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フォルスはニーナの守り人

 オーギュストは銃をフォルスに向け、それも銃口をフォルスのこめかみに当ててきたことで、ニーナはひゅうっと恐怖の吐息を吸い込んだ。


「静かにしろ。お前らのせいで全部おじゃんだ。俺達が二年もかけて作り上げた計画が全部おじゃんだ。まあ、今のところは証拠が無い。ここの間抜けな伯爵さまが詐欺に遭ったと首を括るだけだろうね。」


「そんな事にはならないどころか、君達が罠に嵌めた御仁はね、軍人の俺でさえ脅えて漏らしてしまう怖いお人なんだよ。知っていた?」


「何を、このベルボーイがって、ぎゃああ!」


 フォルスは銃口を掴むやひねり上げてオーギュストの指を折り、そのままオーギュストを床に押し付けたのである。


「証拠もないなら逃げればいいものを、犯罪証拠があると言っているも同じじゃないか。確かに、たった一枚の権利書だけは隠しようのない犯罪の証拠になるからね。」


 ニーナは自分が持っている権利書の事だと大事にそれを抱え直し、そして、ニーナがこの部屋に連れて来られたのは聞かされていたのとは違う理由ではないのかとフォルスを見上げた。

 フォルスはニーナに片眼を瞑って見せると、オーギュストを荷物袋のようにして肩に担いだ。


「お兄様?」


「音楽大学こそ詐欺って事だよ。歩きながら教えてあげる。」


「教えて下さるのは嬉しいですけど、まだ九歳の私が大人の汚い所を知ってもよろしくて?」


「うーん。父親がろくでもないって君が知っていた方がいいでしょう。君の大好きなフィッツの事は君はなんだって知りたいんじゃ無いの?」


「私はお兄様の方が好きですわよ。」


 フォルスは哀れな男を床にどさっと落とし、がばっという勢いでニーナを抱きしめた。


「ああ、可愛い。俺は絶対に君を守る。ミアと君は俺の宝物だ!ぜったいにぜったいに君を最高の男に嫁入りさせてやる!」


「お兄様。その最高の男をわたくしが恋しなかったらどうなさるの?」


「そんなの君。君が恋をした男が最高の男になるように、俺がきちんと仕込んでやるって話じゃないか。俺は中将様だよ。管理職。人材を育てるのは仕事の一環だから安心してくれ。」


「そうね。どうしようもない人は闇夜に葬ってしまえる軍人様でしたわね。」


「君は本当に憎たらしくて可愛いよ。」


 フォルスはニーナをさらに強く抱きしめ、ニーナはフォルスを抱き締め返していた。

 どうしてフォルスが暴力を人に振るったところを見ても、自分は決して死んだ父の暴力を思い出さないのだろうと不思議に思いながら。

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