ニーナの愛する青年達
ニーナを腕に抱いたフィッツは二人の世界にいるシンディとエミールを指し示したが、ニーナはフィッツに対して肩を竦めただけだった。
「と、言う事なんだよ。僕が目の前にいて二人の世界だよ。ニーナ、僕はどうしたらいいと思う?」
「犯罪者は捕らえてあるし、その証拠もあるのだもの。帰りましょうよ。」
「冷たいなあ、君は。僕に結婚を散々に薦めて置いてさ。」
フィッツはぶうぶう言いながら音楽室を出ようと踵を返したが、その背中の布地はベルボーイの格好をした親友に掴まれた。
「何?」
「俺は君のお父さんに話があるんだけど。」
ニーナはフォルスの眼つきが尋常じゃないなと気が付いた。
フォルスは姉と引き離されてこの詐欺事件の収束に駆り出されてしまったのに、このままじゃ無駄足でしか無いだろうと怒っているのであろう。
「ねえ、大事な父親でしょう。昨夜にアデール伯爵夫人の詐欺賭博が明るみに出たんでしょう。彼女に土地の権利書を奪われた人達が返還の訴えを起こしているじゃ無いの。このまんまじゃ、その詐欺の親と見做されて身の破滅じゃ無いの?君のお父さん。」
結局はフォルスはフィッツを心配しているだけかとニーナは安心したが、当のフィッツは他人事のような顔をして前髪をかき上げただけだった。
「フィッツ。」
「俺には大事な親父じゃないから、君のいいように事を運んでいいよ。」
「全く。君が継ぐ家でしょう。破産したらどうするの?」
「親父を債務者用の刑務所に入れればお終いでしょう。いいよ。」
「……そうか。じゃあ、俺も帰る。大事な書類は手に入ったし。」
フォルスは引き摺って来た若者を絨毯に投げだし、ついでに気絶している女性の両腕を後ろ手にも縛った。
「さすが、中将様。血も涙もない片付け魔。いや、わが父に恩情ありがとう、なのかな。」
「お片づけはきちんとしましょうってのが、我がリーブス様の教えなだけ。事件があったら解決しましょう、までは言われてないから、ここまでしかしないけどね。」
「御足労ありがとうございます、ですよ。」
「じゃあ、あの家もう少し負けて。」
「やーだね。」




