女を見返し、彼女が幼女の姿をしているだけの百歳の魔女に違いないと考えた。
「君は!」
「わたくし達はシンディの為に手を尽くしたわ。そうじゃなくて?彼女こそこの先の人生を失っても、あなたのお父様を選んだのでは無くて?」
フィッツはニーナを抱く腕を緩めた。




